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人狼の棲み家の話


夕方になってもせみの鳴き声がうるさかった。


独断で取材の続きをするため、気がつけば鹿原家の表札を見つめていた。


「あら、久代さん」


振り返ると買い物帰りなのか、紙袋をさげたサクラさんがニコッと笑った。


「まだ早かったですか?」


「いいえ、ベストタイミングです。でも、いいんですか?勝手に話し進めちゃって」


「ええ、電話で話したとおり取材は続行します。どうやら鹿原家とは切っても切れない緑みたいです。ところでお父様とお母様はお元気ですか」


「元気ですよ。あ!そうそうお客様が来てるんです。矢代さんも知ってる方じゃないかしら。沖田さんって方」


「沖田・・・」


タイムリーなフレーズに私はハッとした。


「編集長・・・」


「さあ、上がってください。もうすぐ暗くなってきます」


急かされるように鹿原家の扉を開いた。


ゴーンと柱時計がなった。相変わらず不気味な音だ。


「久しぶりな感じがします」


「いいえ、何も変わっていないですよ。そうそうスマホに保存していた兄の写真を飾ったんです。矢代さんが持ってた写真は相当古いから」


「あっそうですよね。是非見たいな」


玄関には真新しい革糀が二足並んでいる。沖田さんともう一人は誰だろう?ふと辺りを見渡すと見覚えのある花が飾ってあった。


「矢代さん」


どことなく暗い声がする。


「ほそばひゃくにちそうという花です。花に興味があるんですか?意外ですね」


「いや、あまり詳しくはないんですが見覚えがありまして。確か編集長のデスクに飾ってあったような・・・気のせいですかね」


「ほそばひゃくにちそう。ちっとも枯れない花」


不気味な声が聞こえた。そんなわけがない。だって後ろにはあの可愛らしいサクラさんがいるはずだから。


「矢代さん、下の名前はなんていうんですか?」


後ろからいつものサクラさんの声が聞こえた。


「ああ、文也ふみやです。親父が文の道で有名になれってつけたみたいです。もう亡くなりましたけど」


私は父親の事をふと思いだしていた。有名作家にでもなってほしかったであろう父親の願いを叶えることはできなかった。


「亡くなっているんですね・・・」


「まあ、良い親父でしたよ」


「そう思うと死ねないっていうのもなかなか辛いものなんですね・・・」


「サクラさん?」


「あっ、いいえ。皆様がお待ちですよ。さあ上がってください」


その声の主は小さな紙袋をそっと腰の後ろに隠した。


玄関をあがる。紙袋はカタコト音を立てながら近づいてくる。嫌な予感と重々しさを感じた。そして部屋の奥からは聞き覚えのある機械音混じりの不快な声がした。


「では、皆様には殺し合いをしていただきます」







一九四五年八月六日。広島原爆の日。八月九日。長崎原爆の日。八月十五日。終戦記念日。

日本人にとって決して忘れてはならない日。思い出したくない夏の日という声もある。私は後者の意見だ。

戦争は人を殺せば英雄と呼ばれる。合法的な殺人だ。平和な日本で命の有り難みや尊さが薄れているような気がする昨今。

緊張感を持って生きろとは言えない。ただ命は永遠ではないということを人々に伝えたい。誰の人生も決して無駄ではないということをどうにか形にできないものだろうか。


だから私は文章を書く仕事を選んだのかもしれない。


                 










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