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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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変態のアルト

 床に転がった己の腕を眺めながら、アルトは肩を抑えて膝を折る。

 本来ならそのような隙は見せたくなかった。だがあまりの痛みに下肢が痙攣し、とても立ってなどいられなかった。


 アルトとハンナの中間。

 この世の中心。

 あらゆる人種が求めた正義が、つまらなさそうに口を動かした。


「貴様は……誰だ?」

「えぇえ!?」


 戦闘中だというのに彼は呆けた表情で首を傾げた。

 雰囲気がまるで気の抜けたサイダーのようだ。


「てっきり、天静(アマノシズカ)かマキア・エクステート・テロルあたりが来ると予想していたのだが……」

「……ざ、残念でしたね。〝アシュトレイト〟さん」


 皺だらけの顔に、完全に白一色に染まった髪の毛。

 金糸で刺繍された上等な絹織物を身に纏った男。

 アルトの腕を切り落としたその人物こそ、フォルセルス教団における象徴。

 アシュトレイト・ジン・モーティマーその人であった。


 彼とは以前に顔を合わせていた。

 なんとも不思議な会話をして、最後に髪の毛を一本くれと言われてプレゼントした。(一体あの髪の毛はなにに使われたのだろう?)


 見た目は似ているが、前に出会った荘厳な雰囲気を宿した老人と、いま目の前にいる人物は別物としか思えない。

 双子だと言われても、きっとアルトは信じただろう。それほどまでに、この人物からは一種異様な雰囲気が放たれている。

 重く、力強く、それでいて無条件に跪きたくなるような……。


 まさかとは思っていたが、現実を目にして理解した。

 アルトは痛みに顔をしかめながら口を開く。


「それとも、邪神。こう呼んだ方が良いですか?」

「……」


 ギロリ睨まれただけで、全身が白旗を一斉に振った。


 邪神フォルセルス。

 それは靄との会話でたどり付いた、ハンナを奪った相手の名前。

 靄は明言しなかったが、数々の言葉からアルトは答えにたどり付いた。


 邪神と言えばネイシスである。

 だが、少なくとも彼女からは邪悪な気配は一切感じなかった。


 彼女――あの靄はネイシスで間違いない。


 現在存在している神は全部で6柱。

 フォルセルス・アルファス・アグニ・エルメティア・アマノメヒト・ネイシス。


 その中でフォルセルスは神代以降頻繁に世界へ向けてお告げを発信している。

 だが残る5柱は、特定の人物を除いては沈黙を守っている。


 靄が口にした『穴蔵同盟』というのはフォルセルス以外の5柱。

 彼女が慌てた際にアル、アグニ、エル、メヒトと、それぞれ口にしていたので、消去法を用いるとネイシスが残る。

 つまり霞の彼女こそが邪神と呼ばれた、魂神ネイシスその人だったのだ。


「どうにも邪神ネイシスに絆されているな。英雄は世界に戦乱をもたらす。秩序を崩壊させ、バランスを大きく乱し、本来幸せに生命をまっとうするはずの命の多くが奪われる。邪神ネイシスは、それが望みなのだ」

「…………」


 当然ながらアルトは、それも理解している。

 彼の言葉は、どちらが邪神かを除けば実に正しい。


 英雄は戦乱をもたらすし、戦が起れば命を落とす者も増える。

 しかし、そのことを指摘されてもアルトの心はまったく乱れない。


「出会い頭に腕を切り落とす神こそ、邪だと思いませんか?」

「詭弁だな。ここは一般人の立ち入りの一切が許可されていない。そこに立ち入る輩に鉄槌を下すことの、なにが邪か?」

「狙いとは違う相手だったようですが?」

「神は全能に非ず。予測を超える事態も希にある」


 この方向で攻めても平行線だ。

 アルトは失血で白む頭を振るい、気持ちを切り替える。


「正直、どっちが邪神とか、そういう話はどうでも良いです。こう言うと残酷かもしれませんけど、誰が死のうとも、世界がどうなろうとも、関係ない。ボクが貴方と敵対するのは、ハンナを奪ったから。その一点だけです」

「……残念だ」


 フォルセルスはため息を吐き出し、手を軽く払った。


 たったそれだけで、アルトの体が冗談のように吹き飛んだ。

 背中を壁にしたたかに打ち付け、ずるずると崩れ落ちる。


 四肢に力が入らない。

 血が足りない。

 少しずつ視界が狭まっていく。


 以前会ったアシュトレイトからは、まるで力感じなかった。

 彼の中にフォルセルスの力が入り込んでいるのは間違いない。そうでなければ、これほどの変化に説明が付かない。


 セレネには国王がおり、政治は国王と教皇庁の枢機卿が行っている。

 そこに、教皇は含まれていない。


 では、なんのために教皇がいるのか?


