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ハイファンタジー濃いめです。
東の国の王宮のモナークの私室
ソル侯爵家のシンボルカラーである赤と緑と白を基調にした部屋。
綺麗な栗色の長髪を後ろで結んだ青年が、部屋に入ってきた。新しく従者としてついた、ルーカスだ。
彼はアメリアの指示で、モナークの裸体に赤くなりながらもたどたどしく衣類を着せていく。
ルーカスはアルファであり、遺伝子相性は100を超えていた。彼も呪い付きの家族をもち、アメリアと家庭状況はおなじだ。
ルーカスがタントラ枢機卿に伝言を
「タントラ枢機卿が?」
「今のモナーク様にお耳に入れるのは酷かと思いますが、ヴァルロメオ家のアレクサンダーに新しい番ができたと報告がありました」
節目がち現状の報告をする。
「さすがヴァルトロメオ侯爵家。爵位と領地を没収されたら困るもの。アレクサンダーから手紙もらったし」
モナークは目配せで今日の服をアメリアに指示すると、金の縁取りのある。白い戦闘服を持ってくる。
女王白薔薇の薔薇の紋章が精緻な刺繍で背中に縫いつけられている。
豪奢な服に袖を通しながら、モナークが強がっているのがルーカスとアメリアには分かる。
アレクサンダーからの手紙に何と描かれていたか不安だ。二人の心情をさっしてモナークが口を開く。
「手紙には和歌って言う古い形式の歌でね。『とにかくに道ある君の御世ならば事しげくとも誰かまどはむ』…道は険しいかもしれないけれど、貴方の御世ならば誰もが協力してくれるので安心して進めてっ、激励の歌さ」
モナークが和歌をもう一度、口の中で唱える。目尻に涙が浮かぶのを唇を噛んで耐えぬく。
「アメリア。僕のアメジストのピアス取っててくれる?」
母親のソフィアそっくりの、少数民族の血を継いでいるモナークの耳の先は尖っていた。東の大国では珍しい形だ。
御伽話に出てくるような金細工のごとく美しい青年の懇願にアメリアは問いかける。
「アレクサンダーが、
モナーク様の誕生日に特注で作らられたピアスですよね。本当によいのですか?」
「僕しか知らない個人情報を知っているアメリアが怖いよ。うん、大丈夫。前に進むしか無いから。
ねぇルーカス、キスして?アメリア、その間に取って」モナークを瞳を閉じてルーカスに身を委ねる。
ルーカスはそれに答え、彼の艶やかな金髪に優しくキスをしてから唇をあわせる。
モナークの両腕がルーカスの体を抱きしめる。
二人の深い口付けのあいだに背伸びをしたアメリアがモナークの両耳のピアスを取り外す。アレクサンダーの瞳を想起させる紫金の精緻なピアスがアメリアの小さな手の平に転がる。
『モナァーク、それ、ちょおぉぉだぁーい』
割れ鐘のような声が響いてモナークの影から『千本腕のアリス』が何本もの手を突き出してくる。
「アリスの糧になるなら好きにつかって、そう、僕はまた、戦争で使う呪歌を思いついた。」
先程までの陰鬱な表情が一変する。モナークはルーカスから体を離すと、キューブと呼ばれる空中浮遊する音声スピーカーを呼び出して、歌いながら踊り出す。
モナークの突然の豹変ぶりにルーカスが唖然とするなか、アメリアが待ってましたとばかりに、小型録画機械を懐から取り出しモナークの振り付けと歌を録画していく。
「さすが、最強の呪いつきですわ!」
興奮するアメリアが聞く、曲の題名は?
