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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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勇者の覇道(仮)

 戦闘を終えたリオンはその場にへたり込んだ。

 勇者らしくない姿だが、正直心も体もくたくただった。


 しばらくここで休んでいたいが、上から激しい戦闘の音が響き渡っている。

 それに、【気配察知】の練度が低いリオンでさえ、上から嫌な気配を感じる。


 おそらく、その者と正面からかち合えば、リオンでさえ一瞬で消し去られてしまうだろう。

 シズカでさえ比較にならないレベルの、禍々さである。


「……ん?」


 上を見上げていると、突如天井からプリっとしたなにかが落下してきた。

 そのなにかがリオンの顔に激突。

 付着し、顔全体を覆い尽くした。


「…………!? …………ッ!!」


 呼吸が出来ない!

 ジタバタ藻掻いて、リオンはそれをつかみ取る。


 ンニュー……ッキュポン!! という音と共に、へばり付いたルゥがリオンの顔面からようやく離れた。


「あ゛あ゛あ゛~~~!! 死ぬかと思ったぁ!」


 落下が怖かったのか、ルゥはまだプルプルと動いてリオンに反応しない。


「くそっ……オレ様のファーストキスが、スライムとだなんて……」


「どうしてくれんだよ?」

「(にゃんにゃん)」


 ルゥがイヤンイヤンと言うみたいに横揺れした。


「なに恥ずかしがってんだよ……。そういや、なんで上から落ちてきたんだ?」

「(……みょんみょん!)」

「え? 師匠が?」

「(プルプル)」

「……不味いな」

  「セイセイ。なんで話が通じてんだ?あの2人……というか1人と1匹は」

  「さあ。それをわたくしに聞かないでくださいまし」


 人と魔物が会話できるなど、聞いた事がない。

 リオンとルゥの謎の光景に、オリアスとシトリーは眉根を寄せた、その時だった。


「セ――」

「な――」


 二人の周りに黒い球が出現した。

 それはまるで、アルトの光弾のようにゆったりと空間を漂っている。

 しかし1弾ずつに籠められた威力は彼の光弾とは大きく違う。


 触れればただでは済まないだろう。

 たった1発で命を奪われかねないほどである。


「……ゴ、ゴレ、が、まだ、キモヂイィを、しテない!!」


 先ほど蒸発したと思われたガープが、筺の影から姿を現わした。

 だが、その体は満身創痍。

 両足と左腕がなく、辛うじて右腕が肘まで残っている。


 その肘を使い、ガープはのっそりと前へ進み出る。


「……ったく。しつこい男は嫌われるぜ?」


 ガープの姿を見てもリオンは眉ひとつ動かさなかった。

 いつもならば「生きていたのか!? 恐るべきしぶとさだな!!」など、己を棚に上げてワンワン叫んでいただろう。

 だがいまの彼には、そこまでの余裕がなかった。


 上ではいまも、師匠が戦っている。

 こんな死にかけの小物に構っている余裕は、リオンには1欠片もないのだ。


 周りに浮かんだ闇の魔術の1つが、リオンに向かって放たれた。

 だが、


「……」

「……ガ!?」


【闇魔術】はリオンを横切り、シトリーとオリアスさえも避けて窓の外へと消えていった。


「ぐ……グギギガッ!! ゴロズ……ゴロズゥゥウ!!」


 目を血走らせ、口を開く度に唾液を吐き出しながら、ガープは次々と【闇魔術】をリオンに放っていく。


 だが5発10発。

 すべての魔術はこの場にいる誰1人として傷つけることがない。


「ナデ……。ナデダァァァァァ!!」


 怯え、いきり立ったガープは、さらに【闇魔術】を発動。

 次々と攻撃を繰り出すが、やはり結果は同じだった。


 これが、ギフト【勇者】が幸運のギフトと呼ばれる本当の理由。


【幸運のギフト】

 一定の条件を満たした場合のみ、幸運を呼び込む。

 ただし通常時は体内に幸運を蓄積するため、不運に見舞われる。

 蓄積された幸運の力により、補正がB~S+と変化する。


 一定の条件――〝神の欠片で生み出されたルゥとふれあっている〟時だけ、リオンの不運は反転し、これまで蓄えてきた幸運を発動する。


「もう、十分だろガープ」


 リオンはゆっくりとガープに近づいていく。


