家族の話
鹿原家の人達はいつもと変わりがなかった。というよりお父様もお母様も表情が少し明るくなった気がする。
「ああ、こりゃどうも。ゆっくりしてってください」
厳格な印象だったお父様は物腰柔らかくなっていた。お母様は相変わらず優しく微笑んでいる。
サクラさんが緑茶を差し出す。
「矢代さん。生きてて安心しました」
玄関先で驚いた表情をするサクラさんが今でも忘れられない。
「気づいたら会社にいました」
頭をかきながら苦笑いをした。
「結局人狼はお兄様だったんですね。お兄さんは生きていた」
私の言葉にサクラさんは首を振った。
「兄はやっぱり死んでいました。あの時、葬式で見たのが本物の兄だったんです」
私は首をかしげた。
「マスクマンは確かに兄に似ていました。本当にそっくりでした。でも、あいつは兄ではありませんでした」
「と、いいますと・・・」
「両耳あったから」
サクラさんは俯いて目を合わせようとはしなかった。
この時、耳というフレーズにハッとした。
「そういえばこの写真なんですが、ずっと違和感があったんです。お兄さんの右耳だけ加工されていたんです。どういうことでしょう?」
写真をみるなりまた俯くサクラさん。両親もバツが悪そうな表情をしている。
「私が思うに、つまり耳だけ加工しなきゃいけない理由があったわけです。教えてもらえますか?」
お父様とお母様から精気が抜けるのを感じた。
「あんた達はどこまでも残酷だな」
お父様はポツリとそう言って俯いた。
私も覚悟を持ってこの仕事をしている。なぜならこの仕事のおかげで腐らずにすんだからだ。この仕事に少なからず誇りは持っているからこそ聞きづらいことも聞かなければならない。それがジャーナリストの宿命なのだ。
「兄は右耳がないんです。昔から・・・」
沈黙を破ったのはサクラさんだった。
「どういうことですか?」
「父に虐待されていて・・・」
「虐待?」
初耳だった。耳だけに。そんなことを言っている場合ではない。
ゴーン。
柱時計が鳴った。
「話してもらえますか?」
サクラさんはゆっくり頷いた。
お父様もお母様も観念したようにうなだれていた。
小学生の頃から名生さんは父親に虐待されていたという。それはささいな一言がきっかけだった。