 はじめアルトは、教皇庁を裏で仕切るためだと考えていた。

 だが、違う。

 おそらく教皇とは、こうした事態にフォルセルスが直接対処するための存在なのだ。

 自分にもっとも適した体を常に確保し、いつか現われる英雄をその手で確実に抹殺するために。


「…………ッ!」


 とはいえ黙って見ているなど出来るはずもない。

 すぐそこにハンナがいる。

 手の届く場所に、長年追い求めた大切な友人が居るのだ。


 たとえ相手が神だろうと邪神だろうと、行く手を阻むなら戦うまで。


 アルトは唇を噛みしめて腕の痛みを誤魔化す。

 必死に集中力をかき集め、【ハック】を張り巡らせて、【罠】の因子をばらまいた。


「……予の知らぬ技だな。一体どういう構造になっているか」

「――アガァァァァ!!」


 突如、伸ばした因子がまさぐられた。

 体の中に熱した鉄の棒を突き入れられたような激痛に悲鳴を上げる。


 なにをされたのか、まったく判らない。

 ただフォルセルスがちらり視線を動かしただけで、気絶してもおかしくないほどの激痛が全身を襲ったのだ。


「む? 拒否か…………」


 フォルセルスはまるで、完璧に組んだはずなのに動かないプログラムを眺めるようにじっと虚空を睨み付ける。


 まさかスキルにアクセスでもしたのか?

 相手がフォルセルスならば、それくらいの芸当はやってのけてもおかしくはない。


 原理はおそらく簡単だ。

 異常なまでに高い魔力でマナを操作し、目に見えない【罠】の因子を【術式解読】しようとしたのだ。


 おかげでアルトのマナの回路がズタズタだ。


 アルトは意識を気合いでつなぎ止めながら、鞄から回復薬を取り出して飲み込んだ。

 薬のおかげで腕から流れ落ちる血液が数秒で停止。

 即座にアルトはホルスターから魔銃バレッタを抜いて、発砲。


 無防備なフォルセルスの体に、魔弾が直撃。


「――な!?」


 しかし魔弾は、フォルセルスの手前の空間に阻まれ横へと逸れた。


 後方で着弾。魔弾が壁を粉砕した。


「恐ろしい威力だな」

「……っく!」


 なにか魔術を使った兆候は一切感じられなかった。

 空間さえも干渉されるほど、彼の【魔術耐性】は桁外れなのか?


