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新たな未来へ

 体力が回復すると、再びゴブリンを呼び寄せた。

 以前とは違って、ハンナはゴブリンを前にしてもしっかり動けるようになっていた。


 ハンナの中でなにかしらの変化が起ったことは間違いない。

 アルトはつい嬉しくなって、ハンナの指導に熱が入る。


 絶対にハンナに怪我をさせないよう〈グレイブ〉を張りながら、1匹ずつゴブリンを差し向ける。

 初めは1体討伐するのにかなり手間取っていたが、2体、3体と戦うに従ってみるみる動きが良くなっていく。


 やはり、☆4は基礎ステータスの伸びが良い。

 レベルが上がるにしたがって、力強さも段違いに跳ね上がっていく。


 10体ほど倒したところで、ついにハンナがレベルアップ酔いに掛かった。

 軽度だったが残っていたゴブリンを一気に殲滅して小休止に入る。


 ハンナが仮眠を取っているあいだ、アルトはハンナの武器を確認する。

 短剣は市販のもので、アルトが前に使っていた黒鉄の短剣より性能が低い。


 熟練が低いうちに使い続けたため、ゴブリンの骨などに当たった刃が欠けてしまっている。

 脂がついて刀身は曇っているし。このままだと何度かの戦闘の後に破損するだろう。


《工作》で治すことはできるが、一時的な措置にしかならない。


(このまま《短剣術》を育て続けるより、折角だから《剣術》を育てたほうが良さそうだな)


 アルトはルゥを呼び寄せ、素材を出して貰う。


 出して貰ったのは、ドラゴンの骨だ。

 骨は牙のような魔術的鋭さは生まれない。

 しかし熟練が上がるまでは刃をうまく当てられないので、できるだけ耐久性のある武器の方が良い。


 イメージした剣身を、そのまま骨に向かって投影する。

《工作》を発動し、長剣になるよう骨を引き延ばしていく。

 堅く、強く。折れない剣を目指して、全力で製作する。


「前回よりも良くなってるんじゃないか?」


 疑似鑑定のできるリオンに見せると、そのように評価が下った。

 我ながら良い出来だとは思う。

 決して折れない剣は神器だ。人間には生み出せない。だが、それに等しい強度にすることはできたはずだ。


【商品名】龍骨の長剣 【種類】長剣

【ランク】☆5 【品質】B+


 この剣は、ハンナの命を守るものだ。

 堅ければ堅いほど良い。


「そろそろ俺もなにか作ってもらおうかな」

「また今度で。今はまだ満足な出来になりませんから」

「そのレベルの長剣を作っておいて、なんで満足できないんだよ」

「いやだって、まだドワーフ製の武器みたいな品質にならないから……」


 アルトは唇を尖らせた。


「目指すところがてっぺんって。これだから変態は」

「治療は無理。手遅れ」

「(プルプル)」


 リオンとマギカだけでなく、ルゥまで……。

 製作で良いものが出来たという充足感が、一瞬にして崩れ去った。


 リオンとマギカの罵倒が終わったころ、ようやくハンナが目を覚ました。


「次の戦闘からこれを使って」

「この長剣は?」

「ハンナの短剣がダメになりそうだったから、武器を変えようと思って。長剣でも大丈夫?」

「あ、はい……。良いんですけど、その、これはどこから? 手荷物に入ってなかったような気がしたんですけど」

「えっと……、企業秘密です」


 武器製作の話をすると、マギカやリオンからなにを言われるかわからないので黙っていることにした。

 もうこれ以上、なじられたくはない。


「この長剣、かなりの業物だと思うんですけど、ボクが満足に扱えるかどうか……」

「いまのハンナの筋力ならできると思うよ」


 物は試しと、アルトは早速魔物を呼び寄せる。


 ハンナは初め、長剣の重さに惑わされてうまく攻撃を当てられなかった。

 だが2度、3度と攻撃をするうちにコツを掴んだようで、4度目で初めてゴブリンに攻撃を当てられた。


「ふぁ!?」


 型もへったくれもない力任せの攻撃だったにもかかわらず、その剣身はあっさりゴブリンを切断した。


「ななな、なんですかこの危険極まりない武器は!? 技もへったくれもなく、力任せに当てただけで、ゴブリンが真っ二つになりましたよ!? おかしいですよこの武器!!」

「うんうん」

「ハンナも、これで分かった。アルトがどれだけ変態かを」

「こらそこ、聞こえてるぞー?」


「これ絶対、危険指定の宝具ですよ!」

「いや、宝具じゃないよ」

「じゃあとてつもなく高級な武器なんですね!?」

「ううん。タダ、かな?」


 無料で手に入れた素材を使って、アルトが生み出した剣なので、タダで間違いない。

 ただちょっと、素材が特殊(ドラゴン)なだけだ。


「これが、タダ? ……おかしいです。アルトさんは、おかしいです!」

「うんうん」

「アルトは変態」

「どさくさに紛れて僕をなじらない」


「こんな武器、使えません!」

「どうして? 多分これまでの短剣を使うと、すぐに折れちゃうよ?」


「だって、レバンティ先生が言ってたじゃないですか。良い武器を使うと武器に頼り切りになっちゃうとかなんとか……」

「それはあの先生が僕の武器を奪うための方便だよ。もちろん、レバンティ先生の言い分は一部が正しい。けど僕は、手にする道具が人間を鍛えてくれると思ってる」


 良い道具を使ったからといって、必ずしも一流になるわけではない。

 しかし、質の良い道具は頑丈であることで事故を防いだり、危険な場面であえて壊れることで使い手の安全を守ったりする。


 武具はもちろんのこと、工具にも同じ事が言える。

 1ミリを正しく計れない二流の道具では、正しい技術など育めない。


 言い分に納得したのか、それとも頑ななアルトに根負けしたのか。ハンナはしぶしぶアルト謹製の長剣でゴブリンの討伐を再開した。

 長剣の切れ味のおかげもあって、ゴブリンの殲滅速度は格段に上がった。


「アルトさん。ボク、なんか、すごく調子が良いんです!」

「うん。そういう時は気をつけてね。絶好調の時が一番危ないから」


 窘めながらも、アルトは内心わくわくしていた。


 この先ハンナがどうなっていくのか。このレベルの上げ方で、どこまで強くなれるのか。自分はハンナをどこまで引き上げられるのか。

 前回はついぞ拝めなかった、成長したハンナの姿を思い浮かべると、アルトは楽しみで楽しみで仕方がなかった。

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