第三章 投票の話
目が覚めると会社のオフィスにいた。
悪い夢でも見ていたようで目覚めは最悪だった。
ふと頭に浮かんだのは人狼ゲームなる殺人ゲームをやらされ、あやうく死にかけたということ。
どうやらここは会社のオフィス。
私はまだ死んでいないらしい。
「どうしたんですか?先代先輩」
声の先に里村の顔があった。私は一呼吸して姿勢を整えた。
テレビには選挙速報が流れている。
(皆様の一票一票が励みになります!ありがとうございます!)
新人議員が初当選したようだ。
「珍しく矢代さん、出社が早いんですね。いつも一番乗りの僕が負けてしまった」
「勝ったとか、負けたとか、くだらないゲームしてんじゃねえよ!」
私はなぜか反射的に里村にそう言っていた。里村は少し動揺した顔で私を見つめる。
ふと我に返った私は軽く謝罪した後、椅子にもたれかかり一枚のレポート用紙を見つめた。サクラさんが書いたレポート用紙だ。眠気まなこで目を通す。
「矢代さん、鹿原家どうなりました?」
里村の質問に私は息を飲んだ。
「もうその家族の話はしないでくれるか?」
「なんでですか?矢代さんに頼んだ仕事ですよ」
「仕事がなんだって言うんだ」
私はまた里村に不機嫌な表情を見せた。
「ならもういいですよ。矢代さんの為になると思ったんだけどな」
里村は私より不機嫌そうな顔をして背を向けた。
「忙しすぎて死にたいですよ。僕は」
私はため息まじりに頭をかかえた。
ずっと頭の中であいつの声が聞こえていた。
(皆様には殺し合いをしていただきます)
(一番信用ができない)
私はおもむろに鹿原家の写真を見つめた。四人の家族が映っている。誰も楽しそうに笑ってはいない。何かを疑っているような、それでいて何かを信じたいような、そんな複雑な表情だ。
相変わらず名生さんの顔だけ妙な違和感がある。私はまじまじとその顔を見た。
ハッとした。
「里村!ちょっと見てくれないか?」
里村は嫌々そうに近づいてくる。
「なんですか」
名生さんの右耳の位置が少しだがずれているような気がした。皮膚の色も微妙に違う。どうやら加工されているように思えたのだ。
「確かにこれは加工してますね。お兄さんの死因と何か関係があるんでしょうか?」
「わからない。ちょっと出てくる」
私はいてもたってもいられず席を立った。
「あ、里村」
「はい?」
「死にたいとか軽はずみに言うな!生きたくても生きられなかった人間が大勢いるんだ」
里村は相変わらず呆れた顔で私を見つめる。
私はそんな当たり前のことを人に言うようなタイプではなかった。生きるだ、死ぬだ、などの空虚な発言にいちいち関心などしていなかった。
しかし、本当の恐怖心を目の当たりにした時、人は恥も外聞もなくなる。己が生き残る為だったら悪魔にだって魂を売るだろう。
本当に人間は勝手な生き物だ。
状況次第で生きたいと思ったり死にたいと思ったり。
(皆様の一票が励みになります)
投票されたいと思ったり、投票されたくないと思ったり・・・。
オフィスを出ると朝日に照らされた。
人の生き死になんてものは他人がとやかく言うことではない。それでもサクラさんには生きていてほしいと願った。




