血塗れの愛
吊るされた。四人の男の死体。部屋の中には血の匂いが蔓延していた。壁には解体用の道具が綺麗に飾られていた。
「何をしているんですか」
テスの後ろから、ノヴァの震えた声が聞こえた。
振り向くと階段の入り口にノヴァに立っていた。
「見たの?」
絶望と怒りが混じった声だった。
「さっきの赤い薔薇は人の血ですか?」
「そうよ……貴方もどうせ気持ち悪いと思うのでしょう……」
階段をゆっくり降りて、テスに近づいていく。手を頬に伸ばそうとする。
「感動です!」
テスが叫ぶ。
「素晴らしい作品です!やはり!あの絵は貴方だったんですね。ノヴァさん!私は貴方のファンです!貴方の絵、私の故郷で見ました!」
ドンドンとテスの口調がヒートアップしていく。
テスの頬に触る寸前にノヴァの手が止まる。
「本当?」
声が震えており、ノヴァの目に涙が溜まっていた。
「本当です!人間の血を使う、発想は誰でも出てきます!しかし!最後までやる人間はそういません!それはもう!才能です!」
はぁはぁ、とテスの呼吸は荒く、頬が真っ赤。
「……私は……私は!」
ノヴァの目から涙が出てきた。
「そんなこと、初めて言われました。今まで必死に説明しても誰も理解してくれなかったんです。皆んな、気持ち悪いとか、怖いとか言って、皆んな嫌うんですよ私の作品を。こんなにも美しいのに」
早口でボソボソと言うテスはそれを黙って聞く。
「初めてはどんな感じだったんですか?」
テスはそっちょ
「ある日ね……私はね……老いを感じたんですよ……」
「老いですか?」
「そうなの、肌のハリがなくなり、小皺が増えたの。私は老いを美しいと感じなかったの」
「それでね。ある日聞いたの処女の血を飲むと老いが止まるって。どっかの姫がそんなことをして、老いを止めたって」
「ほう。それで効果はあったんですか?」
ノヴァは少し眼を逸らした。
「全然。残念ながら嘘だったの。桶いっぱいに血を用意したのに……」
「それは残念でしたね」
「結果残ったのは三人の女の子の血と老いだけ。」
「まぁ、それは……」
「けどですね!その時、思ったんです!この血を何か有効活用できないのかと!そして気づいたんです!」
ノヴァは頬を赤らめた。
「血は美しいと……」
頬を赤らめたノヴァは可愛く初心な顔をしていた。
息を整えて話し続ける。
「試しに血を混ぜて絵を描いてみたんです。それが、あまりにも美しくて……」
両手を頬に当てて恥ずかしそうに顔を隠す。
「インスピレーションが湧きまくって、沢山書いたんですが遂に血が足らなくなって、シリウスっていう、盗賊と契約したんです。若い人の血を貰う代わりに人を殺すと」
「人を殺せるんですか」
「はい。私の能力っていうか……」
「かいか持ちですか?」
「……はい!もしかして!」
「はい。私も持ってますよ」
「わぁ!運命感じちゃいます!」
嬉しそうに笑う。
「はぁー。今までは私の芸術を理解できない奴ばっかだったんですがテスさんに出逢えて本当に良かったです」
「まぁ。芸術はその人のエゴの塊ですので。理解出来ない人間いるのは普通のことですよ」
「芸術って、難しいですよね。赤い絵を美しいって言ってくれる人もいたんですが、作り方を見せたらキモいって私の作品を嫌うんですよ。こんなにも美しいのに」
「好きに理由がないように、嫌いにも理由がありませんから」
「そうですか……?」
「はい。人間が何かを嫌うのに、いちいち理由なんてありませんよ。だから、芸術の価値もわかる奴にしかわかりません」
「悲しいですね。それって」
「まぁ、わかる奴にわかればいいんですよ。私は貴方の絵を初めて見た感動は本物でしたから」
「あれ?そういえば?故郷ってどこですか?」
「ベルラベッドです。故郷の知人が持ってました。赤い薔薇の絵。後ろに貴方の名前がありましたよ」
