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練習の成果

 シャドウストーカー相手に、リオンは苦戦する。


(こんな武器で戦う勇者なんているか!?)


 非常に情けなかった。

 けれどアルトの言葉の意味はわかる。


 リオンは日常的に素振りをしているので、剣の扱いには慣れている。

 なのに攻撃が当たらないのは、リオンに魔物を切るイメージがないせいだ。


 リオンは一時間、みっちりシャドウストーカーを相手に攻撃をし続けた。

 すると遂に、ハリセンがパシィィン! と大きな音を立てた。


「っしゃぁぁぁ――あんぎゃぁぁぁ!!」


 音が出たことに喜び、ガッツポーズを取った隙に、ガブガブ噛まれてしまった。

 見かねたアルトに助けられて、リオンは窮地を脱出する。


「油断しないでくださいね」

「お、おう……。すまん」

「それで、タイミングは掴めましたか?」

「ああ。たぶん、な」


 リオンはハリセンを見つめながら頷いた。


 シャドウストーカーが襲いかかってきた時、リオンは『このタイミングで横にずれて、ハリセンを叩き込めば面白そうだ』と直感した。


 これこそが、アルトが言っていた魔物の隙だったのだ。


 今までは魔物を斬ろうとして、無駄に力んでいた。

 けれど力を入れずとも、タイミングを合せれば、攻撃は自然と当たるのだ。


 それに気付いてからは、早かった。


 一度攻撃に成功してからさらに三十分。みっちりシャドウストーカーと組み合った結果、攻撃する毎にハリセンが大きな音を立てるようになった。


 もう100発100中である。


「モブ男さん。そろそろこれを使ってみてください」

「お、おう」


 アルトから放り投げられた長剣を慌てて掴み取った。

 作って貰ったハリセンは折角なので、しっかりベルトに差し込んでおく。


 使うことはないだろうが、念願の魔剣だ。

 もったいなくて、手放せない。


 長剣を握って、リオンははっとした。

 長剣の束とハリセンの束の握りが、まったく同じだったのだ。


 それだけじゃない。重量も同じだ。

 見た目は全然違うのに、振った感覚も同じときている。


「師匠。ハリセンに力入れすぎじゃね?」


 彼のなにがそこまでさせるのか。

 ハリセンに並々ならぬ哲学でもあるのかもしれない。


 それはさておき、今度は本物の長剣で攻撃だ。

 ハリセンと、重量はまったく同じ。

 なのに、違う。


(…………これが、攻撃の重み)

(命を奪う、重みなんだ)


 ただハリセンを振り続けただけなのに、今まで見えてなかったものが、見えて来た。

 それは、とても不思議な感覚だった。


 これから命を奪おうというのに、リオンは感動していた。

 千余年の間知り得なかったこの重みを、ようやく知れたことに。

 そうして、間違いなく勇者として階段を一段昇っただろうことに。


 それはまだまだ初歩の初歩。

 長い階段の1段目だ。

 けれどリオンは千年以上かかって、やっと1段目に乗ることができたのだ。


「せい!」


 初手は若干刃が立たず、受け流されてしまった。

 だがリオンは焦らなかった。

 やっていることは1つしか変らない。


 基本は同じ。

 ハリセンと同じタイミングで腕を振れば良い。


 正しく攻撃出来れば、音が鳴る代わりに魔物が死ぬ。

 それだけだ。


「はっ!!」


 飛び込んできた魔物の攻撃を躱し、その顔面に長剣を添える。


 リオンの感覚では、剣を振り抜くというよりも、ただ前に剣を置いたにすぎない。

 だがただそれだけの行動で、シャドウストーカーが頭から尻までを水平に真っ二つになった。




「おめでとうございます。モブ男さん」

「あ、ありがとう」


 リオンがハリセンで戦い始めてからここまで、2時間かかった。

 いままでのアルトならば、『2時間もかかったか』と嘆いたはずだ。


 だが、いまは違う。

『たった2時間で終わってしまった』と、関心していた。


 魔物を倒したリオンが、すとんと腰を落とした。

 顔を青白くさせて、体を震わせる。


 これは、レベルアップ酔いではない。

 彼は人生で初めて、自分の意思で命を奪った恐怖を味わっているのだ。


 これを感じなければ人ではない。


 人は生きている限り、必ず他の生命を奪う。

 他の命を奪っている事実から目を背けずに、奪った命の重みを知って、初めて人は人たり得るのだ。


 この日、この時。

 リオンの第二の人生が、初めてスタートしたのだった。

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