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力の実験

本日より毎日1話ずつ投稿します。

投稿時間は18時予定です。

宜しくお願いします。

 8歳になった子どもは、皆一斉に教会に集められる。魔道具のブレスレットを貰うのだ。


 そのブレスレットは、徴税に用いられたり、身分証として利用されている。

 これがなければ入れない街もあるほど、重要なアイテムだ。


 アルトが8歳になるまでこの村を出なかったのも、このブレスレットを手に入れるためだ。


「これがなきゃ、手続きが面倒なんだよねえ。お金もかかるし」


 ブレスレットがない場合は公館に赴き、手続きをしなければならない。

 情報登録とブレスレットの費用として、金貨1枚がかかる。


 金貨1枚は、農民が1年暮らせる程の大金だ。

 それが、8歳になるとタダで手に入る。


 入手しておいて損はない。


 ブレスレットをしっかり腕に填めたアルトは二度、自らの頬を張った。


「よしっ!」


 ――この村で、やらなければならないことがある。


 アルトは気合を入れて、実家へと戻っていくのだった。

 その体に、闘志をみなぎらせながら。




 アルトは忍び足で家の裏手までやってきた。

 そっと窓を覗き込み両親の姿を確認する。


「――は、どうかしら。ちゃんと司祭様からブレスレットを貰えたかしら」

「アルトはよく出来た子だ。きっと大丈夫だよ」

「それはそうでしょうけれど。心配なのよ」


 そわそわと落ち着きのない二人の話し声が聞こえてくる。


「私、あの子のことがわからないの」

「どうしたんだよ、いきなり?」

「あの子、小さい時からずっと外で遊んでたから。私、あの子のことなにも分かってあげられなかった……。

 私はあの子を、幸せにさせてあげられたのかしら……」


(母さん。僕は、幸せだったよ)

(間違いなく、幸せだった)

(母さんは僕のやりたいことを、止めなかった)

(やりたいように、やらせてくれてたから)


 母の言葉に、アルトの胸が熱くなった。

 母がこんな風に考えていたとは、思ってもみなかった。


 もしアルトの訓練を止めるような母であれば、アルトはすぐにでも村を出ていたかもしれない。

 この年まで家族団らんの時間を過ごせたのは、間違いなく、この母だったからこそだった。


「アルトは小さい頃から、なにかに夢中になってからな。夢中になるってことは、幸せなんだと思うぜ。

 俺たちが出来ることは、あいつの幸せを邪魔しないことだ。そして、あいつが不幸になりそうな時に、命をかけて守ることだ。それさえ出来たら十分だ。

 アルトは、普通の子どもじゃないからな。俺たちが助けなくても、大きく育っていくさ。親としちゃ、寂しいんだけどな……」

「もう少し、頼って欲しいわよね」


 これ以上聞いていては、この場に心が残ってしまいそうだ。

 アルトは目元を強く拭い、奥歯を噛みしめる。


 2人にはここまで育ててくれた恩義がある。

 期待もしてくれたし、愛情も沢山注いでくれた。

 だが……。


(父さんも、母さんも、みんなも村も、なくなってしまうから……)


 アルトは気配を殺し、実家から離れていくのだった。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 8歳になり神殿でブレスレットを手に入れた後。

