201-205
201風鈴の音
枯れ木も山を賑わすが
風鈴はうるさいとのことで
姿を消しかけている。
風鈴を目玉にする店では
室内のエアコンの風で
風鈴を鳴らす
風鈴の意義とはいったい
夏の暑い日に鳴る風鈴は格別で
音で涼しさを感じる感性は
かけがえのないものだった
だが、かけがえのないものでも
時流には逆らえず
風鈴は今も風鈴として売られても
その存在を失っている
喪失感のない喪失
満足感のある喪失
風船の頭に針金の身体をした人形が
風鈴を買う
暑さを感じることない形ばかりの存在が
風鈴の音を感じる価値とは
いったいなんだろう
人に心があって
人形に心がない
不公平に
風鈴は音を鳴らす
ちりん ちりん
202冷たい甘酒
神様と仏様が
お酒を飲んで
語り合っている
近頃の神父・牧師・坊主らは
酒を飲んだくれて
信仰心を失っているという
話だ
酒が進む
ときに人は善を勘違いし
悪意から善を見て知ってるふうなことを
語っている連中も
いるというのに
自分たちの下僕は
何の役にも立っていない
酒が進む
酔っている
神様と仏様の横で
ぼくは甘酒を飲む
冷たい甘酒はおいしいという
真理がそこにある
神様と仏様は気づいていない
ただの像だからだろう
203かみなりのカラス
晴れの日
傘をさして歩く
雨の日
濡れて歩く
曇りの日
何も考えずに歩く
雷の日
ぼくは雷を避けて歩く
逆に空を飛ぶ
カラスは雷に自ら当たり
落ちていく
死してなお
カラスであろうとする
かみなりのカラス
カラスは黒い
ぼくの周りを
黒い灯火でぼんやりと写す
204怪竜
怪獣が恐竜とちがうのは
創造物か実在物かの違いだが
じつのところ恐竜の実際の姿は
誰も知らない
化石から見えてくる情報は
ほんのひと粒の砂のごとし
そんなわけで恐竜も怪獣と変わらない
想像上の存在なわけで
空想世界の住人だ
研究者は空想から引き離そうとするが
その研究者も空想からしか恐竜を見れていないという
問題は未来永劫つづく
そんなことは無視して
怪獣と恐竜が交配して
怪竜が産まれる
怪竜がすべての謎を知る未来の鍵を握っているのは確かだ
未来の扉の向こうには
怪竜なんていない現実がある
205リンドウは美しく鳴る
降り止まない雨の中で
丘に咲くリンドウは美しく鳴る
風になびく草の中で
金木犀と銀木犀は
かわりばんこで
風雨に耐えている
そんな丘の上で
ぼくの手のひらは
輪郭線上に未来と過去を描き出し
指先から幾筋もの
水玉をゆらゆらと昇らせる
それは生者と死者の数と同数で奇数で偶数で虚数
死者の数に生者の数を足して0で割る
数学的無理解が解となり
リンドウも金木犀も銀木犀も
楽しげだ
そんな笑顔を大切にしたい