何気ない日常2
「私が行きたいって言ったのにご馳走になっちゃっていいんですか?昨夜だって・・・」
「いいよ、俺は金に困ってないし昨日のはディアのおっちゃんの奢りだ。ウェスタもだがミーシャも前のパーティーで正当な待遇は受けてないだろう?報酬も一部抜き取られていたそうじゃないか。なら今は堅実に貯金して行くのがベストだ」
そう言うと渋々といった感じだが引き下がった。これは私情ではなく事実だ。俺はある程度稼いでいる。気まぐれで食事を奢るくらいはなんてことない。ラウルやウェスタ相手にも同じことをする。それに食事中に聞いたことによるとホームは冒険者向けの宿を借りているそうだ。正直ホームなんて安いものなら30万Gあれば買える。宿が1万円なら確実に貯金してホームを買うほうがいい。
「そしたら私がホームを買って余裕ができたらご馳走させてくださいね!」
「おう、のんびり待ってるよ。とりあえずこの後は装備だったな。ちなみに見てくれる鍛冶師とか職人さんっている?」
「いないです、弓も冒険者登録したときに渡された初心者用のままです」
「そしたら俺と交流がある奴らのとこに行こう。装備は軽装、弓は買い換えよう。金はいいから」
「そんなっ!申し訳ないですよ!」
「まあ大丈夫だから、さあ行こう」
●
「クロさん、ここは?」
「弓と魔法使い向けの杖を売ってる店だ。軽装の鎖帷子とか魔道具のアクセサリーなんかも売ってる。とりあえず入ろうか」
店に入ると木材を基調とした室内が見受けられる。そこら中に杖や弓、軽装具に魔道具が置いてある
「これ全部売り物なんですか?いっぱいですね」
「これはこれは若いお嬢さんが来てくれた・・・ってクロさんじゃないか。女の子連れなんてこれはどういうことだい?」
「やあアルさん。パーティーメンバーを連れてきたんだ」
「み、ミーシャです、今日は弓と軽装具を買いたくて来ました!」
この人はアルさんと言って木工師をしている初老のお婆さんだ。俺の弓はここで作ってもらった。
「なるほどねえ・・・初心者用のギルド弓に防具なしか。クロさん予算はどれくらいだい?」
「決めてない、任せるよ」
「そうかい、ならオーダーメイドで行こうかね」
「オーダーメイド!?クロさん私そんなの受け取れません!」
「でもその装備のままじゃ危険だ。いつ弓が壊れてもおかしくない。それに防具は大事だ」
「だったら既製品でも・・・」
「確かにアルさんの装備なら既製品でも十分だ。でもオーダーメイド品は量産された既製品以上に性能も質もいい。受け取ってくれ。それにラウルとウェスタの分もこの後鍛冶屋に頼みに行くから安心してくれ」
「全然安心できないんですが・・・でもクロさんの意志は固そうなので仕方ないですね・・・」
「話は済んだね、そしたらどんな弓にするかだ。まず長弓と短弓どっちにする?」
「長弓と短弓の中間ってありますか?」
「あるよ、クロさんと同じだね」
「こんな偶然あるんだな、ちなみにサイズはこんなもんだがどうだ?」
ミーシャが試しに俺の弓を持ち、引いて見せる。
「丁度いいですね、大きさはこれでお願いします」
「はいよ、見た目とエンチャントはどうする?」
「エンチャント・・・?」
「魔道具に付ける魔法をエンチャントっていうんだ。武器にも付けられる。剣だと攻撃力を増加する魔法、盾だと強度を上げる魔法とかがある。付けられるのは基本1つまでだな。だが今回は2つ付けられる」
俺はアルさんに素材を渡す。それを見たアルさんは少し驚いたような顔をする。
「クロさんそれは?」
「デビルツリーの枝にスカルシルクワームの糸・・・現時点の最高級素材だね?ダンジョン攻略最前線の人間が持ち帰ってきてオークションに掛けられてるのを見たことがある。クロさんあんた・・・」
「最前線・・・クロさんまさか行ったことあるんですか?」
2人から疑いの目を向けられる。がそんな大したことはしていない。
「行ったことはある。最前線の人間、攻略組のパーティーについていって一緒に狩ったんだ。そのときにもらっただけさ」
「クロさんそれはだけじゃないですよ!凄いです!」
「そうだねえ・・・クロさんや、この話だが金は受け取れないよ」
「それはこの依頼を蹴るということですか?」
「そうじゃないさ、ただこんなに高価な素材を渡されて金までもらえないってだけさ。むしろこの量の材料があればお嬢さんの弓を作っても武器2個分くらいは余る。大きな売り上げになるから材料代を入荷費で渡さないといけないくらいさね」
「なるほどな、それなら気にしなくていい。いつも弓と魔道具のメンテナンスをしてもらってるからね」
「・・・そうかい、ならせめてそこの楔帷子と魔道具を一つ、好きなのを持っていきな」
「そうさせてもらうよ、ありがとうアルさん」
「あの・・・ありがとうございますアルさん。あとすみません、エンチャントが思いつかないんですがどうしたらいいですかね?」
「エンチャントならあとから付けられるから後でもいいさ。その様子だと見た目、デザインも思いついてなさそうだね?」
「はい・・・」
「ならあたしがお嬢さんに合いそうなのを作るよ、それでいいかい?」
「はい!お願いします!」
「それではアルさん頼みました。あと鎖帷子とこの『魔力注入防御』のブレスレットをもらっていきます」
「一番いいのを選んだねクロさん。流石見る目があるよ。弓は1週間後完成予定だ。その時に来てくれ」
「了解しました、それじゃあ行こうミーシャ」
「ありがとうございました!よろしくお願いします!」
「お嬢さんや、クロさんをよろしく頼んだよ」
「?はい!失礼します!」
「ふっ・・・余計なお世話だよアルさん。それでは」
店を出るとまだ日が高い。だが目的は達成した。
「ミーシャ今日は付き合ってくれてありがとう。明日もあるし今日は解散しよう」
「いえ!こちらこそなんとお礼を言ったらいいか…本当にありがとうございます!」
頷いて見せて歩き出すとミーシャが横に来て歩き始める。宿まではここから15分程度。ミーシャを送ったらウェスタとラウルの装備も注文しに行こう。全員オーダーメイドだ。初めてのパーティーメンバーが死んだら悲しいからな。俺にできることはしてやりたい。
「なんか考え事ですか?」
「いや大したことじゃないよ。ただひたすらに初めてできた仲間と呼べる存在の、幸せと長寿を願っただけ」
「ふふっなんですかそれっ…」
そう言って笑う彼女と不器用ながら楽しく会話をするのだった。