「ベルラベッド。海の向こうに私の絵が。そういえば、昔。お金がなくて大量に売ったな……そんときかな……。ベルラベッドって、随分、遠くから来たんですね。もしかして、私に会うためですか?」
「いえ。貴方を見つけたのは完全に偶然ですよ。貴方の絵を見て初めて確信しました」
「えと。じゃあ、どうしてここにいらっしゃったんですか?」
「はい。貴方を殺しに来ました」
「はい?」
「貴方を殺しにきました」
「……何を言ってるんですか?」
ノヴァは困惑した表情をしている。
「貴方のような才能を失うのはとても心苦しいのですが、殺させてもらいます」
「……殺し合いをするって事でよろしいですか」
「ノヴァさん。貴方がエゴを貫くように私も貫きます」
勢いよくノヴァの手がテスの顔面を目掛け、伸びてきた。
当たりそうな瞬間、テスが消えた。
(消えた!いや、沈んだ。)
ノヴァの目にはテスが溶けていったように見えた。テスのいたところにシミが出来ていた。
そのシミに急いで触ろうとした。
刹那。シミからペイントナイフを持ったテスが、勢いよく出てきた。ペイントナイフはノヴァの右目に刺さった。
「ああああああ!!」
右目を抑えノヴァはその場で蹲った。テスが見下す。
「貴方の絵に敬意を持って教えます。私のかいかは水です」
そういって、ノヴァの顔面を蹴り上げた。残った、左目で睨む。
「アアア!トリシルティス!」
テスの足、目掛け伸びてきた左手を右足で押し潰した。骨が軋む音が聞こえる。
「イャアーーー!」
「それって、利き手ですか?そうだったら、すいません。」
ノヴァの右目に刺さった、ペイントナイフを捻り出した。
「アアアアア!」
「右目のない顔は綺麗ですよ。血の涙みたい」
「……はぁーはぁー」
「貴方の絵は本当に素晴らしい物でした。死後評価されると願います」
「……はははは。……あ、ありがとう。あ、貴方の絵もみてみたかったわ」
感謝の言葉を聞いたテオはノヴァの右耳にペイントナイフを突き刺した。
突き刺したペイントナイフをゆっくりと抜き出した。先端は血と固体物が付いていた。
「ふぅー」
静止画の様に動かないノヴァの体。美しくいようと努力して体。それを見て、テスは周りの解体用の道具を見る。
「ノヴァさん。私が好きな事、教えていませんでしたね」
壁にかかった、ノコギリを手に持った。
クルーウ達は役所の休憩所にいた。
休憩所には人を待てるように大きな丸い机がランダムに置かれている。
「そろそろ、夕方だぞ」
クルーウは机、突っ伏して暇そうにしている。
「死んだんじゃない」
楽しそうにリベラが言う。
「ノヴァに負けるぐらいだったら、雑魚すぎる」
「そんな、弱いの?」
「いや、かいかは強いが。本人が動けないタイプの人間なんだ」
「ふーん」
バンと勢いよく、役所の扉が開く。
「お。帰ってきた」
そこには、血塗れのテスが大きな麻袋を引きずって入ってきていた。クルーウ達を見つけた、テスはニコニコしながら近づいてきた。後ろから偏愛の騎士団の金髪の男が入ってきた。
「どうだった?」
クルーウの問に対しテスは大きな麻袋を机の上に置いた。
「なにそれ?」
何も言わずに、縛っていた麻袋の紐を解いた。ノヴァの四肢と頭と胴体が机の上に広がった。
「な!」
「ノヴァ!」
クルーウとゾネがテスを警戒心をビンビンにして見る。
「アハハハハ!いいね!」
ただ、リベラだけが笑っていた。
「私の名前はテスタマン。テスって呼んでね。好きなのは酒と絵。それと、欠損だよ。よろしくね」
「オイ!最後!」
「アハハ!いいよ!今日から君は私達の仲間だ」
「何!勝手に決めてんだよ!」
「そうだ。なんでこんなサイコを……」
クルーウとゾネはお互いを見て、頷く。
「いいか。私がリーダーだ。私が一番強く自由だからな」
「はぁー。わかったよ。これからよろしく」
半ば折れたクルーウは了承した。
「うん!よろしくね!」
血塗れと満面の笑みがテスにクルーウは少しカッコいいと思った。