 何度も魔銃の引き金を引くが、フォルセルスは一切回避行動をとらない。

 そればかりか彼の前の空間を魔弾が滑って移動してしまう。


 ならば――、

 アルトは【罠】を発動。

 フォルセルスに仕込もうとするとまた内部がズタズタにされる。

 だから決して彼に接触しないよう、彼の周りに因子を流し込む。


 設置したのは【ハック】。

 その上に、魔弾を走らせる。


 音を置き去りにするほどの速度で魔弾がフォルセルスに迫る。

 魔弾は狙い通り、謎の空間に直撃した。


 だが、そこでピタリと停止。

 魔弾はまっすぐ進む。

 空間が魔弾を阻む。


 想像さえしない変化。

 だが考える暇なく、アルトは次々と魔弾を射出していく。


 5発、10発と魔弾が空間に蓄積され、当初は拳大だった魔弾がいまではスイカほどの大きさにまで成長した。


 それがじりじりと、少しずつフォルセルスに迫っていく。


「ふむ。人の力が、予に迫れるか。少々危険だな」


 そう言うと、フォルセルスは無造作に魔弾に近づき、下から手を振り上げた。


 途端に魔弾は向きを変えて飛翔。

 天井の全面を一瞬にして消し去った。


 アルト自身、その威力の高さに目を剥いた。

 まさか高出力のベレッタではなく低出力のバレッタまでも、10発あればこれほどの威力になろうとは。


 恐るべき1撃が、しかしフォルセルスの手のひら1つではじかれた。

 次元が違う。

 その一言しか浮かばない。


 アルトの現状のステータスは、


【HP】4637  【MP】22137

【SP】15877 【筋力】2964

【体力】2301  【敏捷】1872

【魔力】10140 【精神力】9906

【器用さ】2546


 常人からすれば想像を絶するほどのものである。

 だがそれをもってしても、神にはまるで歯が立たない。


 これは、わかりきっていたことだ。

 この部屋に踏み込み一瞬で右腕を切り飛ばされたとき。

 それは決して人の力では抗えない存在なのだと……。


 しかし頭のどこかで、そのことに対して疑問があった。

 それほど強いのであれば、神代戦争など起らなかったのではないか? と。


 神が降臨し力を振るえば戦争が100年も続くはずがない。

 すべての邪魔な存在を、その手で消し去れば一瞬で戦争は終結するからだ。


 ならば、そもそも神は直接手を下せない、あるいは局所的にしか震えないのではないか?


 そう思ったからこそ、アルトはいついかなる時、どのような状況下であっても、全力を出せるよう鍛えてきた。

 こうなるのも、予測済みだ!


 魔銃を捨てて、アルトは腰から短剣を抜く。

 二刀流のおかげで、右手で扱うのと同じ練度で攻撃が繰り出せる。

 左手で短剣を握りしめて、【縮地】。

 フォルセルスに一気に迫る。

 懐に入り込み、短剣を一閃。


【一撃必殺】


 だが、


「温い」


 フォルセルスの掌手が短剣を突き上げる。


 ――パァンッ!!


 たった1撃。

 刃を立てた状態で衝突した短剣が砕けた。


 折れたのではない。

 刀身が粉々に砕け散ったのだ。

 銀色の粉となった刀身が煙のように空気に舞う。


 その常軌を逸した武器破壊に、アルトの体が硬直した。

 瞬転。

 アルトの意識がブラックアウトした。


 頭が割れるように痛む。

 頭だけではない。体中が、まるで赤色が明滅するみたいに、ズンズン、と一定のリズムで激痛を脳に送り込む。


 たった1発。

 掌手を食らっただけでアルトは吹き飛んだ。


 内臓が弾け、壁に直撃して背骨が粉砕。

 手足にまるで力が入らない。

 わずかでも体が動くと、神経が飛び上がり、まるで延髄から脳めがけて針が射出されているみたいだ。


「よく生きていたな」


 おそらくそれは本心だ。言葉に感嘆の響きが混じっている。

 もしかするといまの攻撃に、【即死魔術】が付与されていたのかもしれない。

 そうなってもおかしくない威力はあった。


 攻撃された拍子に鞄の紐が切れたらしい。

 部屋の隅に転がった鞄から、ルゥが這い出てくる。


 ――だめだ!


 アルトは奥歯を食いしばり、立ち上がろうと藻掻く。

 だが、足がまったく動かない。


「む? なんだその魔物は」

「っく……」


 痛みに堪えながら、アルトは匍匐前進でルゥに近づいていく。


 不意にフォルセルスが右手をルゥへ向ける。

 間に合え!!


 体に辛うじて残った集中力を振り絞り、【ハック】と【滑る床】を発動。

 体を素早く滑らせてルゥを抱きしめる。


 瞬間。

 アルトの背中で水が弾けた。


 アルトは、【水弾】を受けたように感じた。

 だが、違う。

 弾けたのはアルトの肉。

 飛び散ったのは、血液だ。


 途端に、まるで風船の口を広げたように、アルトの体からエネルギィが失われていく。

 目の前が暗くなり、必死に意識の消失を食い止める。

 せめて……、せめてルゥだけは!


 腹の中でにゅるにゅる動くルゥを一度優しくなでつけて、アルトは無理にでも微笑んだ。


「これで、おあいこだね」


 ルゥを救えて、本当に良かった……。

 きっとここでまたルゥが死んでいたら、アルトは今度こそ魂が砕けて、二度と立ち上がれなかったかもしれない。

 なけなしのマナを練り上げ【グレイブ】で落とし穴を生み出し、ルゥをその中に放り込んだ。


 いやだ、いやだよ!!


