兄の話
兄の名前は鹿原名生。両親がつけた名前らしいんだけど、名前の由来を聞くとあまり良い顔はしない。「名前なんてどうでもいいんだよ!」って父親が怒鳴ることもしばしばあった。
そんな父親の名前は鹿原清。普段は大人しいんだけど名前の由来だけでキレるという謎の性格……ほんと意味わかんない。
ゴーン。
あっ!柱時計が鳴りましたね、気にしないでください。
そうそう、母親の名前は鹿原良子。料理が上手で自慢の母親って言いたいとこなんだけど、父親同様よく分からないところでキレたりするの。私が料理のお手伝いをしてる時、「お皿とって」って言うから冗談のつもりでお茶碗をとったら「あんた!お皿って聞こえなかったの!お皿!お皿!お皿!」……文章じゃ伝わりにくいんだけど「冗談だよ~」って微笑みすら出せる空気じゃないの。笑えない空気を作るの……そうなってくるとこっちがしょぼーんってなってきて。ああなんでこんなこと言ったんだろうって悲しい気持ちになる……。本当に夫婦ってよく似てるなあー。長年一緒に居ると似てくるって聞いたことがあったっけ……。よく言えば真面目で、悪く言えばユーモアのかけらもない家族です。
我が家には家訓があって「何事も、ど根性』」っていうのが我が家の家訓なんだけど、「なんで「ど」をつけるの?」って聞いたら、父は「ど根性カエル」って漫画が好きだったみたいでそこからきてる。身体を鍛えるのが好きで昔はボディビルダーになりたかったみたいだけど、母親の妊娠を知ってあきらめたって。
「もうそろそろ春だなー」
外を見て父親が「お前の季節だ」って珍しく微笑んだ。
「もうじき一年か…」
ひとりごとのようにつぶやく声に母親は涙を浮かべた。無理もない。
私の名前は鹿原サクラ。なんで私だけカタカナ? その理由は聞けない。兄の名前の由来を聞いて激怒されてから父親にずっと聞けないままだった。兄が死んでそろそろ一年。本当にクソみたいな人生を送ったであろう兄の物語です。




