少年は炎を纏う 〜レベル概念を持った能力が存在する世界で〜

序章 『不穏な影』

プロローグ1 『 ／今際の吐露』

──────泣かないで

　彼女の瞳に浮かんだ雫を指で優しく拭えば、涙袋が赤く染まった。

　身体が小刻みに震えるほどの寒さ、視界は段々とぼやけて、目の前にいる彼女の顔が霞む。

　息をするのがやっと。

　ただ座っているだけでも苦しい。

　少しでも身動きをすれば全身に痛みが走って、地面に真っ赤な波紋(はもん)が広がる。

　声は辛うじて出る。今にも消え入りそうな大きさだけど、彼女には何とか届くと思う。

　伝えなきゃ……眠ってしまう前に。

　これだけは、絶対に────

　無理やり声を出そうとすると彼女が必死に止めるものだから、肩に手を置いて笑ってみせた。

「────」

　血液と一緒になって零れ落ちた言葉。

　此方に崩れるように倒れ込んだ彼女に包まれて、寒さは幾分かマシになる。

　視界は瞼(まぶた)に覆われて──────世界から音が消えた。