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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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ワンでニャンでヒヒーンなウサギ(キツネ)

 高く巨大な建物に入ったアルトたちは、後方から戦闘音が聞こえて足を止める。


 空から善魔が降り立った広間では現在、アヌトリア兵と善魔の戦闘が始まっている。

 いまのところは、どちらにも大きな差はない。


 善魔1体に対しアヌトリア兵は盾2・攻撃1で対処している。かなりの安全マージンを取っているが、故に決定打も与えられない。


 この状態が続けば、疲労を感じないだろう善魔がいつか優位に立つだろう。

 そうなる前にハンナを取り戻し、善魔を操っている奴を叩かなければいけない。


「む?」


 不意に敵意を感じて身構える。

 広間の方からこちらに向かって、善魔が1体駆け込んできた。


 即座にアルトは戦闘態勢となる。

 だが、


「……ここはお任せを」


 一体いつ目が覚めたのか。

 クラインが自らの力で前に出る。


「1体だけならなんとか倒せますよ」

「倒しているあいだに、次々と善魔がやってきます。善魔があれだけとは限りません。倒しても倒しても沸いて出てくるならば、いつまで経っても前に進めません。ここの足止めはわたくしにお任せください」

「し、しかし……」


 彼はアルトと同じ。自分の手でハンナを救いたいと思っているはずだ。

 ならば一緒に、この先を目指すべきではないか?


 彼の気持ちを慮ると、ここに置いていく選択はあまりに酷なようにアルトには思えてしまう。


 なによりクラインもかなりのダメージを負っているし、レベルアップ直後でもある。

 善魔と戦うには最低の状態だ。


「怪我の心配ならば、問題ありません。この通り、ちゃんと返していただきましたから」


 そう言ってクラインはポケットから高級回復薬を取り出し、口に含んだ。

 みるみる……とまではいかないまでも、露出した皮膚についた傷や打撲跡が薄くなっていく。


「倒さず四肢を奪えば、良い具合に堰が出来ます。もう歳ですから。それを作ったら、わたくしは楽をさせていただきますよ」


 通路は2人が横並びで通れる程度しかない。

 彼の言う通り善魔の鎧をバリケードにしてしまえば、確かに追撃を防ぐことはできそうだ。


「でも、善魔は強いですよ?」

「アルト様に比べればわたくしは貧弱ですが、戴いた武器があります。特にこのドラゴンの槍は、実に素晴らしい出来でして」


 そう言い、彼は迫ってくる善魔に穂先を向けた。


 刹那。

 胸に穴が穿たれた善魔が前のめりに倒れた。


「どうにもわたくしとの相性が良いらしく、(そう)(じゆつ)(りゆう)()を用いると生き生きとするのですよ」


 確かに今の攻撃は、アルトですら目で捕らえるのがやっとだった。

 龍の名のつく槍術はドラゴン武器と相性が良いのだろうか。そんな話は初耳だ。

 だが彼の技のキレを見る限り、疑いようはない。


「……じゃあ、あとはお願いします」

「御意。どうか、必ずやハンナ様を!」


 クラインの目を見つめ、アルトはしっかりと頷いた。


 あなたの気持ちは、確かに受け取りました。

 ですからどうか、死なないでください。


 1秒。

 その僅かな間で気持ちを伝え、アルトは通路の奥へと歩き出した。



 足を引きずり、頭が横揺れする。

 痛々しいアルトの背中を見送って、クラインは堪えに堪えた表情を開放。

 途端に彼の顔は苦痛に大きく歪んだ。


 いくら最高の回復薬を服用したからといって、すぐにすべてが治癒するわけではない。

 軽傷ならば完治しているが、折れた肋骨や内臓の痛みなどは、まだまだ治癒に時間がかかるだろう。

 さらに、レベルアップ酔いもまだ若干残っている。


 もって5分か。

 スキルは打てて2発。

 クラインは冷静に己の現状を見積もった。


 先ほど善魔を貫いた技は2度と使えまい。

 あれはクラインの意地。

 ただの強がりだ。


 自分の年齢の四分の一も生きていない少年を前にして、クラインはこれ以上情けない姿を見せたくなかった。


 ハンナを救える可能性を先に繋げるのなら、たとえ命がここで果てようとも問題ない。


 旦那様、奥方様。

 どうかまた来世で出会えたら、わたくしめを再び雇って頂けますでしょうか?


