小事は大事の話
小事は大事。何気ない言葉で人は傷つく。
いちいち傷ついてる暇なんてねぇーよ!
大人になるとそう割り切ってしまう。それが生きる知恵でもある。
例え岩でも砂粒でも水に沈むのは同じ。
名生さんの母親は教育と言って父親の虐待を見てみぬふりをしていた。
言葉違い。態度。存在。
心を閉ざしはじめた名生さんは何かにつけて父親から虐待を受けるようになった。
(痛い、痛いよ)
言葉遣い。態度。存在。
やがて耳が引きちぎれそうになり血がたらたらと流れだした。その姿に母親は「みにくい」ともらし、嫌々ながら手当てをした。
「泣いてんじゃないわよ。辛いのは私のほうよ。手がかかる子ね」
名生さんの目はいつも憎悪に満ちていた。
「例え岩でも砂粒でも水に沈むのは同じ・・・」
彼には友達が多かった。人の痛みが誰よりも理解できたから、常識を疑っていたから。そして何より、夢があったから。
プロレスラーを目指していた彼は観客を魅了するということを心がけていた。いわゆる見せ方というものを熟知していた。心の中では嫌っていた友人に対しても明るく振舞った。
そして虐待によって変形した右耳を自ら切断した。
(マスクさえあれば平気だ)
両親はパニックになった。名生さんはずっとマスクをかぶっていた。いつしか髪は伸び、やがてオカッパ頭がトレードマークになった。
小事は大事。何気ない言葉で人は傷つく。
いちいち気にしないの!
大人になるとそう割り切ってしまう。それが社会で生き残る知恵でもある。
例え岩でも砂粒でも水に沈むのは同じ。
名生さんの親友であるアラックスがゲームマスターになり、罪のない人達を大勢殺した。
(死んだ、ということは価値がない人間だったということ)
サクラさんの話によると災害のニュースを見ていたお兄さんの親友アラックスがそう発言していたらしい。
ジャーナリストとして、いや、一人の人間として腹が立った。
(死ぬ人間はそういうさだめだ。受け入れるしかない)
そんな残酷なアラックスでさえも名生さんには特別な感情があったのだろう。だから彼の死を悔いて顔を名生さんそっくりに変えた。
しかし、アラックスは最大のミスを犯した。名生さんに右耳がないことに気づかなかったことだ。オカッパ頭に隠されていた耳は片方だけなかった。
親友気取りの男は所詮、そこまで名生さんのことを理解していなかったということだ。
小事は大事。何気ない言葉で人は傷つく。
例え岩でも砂粒でも水に沈むのは同じ。
ここで疑問が沸いた。
長年の付き合いでそれくらいのこと気づかないだろうか?
幼なじみならふとした瞬間に気づきそうなものだ。
もしかしたらアラックスはあえて自分の片耳を残したのではないか。
それはなぜか。
名生さんに足りないものを補うため?
自分自身の存在を残しておくため?
そんな関係性が少し羨ましくもあった。そうであってほしいとも思った。
私にはそんな友人はいない。みんな己の社会的地位しか考えていない奴らばかりだからだ。私だってはたからみたらそうかもしれない。自分のことで精一杯だった。
だからその幼稚な無邪気さが少し羨ましかったのだが、今更そんな事を考えても仕方ない。
なぜならもう二人はこの世に居ないのだから・・・。




