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何気ない日常1

「ラウル、そっちにゴブリン行ったぞ」


「あいよっ!っと。今のでラストか」


「とりあえずこれでクエスト達成ですね。そういえばクロさん。どうしてまたゴブリンの角30個のクエストなんですか?Dランク向けの依頼で報酬が良いクエストありますよね?」


「あぁ、このクエストって本来角10個納品で報酬5000Gのクエストなんだよ。ただ最近は多くの冒険者が報酬の良いクエストに行くからゴブリンの角が王都で不足してるんだ。それでノルマが30個の報酬20000Gになって他のDランククエストと同等くらいだから受けてるんだ」


「そうなのか、昨日俺は何も知らずに受けてたわ」


「はえ~。でも角って何に使うんです?それに初心者冒険者は大体ゴブリン退治から始めますよね?不足するなんて・・・」


「確かに最近は初心者冒険者が増えてる。でも大体がある程度熟練した冒険者とパーティーを組む傾向にあるから最初から適正ランクで割の良いクエストを受けてるんだ。Eランクは基本街の掃除とか薬草採集、スライム狩りとか受ける。Dランクはモンスターを狩れるようになるけどゴブリンよりコボルトやオークを狩るほうが報酬が良いからそっちに行く。それ以上は言うまでもないな。ゴブリンの角はポーションの材料になるから結構重要なんだ。ちなみにソウネダケも採取エリアに行くのが面倒だからと受ける人が少なくて報酬が増えてる」


「おいクロ、お前何ミーシャちゃんと長々と喋ってるんだ・・・ずるいぞ」


 ダンジョンを出るため歩きながらのんびりと喋っているとラウルが忌々し気に俺を見てくる。ウェスタはラウルの首根っこを掴んで抑えてくれている。


(昨日の記念会でだいぶ馴染んだかな。2日目とは思えないくらいだ)


「ふっ・・・はは!」


「どうしたクロ急に笑い出して」


「おいクロきもいぞ!」


「ラウルさんが言いますかそれ・・・」


「いやこういう雰囲気でダンジョンに潜るのって長い間組んでるパーティーにしかできないと思ってたんだけどそんなことないんだなって思って。すごく楽しいからつい笑っちまった。そしてラウルお前だけには言われたくない」


 そんな感じで雑談しながら、でも警戒は怠らずに帰路につくのだった。



 俺たちは報酬を受け取り、ギルド前の広場にいる。時刻はまだ昼前だ。


「だいぶ早いけどどうする?今日は解散しとくか?」


「昼飯食いに行くのもありじゃね?」


「悪い俺は用事があるからパスだ」


「?おうまた明日な」


 ウェスタは背中を向けるとなにか急いでるようで、すぐに人混みに紛れ見えなくなってしまった。


「てっきりミーシャちゃんにべったりだと思ってたよ・・・」


「ウェスタもずっと一緒にいるわけじゃないですよ。まあ珍しいといえば珍しいですけど」


「そうか、俺らはどうするか」


 再び思考を巡らせようとしてふとラウルの顔を見てみると、何か予定を思い出したかのような素振りをした。


「悪い俺も予定思い出したから帰る!あとミーシャちゃんが心配だからクロは一緒にいてやれよ?あとダンジョンに潜るときミーシャちゃん防具着けてないでしょ?後衛とはいえ危ないから買ってきたらいいんじゃないかな?まあ俺が思いついたのはこんなもんかな?それじゃ!」


「えっあ!おい!急にどうしたんだあいつ・・・」


「行っちゃいましたね・・・」


 早口で言いたいこと言って走り去ったラウルの背中を見送る。まさかの2人きりの状況。どうしたもんかと考えているとミーシャが口を開く。


「あの、クロさんが良ければお買い物しに行きませんか?確かに装備はあったほうがいい気がします。もうすぐお昼ですし昼食もご一緒したいです。あと1人だと・・・えっと・・」


 少し怯えるような顔をして言い淀むミーシャを見て、真っ先にゴルダの顔が思い浮かんだ。ならば俺がすることは決まっている。


「じゃあ一緒に行動しようか」


すると一瞬暗くなった表情がパーッと明るくなった。


「まずは昼食かな、どこか行きたいところはある?」


「この近くに私の行きつけの食堂があるんです!よかったら行きませんか?」


「いいね、そしたら案内を頼むよ」


「はい!」


 そう言うと俺たちは歩き始める。自然と歩幅の狭いミーシャの速度に合わせることになるのだが、嫌な気はしない。遅ければ遅いだけこの時間が続く。人との関わりが多くない俺にとって初めてまともに関わる異性。たったそれだけの理由で、俺はこの時間に価値を感じていた。


「なあミーシャ、君は何でなんでも楽しそうに聞いてくれるんだ?」


「なんでも・・・あぁクロさんの話をですか」


「そうだ、正直冒険者って経験に身を任せる人間が多いんだ。ギルドの資料室を使う人間も少ない。だから俺みたいに座学のように長々と話す人間は煙たがられるんだ。なのになんで聞いてくれるのかなって」


「少し私のことをお話ししますね。私とウェスタは王都を囲ってる壁の外側のスラム村出身なんです。物心ついた時にはすでにそこで生活していたのでスラム村に来る前のことは覚えてません。スラム村では毎日の食べ物を得るのも大変でした。当然教育を受けられる場所もなかったです。私は15歳になって成人してすぐに冒険者になりました。つい3か月前のことです。冒険者になってすぐにゴルドさんたちにパーティーに誘われて入りました。結果はご存じのとおりです。えっとですね、結論から言うと私は勉強する機会に恵まれませんでした。でも私は知りたいです。この世界のこと、ダンジョンのこと、世間一般で言う哲学というもの。なんでも知りたいです。そして昨日、クロさんに出会いました。最初に広場で会ったときは冷たそうな人だなって直感で思いました。でもラウルさんとの分け隔てない会話、安全を第一に考えた狩り、早く適切な判断力、それに料理や採集の技術を見て確信しました。クロさんは凄い人で良い人だって。そして思いました。これから私にたくさんのことを教えてくれるかもしれない唯一の人かもしれないって。だからクロさんの話、たくさん聞かせてください?いっぱい聞きますから」


 俺は言葉に悩んだ。ミーシャの過去は決して明るいものじゃない。そんな逆境を乗り越え、今俺の近くにいる。大したことない俺をここまで評価して、期待してくれている。俺が大したことないのは俺が一番よくわかっている。まだ発展途上だ。でも、そんな自嘲をしながらもミーシャのために頑張ってあげたいと思う自分がいる。


「・・・」


「あわわっ急にごめんなさい、まだ会って2日目なのにこんな重い話っ!」


「いや・・・いいんだ。そうだな、こんな俺で良ければなんでも聞いてくれ。俺が知らなかったら一緒に調べよう。まだ俺は発展途上だからな一緒に知っていこう。ラウルもウェスタも一緒にな」


「はい!ぜひ!っと私のこと話してたら着いちゃいましたね、入りましょうか。ここのグラタンとお肉を使った料理とても美味しいんですよ!」


「そうなのか、それは楽しみだ」


 そこで食べたグラタンは人生で一番熱いような気がした。

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