表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/325

おやすみなさい

 最後にごく個人的な思いを記してボク、ハンナ・カーネルの自叙伝を締めくくろうと思う。


 英雄としてのボクの記憶は、酷く散らかって汚い部屋の中で泣いている男性の姿から始まった。

 なにがなんだか判らなかったけれど、さあこれから大変だぞ! と。それだけは理解できた。


 部屋とは打って変わって、庭に咲いたサクラは美麗だった。この筆舌に尽くし難い美しさは、春になるとエアルガルド各地で確認出来るはずなので、一度サクラを探してもらいたい。

 きっとこれを読む者も納得していただけるだろう。


 意識を失って気がつくと英雄になっていた。

 隣には頼れる二人の騎士がいて、僕を守ってくれた。この二人はボクの師匠に当たる人の仲間だった者達――そう、物語に登場した勇者リオンと危険因子のマギカだ。


 他にも、沢山の人に支えられた。

 その多くは、ボクがそれまで一度も関わったことのない人達ばかりだった。


 やたらと脱ぎたがるイノハの酋長。

 (彼はあの筋肉魔術を開発した人物だ)


 それを咎めるケツァムの首相。

 (彼女の結婚式で、ボクは涙が止まらなくなった)


 顔を合わせてすぐ親しく接してくれた皇帝。

 (はじめは一般人かと思った)


 一番強いのに何故かモフモフに弱い天皇。

 (彼女は最後までマギカの尻尾に触れなかった)


 無言で手を差し伸べ、名も告げずに去って行った森の賢者達。

 時々現れて悪戯を仕掛ける、可愛らしいハーフエルフの少女。

 その少女に翻弄される最強の魔術師。


 見た目は怖いけど心が優しいドワーフの夫妻。

 世界中のギルドを繋いだ冒険者ギルドの名も無き職員。


 みんな、まるで初めから知り合いだったかのように、あるいは長いあいだ共に旅をした仲間のように、ボクの背中を支えてくれた。


 この縁を繋げてくれたのは紛れもない、師匠だ。

 師匠がいたからこそ、ボクは彼ら彼女らと出逢うことが出来たのだ。


 ボクの師匠は偉大な人だった。

 その名を誰1人として知らないのは、いまでも残念でならない。


 英雄の力を使ってボクは、あらゆる文献に師匠の名を刻もうと努力した。(本来英雄の力をこのような形で使うべきではなかった)

 そのことについて、いま懺悔する。


 ただ一つ断りを入れておくと、そのどれもが結果を残せなかった。

 彼の名を刻もうとすればするほど、より深く、不可逆的に『変態』の文字が刻まれてしまうのだ。


 誰しも名前を知らない。

 けれど、『変態』と言えば誰もが知っている。


 何故かは判らない。ボクの力でも通用しないことだ。

 きっと他の誰にも、彼の名を世界に刻みつけることは出来ないだろう。


 彼の存在が如何にボクにとって大きなものだったか……。

 以前に出版した何巻にも渡るボクの自叙伝と、彼ら彼女らの話をつなぎ合わせて想像を頼りに書き上げた、この外伝を読了した者には、ボクが生き伸びるために彼が重要だったかが、理解していただけるだろう。


