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5.少年兵と香と誓いの印

一度、荷物を置いてから良い所に連れてってやると、アレクサンダーが言い出し。


二人は、市場を横切り、小高い丘の公園に向けて二人は歩く。ジュードは人ごみでも頭ひとつ分飛び抜けて高いのですぐに見つけやすい。


しかし、彼の隣を歩くと、アレクサンダーは自分が子供になった気分になる。

自分も平均以上の背の高さのはずだ。

しかし、たおやかで優雅な立ち振る舞いのジュードを人は振り返る。 


「ジュード、あんたモテるだろう」

「ええ、でも私は貴方の方が素敵にみえますよ」

「はぁ?」

「紫に反射する黒い髪も、鍛えられた体。金色の意思の強い瞳みも素敵です。都いちの色男と庁舎では噂を聞いてましたから」

ジュードがアレクサンダーを褒める。


「俺は、そんなんじゃない。付き合うのだってモナーク以外、アンタで二人目だ」とアレクサンダーがそっぽを向く。


「二人目?」

俄かに信じがたい。その愛情深さと男らしい剛健な美貌に惹かれない人間はいないだろう。


「親父の勧めで沢山のΩとお見合いしたから変な噂がたっただけだ。俺は戦争しか知らない…この話はやめよう。

そうだな…俺は酒が好きで、東の繁華街に幾つかの飲食店に資金を援助して経営してる。ハロルドって名前の親友がそこにいるんだ。いつか紹介するよ」



アレクサンダーは話題を変える。親友の店の話をする時は、彼はとても幸せそうでジュードも自然と笑顔になる。


モナーク以外の親友。

東の繁華街となると、ジュードが高級男娼をしていた『橋』の近くである。

「アレクサンダー、東の繁華街に行くのですか?」

「ああ?行きたいか?」

「いえ……その」

ジュードが口ごもる。


番いになった以上、隠すことはないはずだ。しかし、何と言えばいいのか考えあぐねていると、察したらしいアレクサンダーが声をかける。


「……言いたくなけりゃ言わなくても良いよ」

と気を使わせてしまったようだ。


アレクサンダーがジュードの気持ちを振り切るように手を取り、公園の中心へと歩いていく。


「あんたは守られるのも、勝手に愛されるのも嫌だと言った。それなりの理由があるんだと考える。俺だって話していない事はたくさんある」

「アレクサンダー……」


公園の中央は小高い丘になっていて、眼下には夕映にひかるアルゼントュムの王宮と国境地帯が見える


展望台の側のベンチに二人ですわる。

アレクサンダーは王宮を指す。


「明日ジュードは、あの王宮に行く。女王白薔薇と、百八十六人の呪いつき。そして、この国の守護神。緑の炎がいる。覚悟しておけ」

ジュードも遠くをみつめた。


「わかりました。私は貴方が思うよりタフですよ」

その鋭い声にアレクサンダーが、ジュードを振り返る。


「大丈夫、信じてください。それにしてめ、この景色は綺麗ですね」


ジュードがアレクサンダーを安心させるように声を和らげた。


逆にアレクサンダーが頭をかく。

そこで、彼はゆっくりと話し始めた。


「あぁ…俺は昔しこの風景が大っ嫌いだった。八歳の頃に西の小国に誘拐されて十二歳の時に、この国に戻ってきた。

その時には既製品の人工義体で女王白薔薇を殺せと洗脳された少年兵だった」


アレクサンダーの独白にジュードの腹の底が冷える


西の小国。ジュードの祖国である西の大国の周辺諸国だろうと推測する。

西の大国は脳移植の技術に長けていた。

ジュードの祖国である。


「それでその少年兵の父親は、洗脳が解けない息子に、それは強くて美しい友人をつくり、この国を守るよう洗脳し直した」


「貴方とモナークの出会いですね」


「ああ、そして少年兵の名はアレクサンダー。それが俺。敵国もこの国も愛してない殺人兵器」

アレクサンダーが、ジュードの手の甲に口づける。


「俺はこの国を愛していない。だけど、親父は俺を大切にしてくれた。市場の皆んなも慕ってくれる。

俺は護る者があってこそ人格を確立できる。だから、俺は自分の存在意義が欲しい。

それには……ジュードが必要だ。

これは我儘だってわかってる。

あんたは、俺に守られたり、愛を返さなくていい。ただ、俺だけの番でいて欲しい。

あんたのフェロモンの香りで俺は殺人兵器から人間に戻れる」


アレクサンダーの金色の瞳孔がジュードを深くみつめる。

ジュードは彼の告白に胸が痛い。八歳で誘拐されて洗脳された子供。


彼は自己の存在意義を殺人兵器である自分に見出して生きてきたのだ。

自分の居場所がわからない不安は、アレクサンダーもジュードも同じだ。


「私は貴方の居場所になりたい」ジュードはアレクサンダーの頬に手を添える。


「アレクサンダーが私を必要としてくれたように、私が貴方の帰る場所になります。貴方以外のαとは決して番にならない。


私はある理由で貴方に愛を返せないでしょう。さらに、貴方は貴族のαで私はΩで男娼出身です。貴方が気にしないと言っても、私は、この国では余りにも地位が低い。

私は、Ωが社会的に受ける差別が許せない。女王白薔薇のα史上主義に対して戦いぬくでしょう。

そんな自分勝手を許して下さい」


ジュードに額をよせると、瞼を閉じる。


ジュードは、アレクサンダーを少年兵にした西の国の王族の血をこの時ばかり、恨めしいと思ったことは無かった。


自分には、アレクサンダーを愛する資格がない。しかし、彼は自分が番になった大切なαだ。


ジュードの瞼に、アレクサンダーの唇が触れる。


「俺だけの番。

俺は、あんたが何者でも気にしない。

俺の番は、あんただけだ」


「ありがとう……アレクサンダー」

ジュードの胸があたたかくなる。


ジュードはアレクサンダーに皮肉なことに、愛していると言えないだろう。

まるで、彼がかつて、モナークに愛を告げれなかったよう。


ただ、今言えることは一つだけだ


「私のαは貴方だけです。

この首の噛み痕をその誓いの印として貴方に捧げます」

アレクサンダーがジュードの首の噛み痕を指でなぞり、そのまま彼の唇に口づける。


「俺の番……愛してる」


二人は抱き合い、夕闇に染まりゆく公園で時を忘れて見つめ合った。

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