星の最後は綺麗 三
テイ!
私はテオ。元奴隷だ。
私の右眼がこうなったの十年くらい前。
両親に売られたか、どこから連れされたかのどっちかの気がする。もう思い出せねぇほど昔の話だ。
私はボロボロの薄汚い布切れみたいな服を着ていた。そして、隣には弟がいた。名前はメオ。私と同じ青い夜のような眼をしている。私より二歳下だ。
私達は両手を背中に回され、ロープで縛られていた。
私達は馬車に乗っていた。二つの馬車が草原を走っており、直列に並びながらパカラパカラと音を鳴らしながら走っていた。どこに向かっているかは分からない。
後ろを走っている馬車にはボロボロの車輪がついた木の檻を引っ張りながら走る二頭の茶色の馬。檻には十人ぐらいの男達が入っていた。全員、奴隷だ。前の方にはまるで宝石箱のように絢爛豪華な箱を運ぶ白と黒の二頭の馬。
私は宝石箱に乗っていた。
私の眼の前には綺麗な服に派手な装飾を身につけた、二人の男女。夫婦だ。どちらも中年ぐらい。
手入れが行き届いた金髪を垂らす女は針で黒いハンカチに白の糸で紋章らしき物を萎びやかに縫っていた。黒い髪を肩まで垂らす男の方は私と弟をジロジロニヤニヤと見ている。
「……いや、中々の上玉じゃないか!」
男の方が口を開き、楽しそうに答える。そして、女の方を見て答えを返事をして欲しいように眼で訴えかける。
私は何も言えない。喋らない。喋ったら何をされるかわからない。メオもそれをわかっているのか何も言わない。
「……まぁ、中々じゃない」
チラッと見て吐き捨てるように返事して、また刺繍をし始めた。
「ちょっと何だよその返事あんまりじゃないか!」
男は少しムッとした表情をした。続けて。
「そういうね、生返事が夫婦の亀裂を産むんだよ。分かるかい?もっと気持ちを共有し合う事が大事なんだよ」
「……はぁ、分かったわよ」
そして女は刺繍を辞める。刺繍をしていた黒いハンカチを膝の上に置いて、私達をジロジロと見る。
「わァ!綺麗!貴方たら天才ッ!オホホホ!」
女は大袈裟に反応をし笑ってみせた。
「だろッ!わかちゃう!いや!尊敬してくれてもいいんだよ!」
夫婦は笑いあった。
「……まぁ、そんなことは置いといて、この子達をどうするかって話」
「勝ってに決めてよ。私、そんなことで脳みそ使いたくないわ」
「他人行儀ィ……」
「……いつも通り、拷問するか」
「え……」
私は思わず声を漏らしてしまった。
(……ご、拷問?拷問するって言った?今?)
一瞬理解出来なかった。今までそんな素振りを見せなかったのに。メオを見た小刻みに震えていた。
「そう、私の趣味なんだ。まぁ、ちょっとした人生の楽しみだよ。こう、生活が安定してるとあまり刺激がないんだよ人生。私は自分で戦わないからグロい目にも遭わない。だけど、刺激がない人生なんて真っ平ってわけ、わかる。だから暴力的なものを聞いたり言ったりヤったりするのが趣味なんだ」
男は微笑みを浮かべながら話す。私の呼吸が荒くなっていく。
「これぞ、価値ある人生!」
立ち上がり、右手を高らかに上げた。鼻息を漏らす。男は二度、深呼吸をする。
私達に微笑んだ顔を見せてきた。
「オホンっ!それでは、今から、この部屋にある物で拷問する。そっちの方が運命、感じないか?」
男は意気揚々と服の裏からダガーを手に取った。
「おっと、君に使うんじゃないよ。お嬢さん」
ダガーをメオに向けた。
「これは君に使うんだ」
「……えっ?」
メオはついに声を漏らした。
「……あ……え……」
男は何も言わず、メオの顔をジックリと見るだけだった。
「最も、楽しい拷問は一人の人間だけではなく、その人間の大事な人間を巻き込むことだ。勿論、持論だがな」
男はニタニタと笑いながら右手で私の腕を掴む。そのまま、右手で宙に吊るされた。
(ヤられる前にヤってやる!)
