表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/44

夫婦の話



「その髪型可愛いね」


「さわるなよ」


「で、借金いくらあんの?」


穏やかな口調だが女の目は笑っていない。


「三百万ほど」


隠し通せないと察した男は開き直りにも似た態度で答える。


「ねえ?返すあてあるの?」


「ないよ。借金を借金で返してる。自転車操業だ。もうその借金を返す当でもなくなった」


「ねえ、じゃあどうすんの?」


「内臓でも売るか」


「そんな冗談言ってないで真面目に考えてよ」


「真面目にねえ」


「三百万くらいならコツコツ働けば五年くらいで返せない?」


「一月で十万貯金するとして、一年で百二十万、三年で三百六十方か」


女の目に微かな光が見えたが、男はおもしろくない顔をする。


「それでも生活費がな。月三十万は稼がないといけなくなる」


「稼げばいいじゃない!」


「ここの家賃が十万だからな」


「もっと安いアバートに引っ越しましょ、3LDKじゃなくてもワンルームでもいいじゃない」


「一人の空間は欲しいだろ」


「借金クソ野郎がわがまま言わないでよ。ワンルームで充分。一人の空間が欲しいならカーテンで仕切れば」


「お前、六畳一間の部屋でカーテンでしきるってどんだけせまいんだよ」


「借金返すためでしょ!我慢しなきゃ。そもそもなんの借金よ」


「パチンコ」


「はあ?パチンコで三百万もなくなる?」


「しばらくはそれで食べてたから。プロだったから」


「今は」


「ごらんの有様だ」


微かな輝きを放っていた女の目はよどんだ。


「ホストは?」


「行ったり行かなかったり」


「行けよ!」


「まあ、そこの客に金もらったりしてんだけど」


「もらうなよ!ねえ、真面目に働いてよ!」


「真面目ねえ」


「私が働いてるからいいようなものをこれじゃヒモじゃない」


「ヒモにも使い道があるぞ。新聞紙をまとめるにもヒモが必要」


「そういう冗談言ってる場合?もうこんなバカと話してらんない。そんな人だと思わなかった」


「ユーモアだよ。センスないな」


「そんなセンスいりません!」


「借金を黙っていたのは悪かった。穂香に心配かけたくなかったから。自分でなんとか返せるとおもった」


「返せてないでしょ!」


「うん」


「どうすんの」


「お前が代わりに返せ」


「嫌よ!」


「そう言うと思った。冗談だよ」


「ねえ、お願いだから真面目に考えてよ」


「真面目ねえ」


「仕事どうするの?」


「マジシャンか、芸術家にでもなるかな」


「なにそれ」


「マジシャンっていうのは人が驚くようなことをー」


「知ってるわよ!そういうことじゃなくて。真面日に働く意味知ってる?」


「マジシャンや芸術家を馬鹿にしてるのか?」


「そういうことじゃない。もっと簡単な仕事。安定した仕事をしてほしいの。マジシャンで時給がでるの?」


「驚きと笑顔という報酬が」


「バカじゃないの!それで借金返せるの?焦らなくてもいいからコツコツ確実に仕事して二十万くらい稼いできてくれたらいい。十万は返済に回す。家賃や食費、光熱費は私が全部払う。残りのお金は私が払うから。だから安い五万くらいのアパートに引っ越そう。ね?」


「頭金かかるぜ」」


「私の貯金でなんとかするわよ」


「引っ越すんだったらその近くで仕事探さないとな。自転車で行ける範囲の」


「何言ってるの!県外に引っ越すわけじゃないんだから電車で通える範囲で探しなさいよ」


「それは無駄に交通費がかかる」


「必要経費だから私が払うわ。とにかくまずは真面目に働いて」


「真面目ねえ」


「なんでそんなに真面目に働くのが嫌なの?」


「つまらないだろ。そんな奴。ただのつまらない男になりたくない」


「バカじゃないの!借金男のくせに」


「ユーモアはある」


「全然笑えないんですけど・・・」


「まあ人には相性があるからな」


「マジックうまくなって、稼げるようになるまで何年かかるの?」  


「人によっては何十年かで」


「それまでどうやって食べていくの?」


「お前が食わせろ!」


「なんであんたが怒るの!」


「・・・それは冗談。アルバイトでもするよ」


「なんの?」


「コンビニとか」


「それ!わかってんじゃん。まずそこでしょ!コンビニで働くのね。よし!求人探して、履歴書も書いて」


「履歴書がな」


「面倒なの?」


「赤の他人に生きてきた道筋をすべて公表するのはな」


「偉そうに何言ってんの!それは仕方ないでしょ。会社にもちゃんとした人なのか選ぶ権利があるんだから」


「上から目線じゃないか」


「お金もらってんだから仕方ないでしょ!」


「俺は会社にお金をもらってんじゃない。お客様に、だ!」 


「おっ!いっちょまえなこと言ってら。そうだけどそれは会社があってのお金でしょ」


「まずは会社に信用されないといけないか」


「そう!」


「上から目線だな」


「わかった。そんなに履歴書を書きたくないなら自分で商売しなよ」


「だからマジシャンか芸術家とはじめから言ってるでしょ」


「そうだけど、もっと時給とか確実に収入になる仕事ない?」


「日銭になる仕事か」


「そう!・・・っていうか芸術家ってなに」


「詩を書いてる」


「見せて」


「ほれ」


「『わたしのいずみはささいなこはっきりせい』って、なにこれ?」


「詩」


「詩でもなんでもない。こんなの。松尾芭蕉に謝れ!」


「『わたしのいずみ』っていうのは心のダムみたいなものだ、よく心が枯れるとかいうだろ?それをいずみよんでいる。それから『ささいなこ』というのは心のいずみは大事だが、それだけではないという意味。ささいなこと、『ささいなこ』の「こ」はわたしという意味、自立心だな。で、どうするかはっきりせい!」


「意味わかんない!」


「意味はわかるだろう。自分の心と向き合って、世の中のできごとなんて小さいことだから自由に生きろという意味だ。芸術家に説明させるな。恥ずかしい」


「お前、芸術家じゃねぇだろうが!」


「もう疲れたから寝る」


「私も寝るっ!」


こんな感じで話は脱線した。気がつけば借金は一千万に膨らんだという。

女は男を奮い立たせるため、ある人物に相談した。


「真面目に生きられない人もいます。でも、お金が必要なの。私達には」


愛は時に人を不幸にさせる。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