「EMPIRE!意味は帝政。僕の女王白薔薇が一番強い。だれが、ヴァルトロメオ侯爵家などに負けるか!」
激しい音をモナークの歌声と踊りがおりなす。
その音が大きく強くなっていく。千本腕のアリスが何本も腕が床から伸びてモナークの振り付けを巧みに真似て、新しい振りを増やしていく。
モナークの歌が呪歌となって、重い霊圧と瘴気をうむ。
余りの空気の悪さに慣れていないルーカスが怯む。
アメリアが彼をエスコートしてワルツを踊り出す。
「ルーカス、覚えておいて下さいまし。モナーク様は神にも神巫にも負けない呪力をお持ちです。神巫は祈祷しますが、私たち呪い付きは『呪歌』を扱います。祈祷も呪いも紙一重。強く願ったほうが勝ちでございますわ」
「アメリア、ありがとう」
タントラ枢機卿が東の大国で一番のモナークのファンである、アメリアをモナークの従者に推薦したのは理由があった。
アメリアの小柄の体からは想像のできない、力強い歌声が湧き上がる。
電子音で編曲されたアップテンポの曲調にをアメリアが歌い切る。
アメリアの呪歌に千本腕のアリスが、うごめき波のように踊り出す。
呪いつきの百対をこす、手による地鳴りのような拍手にルーカスは目眩がしそうになる。呪いと呪い付きの狂演。
「モナークや、新しいアルファの従者のアメリアとルーカスとは上手くやてるようだね。今の曲は中々よかったよ。調子はどうだい?」
ノックの音もなく、モナークの部屋にある人物が入ってきた。
この東の大国の権力者、タントラ枢機卿その人である。
アメリアとルーカスはすぐ様に東の大陸、貴族の礼節をとる。
「お陰さまで、呪いが安定してきて調子が戻ってきたよ。新しいαの侍従達の手配を有難う」
「それは良かった。今日、ヴァルトロメオ侯爵家と、面談になった。女王がモナークも来いと伝言だ」
タントラ枢機卿がモナークに気を使いながら伝える。
「ルーカスから伝えきいたよ。大丈夫。覚悟はできてる。次の戦いに特上の呪歌をタントラ卿にプレゼント!楽しみにしててね。」モナークが、タントラにウィンクする。
タントラ枢機卿は
「ああ、楽しみにしてるよ」
モナークの頭を撫でた。
「もう子供じゃないんだから~。枢機卿は僕に甘いなぁ」
「どうかな。君を東の大国という地獄に閉じ込めて、親友と離別させ、百八十六人の呪い付きで引き留めた。女王白薔薇の独占欲と言う強固な呪縛をモナークに強制している」
枢機卿の柔らかな笑みの下にあ強い意思。モナークはそうだねと、答えた。
「タントラ枢機卿。僕と女王白薔薇は強い呪いつきと言う共通点がある運命共同体。この世の地獄を僕達は謳歌するよ。だから、僕は、女王白薔薇が愛しているこの国を守る。」
モナークの翠玉の瞳とタントラ枢機卿の黒い瞳が交差する。
「ああ、君の愛国心に東部教会の祝福があることを。近々、女王の婚約者と食事会を開く。南大陸の暗殺業を生業とする、アスワド家のアジルだ。君も挨拶においで」タントラ枢機卿がモナークの部屋から出ていく。
女王とモナークは決して結婚しない。
これが、緑の炎がこの国を守護するための条件の一つだ。
「新しい婚約者が緑の炎に殺されないといいね」
モナークがタントラ枢機卿の後姿を見ながら呟く。この東の国では人の命が軽い。そしてモナークの立場も複雑だ。
「モナーク様、アメリア様、私は下級貴族からモナーク様のお父上、レアルタ大公の推薦でソル侯爵家の踊り頭になりました。不慣れな事がありますが、どうぞご指導くださいませ」
アルファの、ルーカスが青い瞳で東の国の呪いの使い手である己のの主人を見つめる。
ルーカスは誓う。この強く美しく悲しい立場のオメガの主人を守ることを。
ご拝読ありがとうございます。
モナークの失恋と前にすすむは、書くにあたって、きつい物がありました。モナークとアレクサンダーには、サイドストーリーがあります。
『 両思いになったらしぬ呪い『BL』 少女セシリアの恋人への備忘録』です。
モナークとアレクサンダーの過去です。
もし良かったらをお読みください。
モナークは、のちにハッピーエンドになります。
そちらは、別の話で書こうと思います。