「おりゃッ!」
私は男の顔に向かって蹴りを入れ込んだ。
男の鼻から血が垂れる。男は無表情になっていた。
ブンッ!宙に浮かされた私を勢い良く、椅子に殴りつけた。
「ッテェッーー!」
頭から液体が流れるのを感じる。血だ。
「はぁーはぁー!」
と息を漏らす。
「……君は私が最も嫌ことをした。分かるか」
椅子にグリグリと私の頭を擦り付ける。
「私の残虐行為は自分の安全が最低ラインだ。……おい分かるか?えッ!君はそれを破ったッ!私を蹴ったなッ!餓鬼!」
男は服の中からもう一本、ダガーナイフを出した。
馬車の後ろ側の壁に私は両手を重ねた状態で押し付けられた。刃を横にし、男は右手でナイフを振りかぶり、私の両手を貫いた。
「アアアアアアッ!」
壁にぶら下がるような状態になった。
男は女から刺繍していた針を取り上げた。
「あっ。ちょっと」
女が声を漏らす。そんなことを無視し、男はテオを見る。
「いいか。これを見ろ」
男はテオの右眼の前に針を見せつけた。
「これから、村に移動するたび、お前の左目を縫う。拷問は長く深くやるに限る」
「はぁーはぁー」
「お前が叫んだり、喚いたりするたび、弟の指を切り落とす」
私の右眼に銀色の光を放つ針が近づいてくる。私は抵抗をしようする。体全体を揺らすが両手がグチャグチャと音をたて血が出る。血が私の細い腕を流れていくのを感じる。
プチッ。
「アアアアッ!イヤアアアッ!」
シュルルル。下から上と左眼が縫われる。血が頬を垂れ落ちる。
メオの小指が切断される。
「グアアアッ!イタイイタイ!アアアッ!」
メオの絶叫が私の鼓膜を突き抜ける。
(舌を噛んで死のう)
私はそう思った。
舌を噛む。血と痛みが口の中で広がる。下唇が血で染まる。
男がガッと私の首根っこを掴んだ。
「ゲェッ!」
「いいか、お前は俺のものだ。勝手に死ぬな。死場所は俺が決める」
男はニヤリと笑う。
「後、舌を噛んでも死なないよ。昔、奴隷で試したから」
私は泣いてしまった。
あれから、どれくらい経っただろうか。窓の外では夕日が沈みかかっている。村を移動するたび私は泣き喚き散らし、メオの右手の指が切り落とされた。指の血で大量出血で死なないように蝋燭で炙ったナイフで切断面に焼きを入れていた。
メオの右手の指は全て切り落とされたしまった。
私の右眼は完全に縫い終わり、次の村で左眼が縫われる。
「そろそろ。次の村に着きます」
御者が男と女に言う。
「村の名前は?」
男が聞く。
「ロマンです」
「ロマンか。ならノリドはもう近いな。なら、ラストスパートだな……」
ブツブツと男が言う。
「よし、時間かけた分。いい感じに火照ってきたぞー」
意気揚々と拳を握る。
「よし、こっから先は一気に行くぞー」
針が左眼に近づいてくる。
メオを見たが顔がうつ伏せになっており、顔が見えない。
(畜生。最後に見るのがこんなゴミの顔だなんて!)
精一杯の反抗として私は男を睨んだ。しかし、左眼の涙は止まらない。右眼からはただ血が垂れ落ちていく。
「いいねー。いい顔さ。精神力が強いね」
針がもう少しで左眼に当たる。
刹那。無数の何かが、壁を突き破る。男の顔が弾け飛んだ。そして、そのまま私の左の上頭部が弾け飛んだ。
声が聞こえる。
「すげー、脳みそが出来ていくぜ」
「初めて見たぜ、人がかいかしている瞬間を」
さっきまでの男の女、どちらでもない声が聞こえる。
ゆっくりと左眼を開く。私の体には傷が無くなっており、綺麗になっていた。
宝石箱は大人の拳ぐらいの穴が無数に空いており、その穴から夕日が差し込んできた。
私の目の前には男の死体があった。男の頭は完全に弾けて無くなっており、その頭だったものがそこら中に散らばっている。体には穴が出来ており、どれも体を突き破っていた。
女の体も同様に死体になっていた。
「大丈夫か?」
初老をもうすぐ、むかえそうな男が私に聞いた。
「……メオは?弟は?」
私は構わず聞いた。
「……」
男は何も言わず、私の隣を指差した。
メオを見た。
月を失った青い眼が睨むように泣いていた。
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