 ルゥは地団駄を踏むように罠に抵抗する。

 その口から次々と武器を排出し、けれど抵抗も空しく落下していく。


 ボクがいなくなっても、どうかまっすぐ生きて。

 どうか寿命が訪れるまで、生き延びて。

 生きて、幸せをつかみ取って。


 落ちるルゥを眺めながら、アルトは祈った。


「その命を守るために、己の信念を捨てるとは……」

「すて……て、ない」


 アルトは、血に濡れた声で反論した。

 弱々しく、擦れていて、湿っていて、とても人の声に聞こえない。

 だがそこからは、彼の信念は些かも欠落していない。


「見捨てていれば、もしかしたら予に一撃を見舞えたかもしれない。そこの英雄を救えたかもしれない。そのチャンスをお前はみすみす逃したのだ」

「見捨てた……ら……、けふっ……もう、人じゃない。……ただの、悪魔です」

「その考えは重畳。己の意志より命を優先する。予も認めよう。お前は正しき行いをした」

「違う! そんなんじゃ……ない」


 大量に喀血しながら、アルトは弱々しく吠えた。

 そんな崇高なものじゃない。

 これは、自己犠牲なんてもんじゃない。


「ルゥを助け……て、ハンナも……とりもど……す。ケフッ! 強欲……なんですよ」


 フォルセルスが言うほど己は高潔じゃない。


 すべてはただ、ハンナを救うため。

 そのためだけに、アルトは生きてきた。

 たった友人1人の命のために、アルトは場をかき回したにすぎないのだ。


 その思いは、決して高潔なものではない。

 正義ですらない。


 体の中でマナを練りながら、反撃の糸口を探る。

 けれどそれは、一切見つからない。

 頭に血が行かないせいで、知恵が巡らない。


 ……いやそれは言い訳だ。

 きっと万全な状態であっても、アルトは見抜けなかっただろう。


「なれば悪として、お前を断罪しよう。悦べ。この正神フォルセルス自らが誠意を持って、貴様の魂を浄化しよう」

「それは……光栄、です……」


 アルトがニヒルな笑みを浮かべる。

 それを見てフォルセルスは内心首を傾げた。


 先ほどの攻撃は、紛れもなく【絶命の一撃】。

 人の体から魂を抜き取る即死攻撃であった。


 だが狙いは見事に防がれた。

 まさかただの人が【即死耐性】を宿しているとは思いも寄らなかった。


 フォルセルスが予見出来なかったのも仕方がない。

 あれは【即死攻撃】を受けて耐えなければ、決して手に入れられるものではないし、かといって【即死攻撃】を受ければ間違いなく人は死ぬ。


 通常の方法で【即死耐性】を手に入れようとすれば人は必ず死ぬため、予め想定しておくなど――いくら神とはいえ不可能である。


 しかし何故彼は【即死耐性】など保持していたのだろう?

 まさか地中奥深くに封印した神々が悪戯でも行ったか?

 いや、神の力を用いても強制的にスキルを付与することは難しい。

 1度の攻撃で耐性が得られるよう、スキルを付与するサポートならば出来るが、即死の危険性までは除去出来ない。


 一体どうやって手に入れたのか……まあ良い。

 フォルセルスは思考を切り替えて少年に手を翳す。


 フォルセルスは正義の神だ。

 その名に偽りはない。

 たとえ邪道を歩んだ神とはいえ、フォルセルスは己が正義の側だと、己が歩んだ道が正義だったと信じている。


【即死攻撃】で死亡しなかった青年は現在、激しい苦痛に苛まれている。

 その状態を放っておくような真似は、己の正義が赦さない。

 なるべくひと思いに、苦しまないよう肉体から魂を切り離してやろう。


 手の平にマナを籠めて、一気に放出。

 位堂最上階の壁が一瞬にして砕け散る。


 しかし、


「む?」


 少年がフォルセルスの確殺攻撃を【回避】した。


 足は動かず、片手しかない。

 一体どこにそんな力が残っていたのか?


 しかし驚いたのもコンマ1秒にも満たない刹那。

 即座にフォルセルスは次の攻撃を放つ。

 だがそれも躱された。


 次も、その次も。

 少年は床を音速で滑走しながら、次々とフォルセルスの面の攻撃を避けていく。


「う……うぬ……」


 床を滑りながらヌルヌルと避ける少年に、フォルセルスは言葉では表せない感情が胸の中からわき上がってきた。


 恐怖?

 ……いや、違う。

 フォルセルスを脅かすほどの力は青年にはない。


 ならば、なんだ?

