友人の話
深夜二時。
なかなか寝付けなかった少年は何気なくテレビをつけた。そこには有名団体のプロレス中継がやっていた。全く興味はなかったがボーと見ていたらしい。
プロレスというのは総合格闘技のようにギブアップやレフェリーストップがある。さらに両肩が地面に三秒以上ついたら負けのという独特のルールが特徴的なスポーツだ。ギリギリで選手が起き上がるところにハラハラドキドキさせられ興味を持ったという。
体操選手のようにクルクル回ってダイビングする。場外に向かう飛び抜になぜか共感し、少年の目はプロレスのとりこになった。
そんな彼が一番好きだった技が足四の字固めという技。三歳になる骨格が定まらない妹に中学一年のその少年は容教なく足四の字固めをきめた。
ストンピングという足で人を踏みつける技を妹にして肩を脱臼させたことがきっかけで、プロレスとは少し距離を置いたがそれでも少年がレスラーマスクを手放すことはなかった。
彼には何十年も連れ添う友人が大勢いたという。お笑いが好きで冗談を言ってはクラスメイトを笑わせていた。少し変わった所があって本名でお互いを呼びあわないのが少年らの当時の流行りだった。その名残が今も続いている。
『ただのつまらない男』『ハイド』『化け物ちゃん』『スヌーピー』『金ちゃん』『51』『横浜』『アラマノ』『KP』『ケタオ』・・・。
「・・・独特なあだ名をつけられるお兄さんですね」
サクラさんはお手上げ状態の顔をするだけでお兄さんの悪口は言わなかった。死人に口なし。それを十分理解しているのだろう。どんな人間であれ死者を冒涜する権利はない。
ゴーンと鹿原家の柱時計がなった。
ゴーン、ゴーンと計五回。
「・・・もうこんな時間になってたんですね」
私はまじまじと時計をみた。とても古い時計だ。妙な重低音が心臓に突き刺ささる。
「驚きました?兄の友人からのプレゼントみたいです。兄が大事にしていて、兄が亡くなってからはリビングに置いてます」
「なるほど・・・・」
不気味な雰囲気を感じる柱時計に私はおもわず背を向けた。
「・・・あまり長居をしてもご迷惑になるので、私はこれで失礼します。また後日お話を聞きにまいります」
「あの・・・」
サクラさんが私をひきとめる。愛の告白だろうか。まずはお互いを知ってから。咳払いをしてクールに振る舞う。
「何か?」
「あの・・・毎回ここに来られるのも大変だと思いますので私レポート書きましょうか?その方が矢代さんも助かりません?」
「あ、そうですね・・・」
愛の告白だと勘違いした自分を殺したい。
「レポートはありがたいです」
言ってはなんだが、レポートにまとめてくれた方が早めにお父様とお母様からの話も聞けるかもしれない。サクラさんの話は年寄り並に長いからだ。
「わかりました。それでは名刺にアドレスを書いていますので、そこにメールしていただけますか」
サクラさんは嬉しそうに笑って私を見送った。可愛い。
夕陽が彼女の笑顔のように眩しく光った。一日が終わる一瞬の輝き。その光景を見て何故かどっと疲れが出た。
帰り際、鹿原家の表札を背に私はため息をついた。沖田は何故この家を取材するように里村に言ったのか、なんとなくわかるようなわからないような気がした。




