人、それぞれ
「ほら。報酬だ」
金髪の男がテスへ小さな袋に包まれたリョクを渡す。
「ねぇ、君の名前は?」
「はぁー。フィリア。フィリア・クッキーだ」
「テスタマン。テスって呼んでね」
「よろしく。テス」
「こちらこそ。フィリア君」
「……」
フィリアは少し苦悩の表情になった。
「ん?」
「いや……なんでもない。いつかまたな」
「ええ。また会いましょう」
そういって、バラバラのノヴァが入った麻袋を持って外にいる偏愛の騎士団のもとへ向かった。テスの方はクルーウ達の丸机を囲む一つの椅子に座った。
テスの正面にクルーウ、右にリベラ、左にゾネと丸机を囲んでいる。
「さて。自己紹介といこう。仲良くなるための第一歩さ」
手を広げながら、笑いながらリベラが仕切り始めた。
「……」
ゾネは仮面でわからないが多分、苦悶の顔でリベラを見ている。
「テスタマン!テスって呼んでね」
「何回いうんだよ。クルーウ・スーサイドだ」
「……ゾネ・ヘルツ」
「リベラ・ファートだよ。よろしくね」
「うん。クルーウ君に、ゾネちゃん。そしてリベラちゃんね。うんうん」
噛み締めるようにクルーウ達の名前を言う。
「……クルーウ君?」
「ふふ。可愛くない」
「……まぁ、いいけど」
「テスは何年ぐらい。旅をしてるの」
ゾネが聞いた。
「うーん。多分四年ぐらいかな」
「結構してるじゃん」
「ゾネちゃんは?」
「……二十……十数年ぐらいじゃない」
「え!何歳なの!」
「私は三十だ」
「う、ウソー」
テスは信じられないって顔でゾネを見ていた。
「え。だって、声、若いじゃない。う、ウソー。と、年上。信じられない……」
確認するようにゾネの事をジロジロ見る。
「別に顔は見せるつもりないからな」
そういって左手で仮面を押さえた。
「え!薬指ないの!」
キラキラとした目でゾネの事を見る。
「……五月蝿い。黙れ」
「えー!何で、かっこいいじゃない!」
「それ。俺も気になってんだ」
「そうだよ。仲間同士で隠し事はなしだぜ」
クルーウとリベラはニヤニヤと楽しそうにしていた。
「……はぁ。……これは、テオにやられた」
「まじで、何したんだよ」
笑いながらクルーウが聞く。
「シリウスに入ろうとした時に、偽名を使ったら、バレたんだよ。あいつの察しの良さは以上だからな。戒めとしてやられたんだよ。これは」
「ゾネー。あいつらにも偽名使ったの。馬鹿なのー」
「……偽名使った方が安心できるんだよ。私の事を誰も知らないっていう環境が欲しいんだ」
(匿名でネットやってるみたいなもんかな)
「……いいですね」
テスが口を開いた。
「何がだよ」
「欠損は人生ですよ。欠損の過去を知る事でその人の欠損をもっと好きになれるんですよ」
変な持論を語っている。
「そうかー?」
「ええ。だから、クルーウ君。貴方のその右足についても教えて」
「ヤダね!教えるか!サイコ!」
「もー。そんな事、言わないでよ」
「死ね!」
「はぁー。いいよ。こっちで勝手に想像するから。想像している時が一番楽しからね」
「欠損の何がいいんだよ」
「私はー。頑張ってる姿に興奮するんだよ。体の一部がなくなっても、必死に生きてる姿に興奮するだよ」
「ふーん。リベラわかる?」
「……私は欠損よりも死なせる方が興奮する」
「えー。サイコじゃん」
リベラの発言にテスは若干引いている。
「君が言うなよ」
(リベラとテスは癖が違うんだな)
「まぁー。仲良くいこう」
「これから、どうするの?」
「今はアンセルキッラっていう、男を待ってる」
「アンセルキッラ。あれ、有名人じゃない」
「え!知ってるの!」
「ここ数年で出てきた、勇者の一人でしょう」
「勇者?」
「知らないの?クルーウって、たまに常識ないね」
驚いた顔のリベラがクルーウの頬をつつく。
「いいか。勇者っていうのは、昔、魔王と共に誕生した三人、いや、四人だ」
「……え?なんで、誕生したの?」
「そこは誰も知らん。神かなんかが、人類の抗体として誕生させたんじゃないの。まぁ、そろそろ世代交代の時代だから。新しいのが現れたんだろ」
「アンセルキッラがその一人なの」
「ああ。そう、最強だ。だから、私は嫌いなんだ」
何かを考えるようにクルーウは机に俯いた。
「……かっけー」
呟くように言った。
「信者がよー」
貶す様な声でリベラが呟く。
「は!別にいいだろ!」
「私はアンセルキッラとアンセルキッラが好きな人間が嫌いだ」
「うるせぇ!テメェ嫌われようが、どうでもいいんだよ!ぶっ殺すぞ!」
「クルーウ、調子乗ってない。本気で私を殺せると思ってるの」
その言葉と同時にガタッと椅子が倒れ、クルーウは肩に掛けてる、フランベルシュを掴んだ。
「ね!私の馬車見ない!」
一触即発の雰囲気にテスが切り込みを入れる。
「馬車?」
「そう!馬車、遠く行くとき、乗っていくよね」
「馬車か、ずっと歩きだったし、いいな」
ゾネが言う。
「ふん。別にいいぜ」
「君はまだ早い、また今度にしろクルーウ。後、アンセルキッラの事ですぐ切れるな」
クルーウの肩を掴み、ゾネが諭した。
「はいはい」
「仲良くいこうね!」
役場の外に出る。外は日が完全に落ち、冷たい風が吹いている。コツコツと整備された、石の道を歩いた。酒場の隣にあるテスの馬車に着く。二匹の馬に小さな木の箱みたいな荷台が繋がれている。
「ジャーン!どうこれ!」
「ふーん。結構良い馬車、乗ってるじゃない」
よく見ると、ところどころ古いが造りはしっかりしている馬車だった。
「どうぞ、こちらにー」
そういって、荷台の後ろに付いている両扉を開けた。油と酒の匂いが鼻につく。
馬車の中は油絵と酒が有象無象に転がっていた。
「汚い!」
無神経にクルーウが言った。
「え!」
「汚い!」
「……だってね。今まで、一人だったからね」
テスは恥ずかしそうにしていた。
「はー。まずは掃除だな」
荷台、乗りながらゾネが中を見物する。
「こんなところで、寝れない」
「おい。鼻潰してやろうか。クルーウ」
「自分の鼻でやってろ」
さっきとは打って違って、クルーウはリベラの煽りをスルーした。
「じゃあ!初めてのチーム行動は掃除ってことで!」
テスは楽しいそうにクルーウ達に提案する。
「ん。何あの絵?」
クルーウが指差す。荷台の奥の壁には絵が飾られていた。他のとは、打って変わって、大事そうに飾られていた。黒い塗り潰された背景の中、男っぽい右手が絵の外から伸びていた。その指には優しく桜を掴んでいた。