 この感覚は……。


 未だかつて覚えたことのない感情に、フォルセルスの体が僅かに震えた。


 不発した【即死攻撃】が、通常ダメージとして少年の背中を抉った。

 現在彼は、背骨を露出させているのだ。

 指先を動かしただけで、普通の人ならば気絶する。

 とても動けるような状態じゃない。

 魔術だって、放つのは難しいに違いない。


 なのに、なのに……!

 何故彼は動けるのだ!?


 そう。

 神フォルセルスでさえ理解を超えた現象がいま、目の前で巻き起こっている。


 感情が体を支配するその前に、フォルセルスは前方をすべて覆い尽くすほどの巨大なマナの壁を生み出し、一気にそれを放出した。


【マナバースト】

 フォルセルスより前の空間が、床を残して根こそぎ粉砕される。

 落下した大理石の欠片が地面に衝突し、地震のように塔全体が微振動する。


 だが、少年は生きていた。


 面で攻撃したにもかかわらず、攻撃を受ける瞬間、それが地に触れていないことを確認し、彼は床に潜り込んだ。


 目では捕らえられない穴を作成し、その中に潜り込んで【マナバースト】をやり過ごし、再び床の上に現われた。


「これが……変態の力……」


 一体かの人間の体のどこに、攻撃を回避する力が眠っていたというのか?

 正義を計るフォルセルスの天秤では、彼の正体が計れない。


 一体何故いままで、彼は一切この目に映らなかったのか?

 ユステルに善魔を送り込んだときも、日那のホクトを滅ぼしたときも、彼はその場に居たというのに。

 フォルセルスの目は常にマキア・エクステート・テロルとアマノ・シズカにしか向けられていなかった。


 彼は平民の出。

 決して貴族や王族ではない。

 ましてや英雄ですらない。


 ……なのに、何故平民がこれほどの力を得られたのだ!?


 急ぎフォルセルスは彼のステータスを覗き見る。

 れ……レベル156!?


 何故英雄にしか起こりえない、【限界突破】現象が起っているのだ!?

 ステータスも、神の半分に迫っている。


 これはおそらく封印した神々の悪戯が原因だろう。

 とはいえ妙だ。

 ただそれだけで、このようなステータスになるなど、決してあり得ない。

 少なくとも数千年の星の歴史において、英雄を除いた人種がこのレベル、基礎ステータスを手に入れたことなど一度だってない。


 おまけに青年は平民だ。


 平民では、力の頂きには決してたどり着けない。

 フォルセルスが自ら魔法でそう仕組んだ。


 すべては世界の秩序を守るため。

 平民が王族を虐殺する下克上によって国が荒廃しないように。

 そして王族は自らの格に対し、誠実であるように。


 それこそが秩序。

 フォルセルスがエアルガルドに行使した絶対的魔法だ。


 ……だというのに。

 彼は一体それを、どうやって突破したというのだ?


 考えれば考えるほど、謎は深まっていく。


 魔法であってもきっと疑問には思わないだろう現象を前にしたフォルセルスは、神に臨む不遜なアルトに対して、ある種の敬意を抱いていた。


 人間は、時折素晴らしい姿を予に見せつける。

 だからこそ、神代時にフォルセルスは人間の国を作った。

 人間こそが神の秩序を守り、正義を愛し、そして神すら想像できぬ現象を引き起こすものだから。


 アルトの回避行動にひとしきり感動したフォルセルスは、彼へとゆっくり歩みを進める。


 もう十分感動した。

 だから、その魂が破壊される前に救ってやろう。


 英雄の処遇について物別れに終わってしまったのは残念である。

 だが、だからといって彼の魂がここで朽ちてしまうのが、フォルセルスには非常にもったいなく思えた。


 魂が癒えたら、予の手ずから素晴らしい肉体に魂を注ぎ込むのだ。

 騎士長でも王でも、彼の魂ならば十分に活躍出来るだろう。

 正しい義をまっとう出来るだろう。


 決してネイシスの元になど送るものか。

 この魂の輝きは、フォルセルスの理想とする世界のために活かされるべきだ。


「青年よ。名を名乗ることを赦す」

「アルト」

「アルト。……なるほど、変態のアルトか」

「ちが――っ!?」

「良い名だ」

「えぇえ……」


 アルトの名を深く心に刻み込み、フォルセルスはアルトの胸目がけて手刀を滑り込ませた。


 これまで【回避】していたのが嘘のように、アルトの胸は手刀を、なんの抵抗もなく受け入れた。

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

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