 リオンにはもう、武器がない。

 精神力がかなり疲弊していて【勇者の光】は使えないし、盾で潰せるほどガープはやわじゃない。

 だからといって、シトリーとオリアスに頼むつもりは毛頭ない。


 これは、自分の戦いなのだから。

 自分の力で決着を付けるって、決めたのだから。

 そうすることでやっと、師匠に甘え続けたリオンは独り立ちできるのだ。


「アンタとの戦いは、今後執筆する【勇者の覇道(仮)】にたっぷり記述してやる。だから安心して逝け」

「ぐ、グギァァァァァ!!」


 命を燃やしているのだろう。

 マナを膨張させるガープの胸に、

 リオンが右手を突き立てた。


 生み出したヴァンパイアの武器【爪】は、なんの抵抗もなくガープの心臓に到達した。

 そこでほんの少しだけ、【光魔術】を点火。

 ジュッ、と焼けるような音とともに、ガープの心臓が一瞬で失われた。


 心臓が失われると同時に、ガープが外側からさらさらと灰になって消えていく。

 これでもう、本当に終わりだ。


(オレはちゃんと、使いこなせただろうか)

(勇者と、ヴァンプの力を……)


「…………っと、こうしちゃ居られねぇ! 早く師匠を助けにいかないと!」

「オリアス!」

「セーイ!!」


 動き出したリオンを、オリアスが猛烈な力で押さえつけた。


 リオンの腕力はドラゴン並である。

 にもかかわらず、オリアスはたった1本の腕でリオンを押さえつけている。

 先ほどのガープとの攻防で、かなり体が痛めつけられたのだろう。宝具により腕力が恐ろしいまでに強化されていた。


「ちょ、離せよ!! すぐに師匠を助けにいかないと、ルゥが、師匠が死ぬって言ってんだよ!!」

「……リオンさん。申し訳ありませんが、先へは行かせられません」

「なんでだよ!?」


 床に組み敷かれたリオンが首を回しシトリーを睨み付ける。

 そこには喜怒哀楽に溢れ、ころころと顔を代えていた頃の、天気で花畑なリオンはいない。


 激しい怒りと焦燥により、目が血走っている。

 それだけで、如何にリオンがアルトのことを大切に思っているかが理解できる。


 そんな彼をここに押しとどめる罪深さに、シトリーは心が潰されそうになる。

 彼の為を思えば、先に行かせた方が良いのではないか? そう思うが、こればかりは譲れない。


 リオンを開放すれば、間違いなく彼は死ぬ。

 そう、シトリーはシズカに告げられている。


 イノハで出逢い、数週間旅をしただけの仲だが、シズカがどれほどの実力者かは嫌でも理解した。

 その彼女が、『絶対に行かせるな』と言ったのだ。

『戦えば、自分も死ぬかも知れない』とも。


 であれば、シトリーはリオンに行かせるわけにはいかない。


 顔を合せれば角を突き合わせる仲だが、それでもシトリーにとってリオンはかけがえのない友人である。


 大きな力を持ちながらもそれに振り回されることがない。彼のような純粋な存在を失えば、世界の大きな損失である。

 シトリー個人にとっても、大いなる損失となるだろう。


 だから決して先に行かせるわけにはいかない!


「い、行かせろよぉぉぉ!! このままじゃ、師匠が……」

「オリアス。お願いします」

「セーイ」


 上階から感じる禍々しい気配に、もう気付いているのだろう。

 オリアスが神妙な面持ちで頷き、リオンを担ぎ上げる。


「アンタたち、師匠が死んでもいいっていうのか!? この、人でなし!!」


 非難の声を上げるリオンの目から、ボロボロと涙が溢れ出す。

 それが伝染したように、シトリーの目からも熱い雫が流れ落ちた。


 いままで正義を行使してきた。

 正義の行使は常に、シトリーにとっての誇りであった。


 なのに、いまは違う。

 まさか正しい行いが、こんなにも辛いことだなんて……。


 どうか……。

 これが終わったら、リオンの元に還ってきてくださいまし。

 そうすればわたくしが心を鬼にしたことが、報われますわ。


 だから、お願いしますわよ。

 アルト……。

漫画版「冒険家になろう!12巻」が1月15日(予定)に発売となります。

皆様どうぞ、お近くの書店にてご予約、ご購入よろしくお願いいたします。m(_ _)m

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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