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兄は人狼⑦-2


その場にいた人間達は意識をなくしていた。


いまさらここが古ぼけた居酒屋であるかどうかなど関係なかった。


「それでは話し合いをしてください」


「矢代さんがいない・・・」


「人狼に襲撃されたようです」


「人狼って」


「矢代さんは人狼ではなかったようです」


「でしょうね」


「占い師さん、もし居たら出てきてください」


と、アラックス。


「わたしは違うわよ」


「私もよ。サクラ」


「ちなみにわたしは市民なの」


「違う!きさまは人狼だ!」


「お父さん・・・なんでわたしに・・・」


「何を根拠に、お父様」


少しほくそえむアラックス。


「わしが占い師だからだ!」


「あなた本当なの?私は騎士よ。あなたを守ったの!」


「お母さん・・・」


「もうこのゲームは終わりだ。よう生きとった名生・・・」


「だから私はアラックス。名生ではありません。そもそもお父様は本当に占い師なんですか」


「当たり前だ!嘘なんてつかん!」


「そうです!この人は嘘なんてつく人じゃありません!サクラ何とか言って!」


「お母さん・・・」


「ではサクラさんが人狼ということなんですね」


「わ、わたし人狼じゃない!」


「お父様はそう言っておられますが」


「ち、違う!わしが指さしたのはお前じゃ!名生!」


沈黙。


「私でしたか」


「そうじゃ!サクラがかぶったが・・・」


「そ、そうよ!お父さんまぎらわしいんだから・・・」


「すまん」


「他の方も私が人狼だと」


全員が頷く。


「三体一ですか。困りましたね」


「いい加減白状しろ!」


「ゴーン」


柱時計の男。


「この音・・・」


「ああ、気づきましたか。私が親友にプレゼントした柱時計の音です。妙に落ち着く音でね。音源を録音させてもらいました。雰囲気作りです」


「やっぱりお兄ちゃんなんでしょ?」


「そろそろお時間です」


「わ、わたし・・・」


「お父様は占い師、お母様が騎士。私は市民。サクラさんも市民。困りましたね。人狼はいるんでしょうかね。サクラさん」


「お兄ちゃん・・・」


「それでは投票をしてください。人狼だと思う方にせーので指さしてくだい」


「お兄ちゃん・・・わたし」


「せーの!」


沈黙。


「投票結果が出たようです」


アラックス二票。鹿原良子二票。


「ちょっと・・・サクラ」


「お母さん・・・」


「私とお母様が同票になりましたね。サクラさんとお父様で心変わりはないですか」


「わしはこの目でお前が人狼だと確認したんだ!変える気はない!」


「サクラさん」


「ねぇ!サクラどうしてなの!どうしてお母さんにさしたの!」


「お母さんは騎士なんでしょ」


「そうよ!あ、あんたなんでそれ分かっててお母さんにさすのよ!」


「お母さん・・・指さして、ごめんなさい」


無邪気な幼少期、母親に指をさして暴力を振るわれた記憶を思い出すサクラ。


「そんなこと聞きたいんじゃない!お母さんに指さした理由を聞いてるの!」


良子の言葉な当時の記憶のように心を突き刺した。


「お母さん・・・お父さん守ったんだよね。私じゃなくて・・・」


「サクラ」


「私じゃなくて・・・」


沈黙。


サクラの目がうるむ。


「それは違うの!本当はサクラも守りたかった!でも一人しか守れなかった!お父さんとは長い付き合いだし、最後まで迷ったの!許して、サクラ」


「お母さんいつもそうだよね。私の冗談やミスはいつも怒るのに自分の時は許してほしいんだね」


「違う!勝てる試合をくだらない恨みの為に」


「くだらない恨みってなに?」


睨みつけるサクラ。良子は唇を噛み締めた。


「あんた私を恨んでた。子育てをおろそかにする私を」


「そんなこと・・・」


「いいの!私のことが嫌いだってずっと気づいてたわ。でもね、教育には厳しさが必要なの!それもあなたたち子供の為だと思ってた。お母さんもそういう風に育てられたから。でも、サクラの私を見る目が辛かった・・・」


鹿原良子の目がうるむ。


睨みつけるように見つめるアラックス。


「家族の亀裂。血の繋がりなんてそんなものです」


「お兄ちゃん・・・」


「サクラさん、お母様は血のつながったあなたよりも所詮他人のお父様を選んだということですよ。それが真実です」


「違う!それは違うの!わかってほしい!」 


「何をわかれと」


「違うの!」


「何が違うって言うんだ!このクソババア!」


沈黙。


「黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!教育だ?子供の為だ?全部自分の為だろうが!」


「親に向かってなんて口の利き方だ!名生!」


「だから俺はお前らの子供じゃねえんだよ!」


「・・・な、何を言ってる。名生。いい加減目を覚ませ!」


勢いよく立ち上がる鹿原清。


胸ぐらを掴む。


弱々しい拳がアラックスの顔にあたる。


「・・・殴ったな」


「お父さんやめて!」


止めに入るサクラと良子。


ほくそえむアラックス。


「これが家族の形です」


「こんな奴、わしの息子でも何でもない!生きる価値もない」


そう解き放たれた言葉にアラックスの表情が固まる。血走る目。小刻みに震えている。恐怖ではなく、怒りだ。おそらくその怒りを止められないと悟った恐怖かもしれない。本当に殺してしまうかもしれない。


「その通りだ!息子なんかじゃない!追放なんて関係ない!この手で俺が全員殺してやる!」


「お兄ちゃんやめて!」


「離せ!サクラ!」


「生きる価値がないだと!そんな言葉を息子に言えるのか!それでも親か!」


「お兄ちゃん!ダメ!」


清に銃口を向けるアラックス。


銃声。


沈黙。


頭から血を流し倒れるアラックス。


「失礼いたしました」


スーツを着た一人の中年男が姿を現す。


「驚かせてしまって申し訳ございません」


男は倒れているアラックスの顔に白いハンカチをかぶせる。


「申し遅れました。この店の店長をしております。沖田と言います」


「店長さん?」


「ルール違反によりアラックスさんを処刑いたしました。投票が終わっていないにも関わらず、銃口を向けた彼の行為はルール違反です。よって市民チームの勝利です」


「ど、どういうこと・・・」


「アラックスさんは人狼でした」


「そんなのはどうでもいい!よくも名生を!」


「お父さん落ち着いて!」


スーツを着た男の胸ぐらをつかむ清をサクラがなだめる。


「名生・・・お母さんもすぐ行くからね・・・」


「泣いたってお兄ちゃんは帰って来ないのよ!自殺でもするつもりなの!」


凛とするサクラとは違い、落胆する清と良子。


「真実を知りたいですか?」 


スーツを着た男が口を開く。


「なんの真実だね」


「彼は名生さんではありません」


「どういうこと?」


「確かに名生よ!この顔は私の産んだ名生なの!」


「よく見てください」


男はゆっくりハンカチをとる。まじまじとアラックスの顔を見る良子。何かに気づく清。


「確かに名生では、ないな・・・」


ため息と静寂がこの場を支配していた。男は再びハンカチをアラックスにかける。


あまりにあっけなく人狼は処刑され、市民チームの勝利となった。


スーツを着た男はゆっくり立ち上がりつぶやいた。


「店長である私が真実をお話いたします」





・アラックス×人狼

・矢代×市民

・サクラ○市民

・父親○占い師

・母親○騎士




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