序章
序章
「だーーっ!終わったぁぁぁぁ!!!」
フルダイブを終えて現実世界に戻ってきた俺の心からの叫びが漏れ出た。
ついにこの日が来た。2050年に発売されて以降、販売本数、売り上げ、満足度のオール1位を総なめにした大人気オンラインフルダイブ型VRホラーゲーム『キルゾーンZ』通称キルズ。このゲームをプレイする中で、通常プレイ時間500時間以上、各種武器での縛りプレイで最高難易度をクリア(プレイ中特定の武器オンリーでクリアするプレイスタイル、ハンドガンやショットガンのみでの単一縛り。ナイフ縛りなど高難易度のものでも飽き足らず、作業用ドライバーのみ、野球用ボールのみなど業が深い縛りもある)、ゲーム内ゾンビ及びモンスターの総撃破数10万キル、の3項目を達成したプレイヤーのみが解放される裏・最高難易度『無理ゲーモード』(このタイトルだけで運営がクリアさせる気ないのがわかる)、その無理ゲーモードを完全攻略したのだ。苦節3年、ここまでのプレイ時間は2000時間を超えていた。プレイ当初大学生だった俺が今や社会人である。独り言の一つや二つを漏らしてもバチは当たらないだろう。
長かった、非常に長かった。ホラゲーが大好きで、特にゾンビ系のアクションゲームを愛する俺ですらも何度も挫けそうになった。ストーリーを楽しむのは初回で十分、と、ひたすら周回してたあの頃、作業用ドライバー片手に遠距離タイプのボスキャラ相手にただひたすら“その瞬間”を待つ時間、無限湧きスポットでサブマシンガンのトリガーを引き続けて過ごした熱い夜(運営のこだわりで銃身がクッソ熱い)、それらを乗り越えてようやく到達した無理ゲーモード。そこからは更に激しい戦いだった。敵を視認してから攻撃アクションに移っていたのでは瞬殺されるほどの高速機動雑魚ゾンビ(雑魚ではない)。難所だと言われる“渓谷”(100体以上のゾンビが前後から迫ってくる上に左右の崖から投擲してくる)の無理ゲーモードではゾンビの数1000体。しかも100体が出てくる時間と同じ時間間隔で1000体分出てくる。ボスモンスターが複数で登場してくるのは当たり前で、何故か各々の行動に個性がある。もはや途中から戦っていた相手はゾンビではなく自分だった。そう悟ってからもゾンビと戦っていた。まるでウロボロスだ。。。いや違うか。
達成感に満たされて目を閉じていたのも束の間、愛猫のうみ助の催促(前脚をちょこんとタッチしてくる、くそかわゆ)に我に返りうみ助のごはん、と、ついでに自分の食事も準備する。準備と言ってもこの数センチしかないサイコロ型の食べ物を機械に入れてスイッチオンするだけだ。準備も一瞬、食べるのも一口で終わるが1日分の必要なエネルギーと栄養素を賄ってくれる。“手料理”なんて超高級料亭でしか出てこないため、一般市民はほぼこの食事だ。ちなみに食費で考えるとうみ助の食費の方が高い。まぁ、親世代もそんなもんだと言っていたから昔からそうなのだろう。ちなみにうみ助が食べてるのは『金のスプーンマグロ味』だ。ペット用のフードは何故か一口仕様でなく小粒がいっぱいだ。たしか創業者のこだわりだったか、、、まぁうみ助が美味しそうにカリカリしてるから俺も幸せになれてウィンウィンだ。
ふと、フルダイブカプセルに目をやると、『メッセージ有り』の表記が。送信相手は…キルズの開発から?
まさか『真・裏最高難易度が開始されます』とかじゃないよな、やめてくれよ(喜)などとぼやきつつ、深呼吸して接続様のメットを装着。たしかに、キルゾーンZの開発からのメールであった。
「プレイヤーハヤテ様、裏最高難易度・無理ゲーモードのクリアおめでとうございます!まさか本当にクリアされるとは…。開発一同驚愕しております!とは言え、全世界で見るとハヤテ様のクリア順位は100位となります!最速クリアは2年半前、プレイヤーの※※※※様でございました!販売開始からわずか半年での完全攻略に、開発スタッフのやる気キルゾーンにクリティカルが入りました。そして今、ようやく完成した『キルゾーンZ〜絶〜』を、裏最高難易度をクリアした100名の方々に配信する運びとなりました!是非とも新しいキルズの世界をご堪能ください。今度は何人生き残るかn…おっと失礼。
特殊ダウンロードコンテンツ、キルゾーンZ〜絶〜を開始しますか?Yes/No」
待て待て待て、メールを一気読みし(実際3回は読んだ)、俺は接続メットを外した。まずあれだ、クリア勢が他に99人もいたのか!畜生!なんなら自分だけかと思ってたのが恥ずかしいわ!ってか半年でクリアとかやばすぎ!!チートか?チートしたんか!?と、少し荒ぶってからネット情報を検索、さすがに何も載っていない。文面通りであればクリアが100人に到達してからのその100人に配信だろうから、まさに今、始まったコンテンツなのだろう。これを見逃す手はない。
すぐさま仕事用の端末を取り出し、有給の残数を確認。たしか5年前の法改正で有給日数倍になったんだよな。なんか適度に消費しろって言われてたけど忘れてたや。ありがてぇありがてぇ。残数は…、よし公休と合わせれば90日。3ヶ月分ある。手元の端末で明日以降の出勤予定を有給で埋め尽くし、3ヶ月分のゲーム時間を確保。これで無理ならまた数年かけてちまちまやるさ、と言い聞かせて、その他食料確保や諸々の引き落としの確認などを済ませたハヤテ。うみ助を膝の上に乗せ(重要)再び接続メットを装着。
『特殊ダウンロードコンテンツ、キルゾーンZ〜絶〜を開始しますか?Yes/No』
「当然Yesだ!!!」
――かくして、ホラゲーと猫をこよなく愛する男の物語が始まった