 そして力が足りないばかりに見捨ててしまった侍従達よ。

 わたくしのことを赦してくれなくても良い。

 せめて再び(まみ)えることがあれば、このわたくしに謝罪する機会を与えて欲しい……。


 空から降り立った善魔が通路に押し寄せる。

 その数は3体。

 すべてが一度に通路に入り込めないため、入り口で渋滞している。


 どれほど倒せば良いか考えると、頭が痛くなる。

 だが、ただで死ぬ気など毛頭ない。


 足掻いて足掻いて、死ぬまで足掻いて、奴等を1匹でも多く道連れにしてやる。


「元カーネル家侍従長クライン。すべてはハンナ様のために。この命、奪おうというのであれば、魂魄もろとも道連れにすると心得よ!!」


 大声で叫び、クラインは槍を握り善魔に立ち向かっていった。




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




 通路を進むと大きな広間に到達した。

 広間には半円を描いた階段が右と左に設置されている。それが踊場で合流し、中央から1本の階段が上階に繋がっている。


 入念に【気配察知】を行い、この場所に敵がいないのを確認してから、アルトたちはその場に腰を下ろした。


 お互いに言葉を交わす余裕などない。

 皆、高級回復薬を口に含んで最も回復力が高まる態勢のまま、しばし瞑目した。


「……そういえば師匠。あの大剣の善魔のことだけど、どうしてトドメをあのじいさんに任せたんだ?」


 固有スキルに回復薬がプラスされたリオンが、面白いように治癒ていく。

 彼の露出した手や顔をしげしげ眺めながら、アルトは口を開く。


「善魔の鎧に1つだけ傷が付いていたんです」

「傷?」

「ええ。ボクが攻撃するのと同時に、こっそりルゥが魔石を射出していたようで。その攻撃で傷が付いたんです」


 普通に考えればアルト達がどれほど攻撃しようと傷付かない鎧に、アルト達よりレベルの低いルゥが魔石を放っただけで傷をつけられるはずがない。


 リオンの防御を貫通させるほどの腕力がありながら、大剣は一度も床を切り裂くことが出来なかった。

 それらを加味すると、あの大剣の善魔は強い相手にはとことん強くなり、弱い相手には弱くなる。

 そういう比例、あるいは反転する性質があるのではないかと推測が立つ。


 おそらくはシトリーが持つ宝具の原典で間違いない。

 最も単純だからこそ、最も危険な概念である。


 あの善魔を倒せたのは間違いなくルゥのおかげである。

 その立役者は現在アルトの腕の中で うー、気持ち悪いぃ、と言うようにモゾモゾ動いている。

 いくら衝撃を吸収する最高峰の鞄の中に居たからといって、アルトが吹き飛ばされた衝撃をすべて吸収出来たわけではない。


 龍鱗の迷宮で多少レベルが上がっていたおかげで命までは失わなかったが、それでもグルングルン揺さぶられて酔ってしまったのだろう。

 そんなルゥを、アルトは難しい顔をしながら優しくなで続ける。


 この先、もっと危険な相手が出てきたときは、ルゥを帯同させないほうが良いかもしれない。


 ……ん?


 アルトは違和感に気付き、辺りを見回した。

 部屋は白い大理石が敷き詰められており、壁には人が屈んでも入れないくらいの小さな扉が理路整然と並んでいる。

 扉の上には黒く小さなプレートが取り付けられていて、名前と年代が刻まれている。


 位堂は歴代の教皇の聖骸を安置する墓場でもある。

 天井はかなり高い。その面には幾何学的な絵画が描かれている。


 その天井を眺めていると、ふと階段から黒い影が現われた。


「み――!」


 みんな避けて。そう言う前にそれは階段から飛び出し落下。


 アルトの異変に即座に気付いたマギカとリオンが、たった一言で体を動かし着地地点から退避した。


 アルトも慌てて退避。

 直後、

 巨大な影が着地。

 轟音。

 床が抜けるのではないかと思えるほど地面が揺れる。


 態勢が崩れぬよう、アルトは必死にバランスをとる。


 現われたのは、大きな鬼。

 稀少モンスターのサイクロプスだ。

 その肩には少女が腰を下ろしている。


 少女は犬人族だろうか。尻尾と耳が生えているが、魔物のようには見えない。


「ワンの攻撃を躱すとは、さすがだにゃん」

「にゃん?」


 犬人族……のように見えるが、猫人族だったか?


