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訓練のお時間3

 突進したレバンティは、次の瞬間、アルトの姿を見失った。


(ぬぁっ!? どこに行った!?)


 レバンティは、突進が完全に決まったと確信した。

 全力でアルトにぶつかって、少し痛い目に遭ってもらおう。生徒たちの笑いものにしてやろうと画策していたのだが……。

 回避されたことで転びそうになり、危うく自分が笑いものになるところだった。


 背中に冷たい汗を浮かべながら、訓練室をぐるりと見回す。

 すると――いた。

 アルトはレバンティの、すぐ後ろにいた。


(すぐ後ろだとっ!? 一体いつの間に……?)


 疑問が浮かんだが、相手はただの子どもだ。

 D組であり農民である☆1劣等者は、存在がゴミ同然。

 ゴミが生徒というだけで、宮廷学校の面汚しである。


 レバンティにとって、彼の存在は虫けら以下だ。

 存在力が最弱最低の奴に、存在力☆3の攻撃が躱せるはずがない。

 さっきの攻撃が回避されたのは、こちらに隙があったからだ。


 そう決めつけて、レバンティは脳裏に浮かんだ疑問を消し去った。


 ――いや、その疑問は自然と消えていった。

 まるで魔法のように。


「せああああああ!!」


 大声を上げながら突進する。

 レバンティは中流貴族の三男で、冒険者としてAランクまで行った強者である。


 ユーフォニア12将ほどではないが、そのステータスは並居る戦士達を軽く上回る。

 彼が全力で突進すれば、子どもにはまず躱せない。

 受け身を取れなければ死ぬ可能性だってあった。


 にも拘わらず、彼は全力を出した。

 それは相手の力を見抜いたためではない。


 単に、早くこの鬼ごっこを終わらせて、龍牙の短剣を手にしたかったためだ。

 どうせ相手が死んでも、農民なので訓練中の事故ということで穏便に処理できる。


 訓練に同席している別の教官ドイッチュも、この攻撃で決まると思ったはずだ。

 アルトがレバンティにはじき飛ばされ、あやわ絶命の危機。

 そんな場面が想像できたかのように、にやにやと笑っていた。


 だが――、


「な…………くっ!!」


 今度の突進も躱された。

 勢い余り、レバンティは床を舐めた。


 レバンティの体に、床以外の接触は感じなかった。

 アルトの体が軽すぎて、当たったのに感触がなかった……というわけではない。

 本当に、1ミリも当たっていなければ、掠ってさえない。


(そんなまさか……俺の全力の突進を避けたのか?)


 熟練の戦士である彼の突進を躱せるものなど、このユーフォニアには片手で数えるほどしかいない。


「いま触ったよな!?」


 当たった感触は無かった。だが彼は淡い期待を抱きドイッチュに判断を求めた。

 完璧に躱されたとは思いたくなかった。


 ……いや、微塵も思っていなかった。

 しかしドイッチュの反応はぱっとしない。

 口を開いては閉じるを繰り返している。


「彼は指一本触れてない」

「なんだと? いまの声は誰だ!?」


 生徒の方から聞こえた声に、レバンティは激高した。

 怒りにまかせて怒鳴りつける。


 怒鳴り声に怯える生徒の中から、すぅっと白くて細い一本の腕が上がった。


「…………お前か」


 手を上げたのは、A組の特待生でレバンティもその実力を試験の頃から見初めている人物――教皇庁指定危険因子の、マギカだった。


 獣人の身体能力は別格だ。

 長年鍛え続けたレバンティを、たやすく凌駕できるほどである。


 レバンティは獣人族を敬愛している。

 獣人族は人間が届かない高みに、その手が届く存在だからだ。


 だからこそレバンティは窮した。

 レバンティが敬愛する獣人マギカが、遠巻きの観戦で接触を見間違うはずがない。


「ぐぬぬぬ……」


 反論をぐっと飲み込み、レバンティは立ち上がる。

 たかが1度、本気の攻撃を外しただけだ。まだまだ時間はある。

 その間に、どんな形であれ接触してしまえばこちらのものだ。


 レバンティは気合いを入れ直して、再度アルトに全力で突進をした。

 その絶望的に開いた身体能力の差に気付けないままに……。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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