 ここまでボクの著書を読んでくれた愛読者諸君には、是非彼の名前を覚えていてもらいたい。

 師匠の名を知る権利が、諸君にはあるはずだ。


 故に、ボクはここに書き記す。

 偉大な師の名を。


 彼の名は――――。




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




「……何故予は負けたのだ?」


 ネイシスの元に自然召還されたフォルセルスが言った。それは春の日に降る雪が地面で解けるように弱々しいものだった。


「さてね。なんでだと思う?」

「お前達がアルトにすべての神力を注いだからか?」

「そんなことをやろうとしたら、フォルなら気付くでしょ? ただ僕らが行ったのは1を付け加えただけ。残る9つは彼がはじめから、あるいは成長途中で身につけたんだ」


 アルトは初めて戦った善魔の爆発に巻き込まれ、レアティス山脈の上空で木っ端微塵に吹き飛んだ。

 本来なら彼はそこで死んでいたのだ。


 だが、偶々穴蔵同盟全員が彼を見ていた。

 その瞬間を、原初神6柱のうち5柱が見守っていた。

 それだけですら、奇跡。


 神々は失われた彼の肉体を、自らの分御霊を元に再生させた。

 再生された体は、元のものとほぼ同じ。

 ただ穴蔵同盟の力でも再生が不十分だったため、彼の器からエネルギーを拝借させてもらった。


 あのとき彼の体は、まったく違う、けれど同様の体に入れ替わった。

 これが穴蔵同盟が用意した、フォルセルスへの唯一の対抗策。


 とはいえ5柱が聖祓した体を与えたからといって、強くなるわけではない。不死身になるわけでも。

 そんな力を用いようとすれば、必ずフォルセルスが気付いて阻止しただろう。


「神代戦争の後、エアルガルド全土に【監視魔法】を使ったのがいけなかったのかもしれないね」


 監視魔法はフォルセルスの御業。

 元ある階級、秩序を絶対とし、それを決して逸脱させない強制力を働かせる。


 それはフォルセルスの意識に無関係に働くシステムだった。

 もしフォルセルスが1つずつ事案を精査し決定を下していれば、きっと彼は過労で倒れてしまっていただろう。

 神に過労などという概念はないが。


 その自立的に作用する魔法こそが、彼の足を掬った。

 彼は自らの魔法のせいで、低階位の中から現われた、彼の秩序を脅かす者の存在に気づけなかった。


 アルトが星Ⅰであり、人種にとっても神にとっても、世界にとっても取るに足らない存在であった。

 だからこそ彼は最後の最後。

 実際にその存在と対峙するまで、アルトを意識することが出来なかった。


 フォルセルスはすべての人種を慈しむが故に、すべての人種が見えていなかった。

 慈しみ、愛していたが、彼はあまりに清くありすぎた。


 あらゆる人種を愛した彼は、あらゆる人種を真の意味で愛せなかった。

 本当の愛は、あまりに利己的な念から現れるものだから。


 常に利他的で正義を宿す彼に、本当の愛は生まれなかったのだ。


 人体への降臨と、極限の戦闘、神力の行使、そして死亡により魂が疲弊したフォルセルスが、落ちる瞼を必死に持ち上げながら問う。


「シスは何故そこまで、ただのアルトに寄り添ったのだ?」

「見つけたからだよ」

「何を?」

「……太陽に溶ける海かな」


 煙に巻きながら、ネイシスはフォルセルスの魂を胸に宿す。


 きっと誰もが忘れている。

 自分がこの場所に至った理由を。

 過去にどんな苦悩を宿し、笑い、泣き、怒り、悲しみ、苦難を乗り越え、己を錬磨し、魂の終着点に至ったか。


 そこに、〝誰かの愛があった〟ことを……。


 おそらく神にとっては不要な記憶。

 だから、魂が生まれ変わるときに、すべてが抹消された。


 しかしネイシスは思い出した。

 あくまで漠然と。

 けれどその念は深く、ネイシスの魂と結びついていた。


 ネイシスが思い出せたのは、偶々だ。

 ただ彼女が魂の神だったから。

 他神よりも魂を深く見通す力があったからに過ぎない。


 おそらく穴蔵同盟の全員が、彼と結びついている。

 誰1人、その念に至っていないだろうけれど。


 フォルセルスと穴蔵同盟の明暗を分けたのは、その繋がり。

 強い絆。


「1700年も、独りでよく頑張ったね。

 よく一人で、過酷な道を歩き続けたね。

 さすがに、もう疲れただろう?。


 きっと、再びこの世界で目を覚ましたとき、君は驚くだろう。

 この世界に溢れた色の数に。


 そうなるように、僕らがしっかりと世界を守るから。

 だからおやすみ、フォルセルス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