「犬がシャベッタァァァ!」

「驚くのそこですか?」


 リオンのボケについ突っ込んでしまう。


「ワンは犬じゃないにゃん! 誉れ高い狐人族のワンだにゃん!!」


 狐人族なのに、ワンでにゃん。

 どうしよう。意味が分からない!


「狐なんて犬の親戚だろ」

「ぶっとばすど!?」


 リオンの挑発に尻尾を逆立てるワンと名乗る少女。

 というか出逢ってすぐ【挑発】するのは辞めてもらいたい。


 もし味方だったらどうするのだ?

 ……いや、それは絶対にあり得ないけど。


「ヒッヒッヒーン。犬コロだと思ってワンを見くびるにゃよ?」


 犬か猫か狐かと迷っているところに、さらに現われる馬の声!


 だめだ。

 声を聞いているだけで混乱してくる。


「フォルセルス様がおっしゃった通りだったにゃ。この盗人め! 神様に選ばれた狐人族のワンが、月に変わってお仕置きしてやるにゃ!!」


 兎が混じった!!


「あいつ、相当危険だぜ……ッ!!」


 ワンでにゃんでヒヒーンな兎(狐人族)。

 これまで濃いキャラで無双を続けたリオンが、その狂キャラっぷりに怯えてしまっている。


「さて、最初にワンのロプスちゃんの拳で潰れるのは誰かにゃ?」

「……」


 サイクロプスは鬼種で最もレベルの高いモンスターである。

 ただ、個体性能はドラゴンには及ばない。

 龍鱗の迷宮でレベリングした経験のあるアルトならば、赤子を捻るように倒せるはず。


 そう思うが、しかし先ほどからアルトの【危機感知】は警鐘をならしっぱなしである。


 まず狐人族がサイクロプスと一緒にいること。その肩に乗っていることから、彼女が魔物を操っている。あるいはアルトとルゥのような関係を結んでいると考えられる。


 つまり、彼女の職業は【魔物使い】である可能性が非常に高い。

 そうなると、【危機感知】が反応している理由が、うっすら見えて来る。


「マギカ、リオンさん。これはただのサイクロプスじゃありません。きっとワンの【魔物使い】のスキルで、かなり鍛えられてます」

「ヒッヒッヒーン。お前は目が良いにゃん。そのまま侮っていれば、痛みを感じることもなく死ねたのに」

「――ッ!」


 次の瞬間、アルトはその場から退避していた。

 なにかを感じたわけではない。

 兎に角、その場に居てはいけない。

 そう、【危機感知】が問答無用で体を動かした。


 ほぼ直感で動いたが、それは正解だった。


 アルトが退避すると同時に、目の前にサイクロプスの腕が床へと突き刺さった。

 1秒が永遠に引き延ばされ、宙に舞う砕けた大理石の破片が、ゆっくりと持ち上がっていく。

 その向こう。

 地面を殴りつけたサイクロプスが、アルトを見て唇を斜めにした。


 ――歯ごたえがありそうだ。

 まるで、そう言うかのように。


 サイクロプスの笑みは獰猛で、戦士が狂化を使ったときのようである。

 まさかそれも、【魔物使い】の能力の一つなのか?


