いざダンジョンへ
うーむ・・・いやこだわるのはやめます。とりあえず続けることから頑張ります。
「正面にゴブリンが3体、エコーバットが2体いるな。来る途中に話した通りバットはミーシャと俺で射抜く。取りこぼしがいればウェスタとラウルでやってくれ。いいな?」
全員が頷いたのを確認し矢を番える。横でミーシャも矢を番えたのを確認する。これがこのパーティー初めての戦闘になる。
「それじゃあ行くぞ・・・せーの!」
同時に矢を放つとバットに吸い込まれるようにして命中する。異変に気付いたゴブリンがこちらに気付き向かってくる。
「スイッチ!!」
「おうよ!」
ゴブリンが中距離圏内まで近づいてきたのを確認し、俺とミーシャは後ろに下がる。それと交代でウェスタとラウルが前衛に出てくる。すると交戦が始まる。が・・・
「流石にゴブリン相手だと緊張感もないし安全マージンも取りすぎてる感じするなあ・・・」
「まあそんなものじゃないですか?私は安心感があってこういう指揮を執ってくれるパーティー好きですよ」
「そうか?ならいいか。というかパーティーリーダーあいつなんだけどなあ、ラウルは良くも悪くも純粋だし考えないから向かないんだよな。人集め用の看板みたいなもんだな」
「ふふっ、酷い言い草ですね。でもなんとなくわかります。っと終わったみたいですね」
「おいクロー!お前なにミーシャちゃんと楽しそうにしてるんだー?」
「おいクロ、ミーシャになにかしてないだろうな?」
「してねーよ!?・・・ん?」
「どうしたクr」
「静かに!何か来る・・・」
てきとうに話していると何かドタドタと聞こえてくる。近くはないが遠くはない・・・なんだ?
「ッ!?お前らそこの横道に入れ!羊飼いだ!」
「「「ッ!?」」」
羊飼い、それはモンスターを大量に引き連れて他の冒険者に押し付ける奴のことだ。モンスターを引き寄せる匂い玉を持って走る、あとはひたすら走ってモンスターを集めるだけ。牧羊をやる人間が羊を連れるのに似ていることからそう呼ばれている。これをやることによるメリットは恐らくない。強いて挙げるなら、仮に押し付けたパーティーがモンスターを全滅させた場合死骸が確実に余る。それを拾い集めれば売れるアイテムも出てくるというところだろうか。だが押し付けられた方はたまったもんじゃない。
「モンスターは・・・ゴブリンとエコーバット、それにコボルトか。個々は強くないが数が多い」
「でも通り過ぎていきましたよ?」
「そしたら単純にモンスターに追われすぎたから出口に向かっていったんかな?ダンジョン出れば追ってこないし」
「それでもダンジョン内にいる冒険者からしたらたまったもんじゃない。そもそも普通にやっててあの数のモンスターが集まることはないから確信犯だろう。まだこっちに来る可能性があるから注意して進むぞ」
「でもなんでこの横道に入ったんですか?出口に向かうほうが安全じゃないですか?」
「今のを見た通り羊飼いは出口の方向に進んでいった。ただコボルトはDランクのモンスターでも上位のほうだ。それから逃げられているということはあいつの速力はCランクに近い。俺らが逃げようとすれば追いつかれるだろう。だからこその横道だ。この道は遠回りだが本道に繋がっているからな」
「そうなんですか?クロさん物知りです」
「まあこいつは暇さえあれば図書館かギルドの資料室で情報集めしてるからな」
「ラウルは少しでいいから知識を身に着けろ・・・とりあえず行くぞ」
モンスターがいなくなったのを確認し、本道に続く道を進む。クエスト分のアイテムが全然足りていない。羊飼いがいたことを考えるとソウネダケを集めて、帰りに少しずつゴブリンを狩るほうが効率的だろう。
「先にソウネダケを集めるために奥に行く、帰りにゴブリンを少しずつ狩る。それでいいか?」
「おっけー」
「了解しました」
「問題ない」
全員の了承を得て、ソウネダケの回収場所に向かうのだった。
●
奥に進んでいくと緑の生い茂るエリアが見えてくる。ここはセーフティゾーンでモンスターが湧くことはない。ここがソウネダケの採取ポイントだ。
「着いたな、そしたら各自探してくれ。基本的にソウネダケは水分の多い植物の根に癒着してる。なんなら苔周辺の草を引っこ抜いたら秒で見つかる・・・ほらな」
そう言ってソウネダケを見せるとミーシャが嬉々とした表情になり、苔のある所にトコトコと走っていく。
「クロさんほんとに物知りです!私今まで片っ端から草抜いてたのでこんなに早く見つけられるとは思ってませんでした!」