 アルトが暮らしていた名も無きこの村が、魔物の群れに襲われ壊滅する。


 誰もが寝静まった深夜に、魔物は森の中から現われた。

 アルトは両親に連れられて、村から逃げ延びた。


 突然の出来事に硬直したアルトの体を、父が力強く抱き上げてくれた。

 母が手を握って、励まし続けてくれた。


 初めは父が、続いて母がゴブリンに撲殺された。


『にげ……て……。わたしの……大切な……ある、と……』


 自らが殺されそうになりながらも息子を思う母の声に、アルトは泣き出した。

 泣きながら、村の外へと走った。


 アルトは、魔物が怖かった。

 攻撃されるのが怖かった。

 死んでしまうのが、怖かった。


 8歳児が、魔物を怖れるのは当然だ。

 魔物の群れから一目散に走って逃げて、生き延びられたというだけで大金星だ。


 しかしアルトは、その時の自分を生涯許すことが出来なかった。


 走っている最中、考えていたのは両親の無事ではなく、魔物から逃げおおせることだけだった。

 自分のことしか考えていなかった。


 血を流している両親のことさえ忘れてしまえる、自分の醜い生存本能が、アルトはたまらなく嫌だった。


「だから今回は……」


 強い決意を胸に秘めて、アルトは村にあるちっぽけなバリケードを出た。

 魔物が出て来ただろう森を前に、大きく息を吸い込んだ。


〈ファイアボール〉や〈アイスニードル〉などの初級魔術であれば、練習せずとも放てる自信がある。

 しかし、途中で魔力が切れ、魔術が放てなくなる可能性が高い。

 現状の魔力で魔物の群れを退けられる確証が、アルトは持てなかった。


 魔力が切れたら、あとは近接戦闘だ。

 子どもの体で、それもレベルは1の状態で、武器も持たずに魔物に立ち向かうなど、誰しもが無謀だと口を揃えるだろう。


 それでも、過去の哀しみを、新しい記憶で塗り替えられる可能性がある限り、アルトは諦めるつもりはない。



【名前】アルト 【Lv】1 【存在力】☆

【職業】作業員 【天賦】創造

【筋力】8   【体力】6

【敏捷】4   【魔力】32

【精神力】28 【知力】14


【パッシブ】

・身体操作29/100 ・体力回復20/100

・魔力操作43/100 ・魔力回復39/100

・回避  10/100

【アクティブ】

・体術 19/100

・熱魔術10/100  ・水魔術9/100

・風魔術 7/100  ・土魔術8/100

・忍び足 3/100



 これが、8年間育て続けたアルトの基礎能力だ。


 初めの頃は分からなかった数値も、観察を行った結果、ある程度は把握出来ていた。

【筋力】なら、大人で15くらい。20くらいあれば、力持ちの大人並みになる。


 他のステータスも、筋力と同じ考え方で間違いないだろうとアルトは考えている。

 つまり【魔力】が30を超えているアルトは、尋常ではない魔力を持っていると言って良い。


 おまけにステータスは、ここからさらにレベルアップで飛躍的に上昇する。

 レベルが2・3上がるだけで、一般的な魔術士を凌駕するだろう魔力が手に入るだろうと、アルトは予想している。


 このステータスがあれば、ゴブリン1匹倒す程度なら造作もない。


 ステータスだけではない。

 アルトには練度の高いスキルがある。


(さらに工作があれば、もしかしたらゴブリンの大群も……)


 想像した未来に、背筋がゾクゾクと震えた。

 頬を強く叩き、アルトは気を引き締める。


 天賦【創造】に付随するスキル《工作》について、アルトは現時点ではまだ発動に成功していない。


 いままで何度か、発動しようとチャレンジしてきた。

 だがその度に失敗に終わっていた。


 失敗の原因は、分かっている。

《工作》発動に要求される魔力量が、多すぎるのだ。


 とはいえ、アルトが最後に《工作》にチャレンジしたのは半年前のこと。

 それから魔力量は確実に上がっている。


「いまなら、《工作》が成功するかもしれない」


 そうは思うが、一発勝負は危険だ。

 アルトは《工作》の練習を行う。


「たぶん、魔術と同じように使えると思うんだけど……」


 マナをくみ上げる方法はわかる。

 しかしアルトは、工作スキルの理論を知らない。


「まさか、物作りの手作業が早くなるってスキルじゃない……よね?」


 もしそうなら、これまでアルトが《工作》に失敗してきた理由に説明が付いてしまう。

 がっかりスキルも良いところだ。


「いや、さすがにそれはないか」


 なにもせずに諦めるより、最後の瞬間まで全力で手を尽くす。

 七十年間、アルトはそうやって生きてきた。


 だからまずは、スキルを発動させることだけに集中する。

 雑念を払い、深い集中の底へと潜っていく。


「…………」


 十数分の静かな試行錯誤の末、アルトの感覚が見知らぬとっかかりを掴んだ。

 そのとっかかりをたぐり寄せるように、アルトはマナを一気に注入した。

 その時だった。


「……くっ」


 スキル発動の感覚とともに、アルトの体を強い倦怠感が襲った。

 桁外れにマナを消費したのだ。


「やっぱり、すごい量のマナを使うな……」


 現時点のアルトでも、マナが枯渇寸前になる程だ。

 これまで発動出来なかったのも頷ける。


「さてさて、スキルの方はどうなってるかな? ……おっ!」

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