ミーシャが俺の教えた通りの採り方を真似するとソウネダケが見つかったらしく、歓喜している。
「それはよかった」
ひたすら草を抜き、回収する。単純な作業で面白味はない。それでも喧騒とは程遠いこの時間が結構好きだ。
「俺も片っ端から抜くつもりだったから助かるわー」
「あれ、おいラウルサボんなよ」
「それ言ったらウェスタもサボりだろ!?」
「俺は話聞いてすぐに採取し始めたぞ。ほら」
「おいラウルサボんなよ」
「うっす・・・というかウェスタマジで気づかなかったんだけど影薄く・・・さーせん・・・」
言い切る前に物々しい雰囲気をウェスタが出したことによってラウルが黙る。
「まあ実際俺は目立ちにくいからな、気配遮断のスキルも持ってる」
「珍しいスキルだな。暗殺向きで剣士向きではないだろうに」
そう言いながら俺はシートを敷き弁当を出す。
「とりあえず少し休もうか、軽い軽食を作ってきたんだ。みんなで食べよう」
「クロさん料理もできるんですか!?完璧男子じゃないですか」
「?普通だろ。なあラウル、ウェスタ」
「おいクロ、俺は食べるほうのプロだぞ?とてもじゃないが料理なんてできない」
「俺は最低限だができるぞ」
「ラウルお前マジで今のところ良いとこ無しだぞ・・・リーダーだけど指揮執らないし女たらしだし、食い意地張ってるだけだしソウネダケ採らないし・・・」
「もうわかったから勘弁してくれ・・・」
「あはは!クロさんとラウルさん面白いです、仲の良さが伝わってきますし会話も楽しいですしこんなにゆったりダンジョン潜入初めてです!」
俺とラウルが顔を見合わせると数秒間視線を交差させる。
「いやこいつには苦労させられてばっかだぞ」
「おい!?今のは仲良し感出すとこだろ!?」
「まあいいよ、はいこれサンドイッチ。全員分あるからゆっくり食えよ。特にラウr・・・もう食い始めてんじゃねえか」
「クソっ流された・・・相変わらず飯がうめえなちくしょう」
「クロさん料理上手です、このお肉はなんのお肉ですか?すごく柔らかいです。甘じょっぱくて辛みがある、それになんだか花のような香りがします・・・でもソースはかかってないですね?」
「お!いい舌してるなミーシャ。ちなみに肉はビッグボアのやつだ。食用花のハニービオラを乾燥させて抽出した液体と醤油と香辛料で味を調整して肉を漬けておくと焼くだけで作れるぞ。醤油は豆や魚から作れるし、香辛料も植物から作れる」
「醤油と香辛料!?輸入品で高いものだとばかり・・・教えてもらっちゃっていいんですか?」
「いいよ、商売するわけでもないし趣味の範囲だ」
「本当に美味しいです。間違いなく今まで食べた料理で一番です!お店出したら絶対儲かりますって!私が買い占めます!」
「ミーシャは人を褒めるのが上手いな・・・店は出さないけど言ってくれたらまた作ってやるよ・・・っていっても臨時のパーティーだから次が約束されてるわけじゃないな」
「俺はこのパーティーで今後もやっていきたいぞ!クロとウェスタが優秀だしミーシャちゃんかわいいし!」
「私も正直このパーティーで今後も活動したいです!クロさんの指揮は安全マージンしっかり取ってくれてますし、判断も早くてすごく安心します。ラウルさんは・・・はい・・・」
「お前引かれてるぞラウル。ちなみにウェスタは?」
「・・・まあ俺もいいと思うぞ、安定したパーティーは嫌いじゃない。それにミーシャが良いっていうんだから俺はついて行くまでだ」
(最初のほうから思ってたけどウェスタはミーシャの意向に沿って動いてる感じがするな。初対面じゃなかったみたいだしタッグでも組んでるのかな・・・)
「もう・・・ウェスタはいつもそうですね。別に私とずっと一緒に行動しなくてもいいんですよ?」
「えっ!?ウェスタとミーシャちゃんってもしかしてずっと一緒のパーティーなの!?そしたらまさか帰る場所もいっしy」
無言でラウルを殴って制止する。
「ラウル、プライベートの詮索は良くないぞ」
「すんません・・・」
「ちなみにパーティーは一緒ですけど別にホームまで一緒なわけじゃないですよ。私たち恋人でもないですし」
「まあそういうことだ」
「よかったなラウル、まあお前の好感度は底辺まで落ちてるかもしれないけど」
「希望があるなら折れないぞ俺は!!」
「おぉそうか・・・っとみんな食べ終わったな。そしたら戻りながらゴブリンを狩るという方針だったから予定通り行こう。いいか?」
全員が首肯したのを確認し、出口に向けて歩みを進めるのだった。
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