「っ! こっちを見ろよボケナスワンコ!」

「ワンはワンコじゃないにゃん! やれロプスちゃん。あの頭の軽そうな男の残念な脳みそを、割って確かめるにゃん!!」


 完全に【挑発】に呑まれたワンが、ロプスに指令を出す。

 だがロプスはそれを無視してマギカに殴りかかる。


「ちょ……え!?」

「グガァァァァァ!!」


 うまく支配出来ていないのか、あるいは狂化が強すぎるのか。

 ワンは驚きの表情のままサイクロプスの肩にしがみついている。


「ちょ、ちょっとロプスちゃん!? ワンの言うことを聞くにゃん!」

「アンタじゃ役不足なんだよ犬コロ!」

「黙るにゃん馬鹿男! 雑魚に発言権はないにゃんバーカバーカ!!」

「っふ、誰が雑魚だって? 良いことを教えてやるよ」


 リオンは胸を張り、暴れ回るロプスに向けて剣を突きつけた。


「だったらその目に焼き付けろ、オレの全力全開(チカラ)を!!」

「い、一体なにをするつもりにゃ!?」


 にやり笑い、リオンは暴れ回るロプスに手を差し出した。


「――お手!」

「「「…………」」」

「ウガァァァァ!!」

「あんぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 なにをやるかと思えば、なんと馬鹿な……。

 ロプスに頭をかち割られて、悲鳴を上げながら逃げ回っている。


 可哀想だとは一切思えない。

 馬鹿だ。

 あまりに馬鹿すぎて肩の力が抜けてしまう。


「ぐぬぬぬぬ。馬鹿な! ワンの命令を聞かないロプスちゃんの怒りの向きを、たった1手で変えてしまうとは!」

「どうよ、オレサマの力は!?」

「っく、認めざるを得ないようにゃん。馬鹿男の、恐るべし力を!!」


(一体彼らはなにと戦っているのだろう?)


 確かにリオンが、暴走したロプスのタゲをねじ曲げたのは凄い。

 しかし、本当にそれでいいのかリオンとワンよ?


「アルト。ここは私に任せて」

「ん? 一緒に倒しませんか?」

「先を急いだ方がいい」


 真剣なマギカの表情に、アルトは口を閉ざす。


 彼女は上を確かめるように軽く瞳を動かした。

 その仕草で【気配察知】を拡大したアルトは、気付く。

 先ほどまでは感じなかった、強い気配が空の高い場所から感じられる。


 このままだと、アルトの予想を超えたなにかが起る可能性がある。

 それが起る前に、ハンナを助けた方が良い。

 直感がアルトにそう助言する。


「ワンとロプスは大丈夫ですか? 結構強いと思いますよ」

「ん。問題ない。だから、行って」


 そう言われれば、いくら【危険察知】が警鐘を鳴らしていても、アルトはマギカを信用するしかない。

 戦力は多い方が良いとか、一緒に倒した方が安全だとか、いろいろ言いたいことはある。


 だが、先を急いだ方が良い。

 それに敵う理屈が、アルトには見つからなかった。


「…………判りました」


 たっぷり悩み、アルトはゆっくりと頷く。

 すると突然、マギカがアルトの腰に手を回した。


「……あの」

「ん」


 胸に埋めた顔を傾け、マギカがアルトに意味深な視線を向ける。

 その先で、尻尾がふらふらと揺れている。


 ほら、ほら! と言わんばかりに揺れ動くそれを、さてどうしたものかと思いながらも、ゆっくりとなでつける。


「……特別」

「あ、ありがとうございます」


 うわぁ……とアルトは口を半開きにした。

 シズカに指一本触れせなかった尻尾の感触は、ふさふさしていて、柔らかくて、弾力があって、なにより、暖かかった。


「絶対、負けないで。ハンナを助けて」

「わかりました」

「約束」

「はい」


 まるで今生の別れ。


 ここが最後ではない。

 そう思いたいが、どうなるかは判らない。

 だからアルトはこれまでの感謝を慈しみに代えて、力いっぱいマギカの体を抱きしめた。


 ここまで来られたのは、間違いなくマギカが居たからだ。

 マギカが現われて、そんなところで満足してちゃいけないよって、そう言うみたいに前を走ってくれたからだ。


 彼女に出逢い、悔しさを覚えて、さらに努力していなければ、アルトはガミジンを倒すことも、日那でレベル100を超えることもなかったに違いない。


「マギカも死なないで。君の力が、ハンナには絶対に必要だから」

「ん。善処する」


 絶対に死なない。

 嘘でもそう言わないところが、真面目なマギカらしい。


 互いが抱く同じ未来を確かめ合ってから、アルトはマギカからゆっくりと離れた。


「モブ男さん。じゃれてないで行きますよ!」

「ちょぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 階段を駆け上ると、まるで置いていかれるのを嫌がる子どものように、猛烈な速度で反対側の階段を駆け上がってくる。

 さらに、マギカにじゃれついていたロプスも一緒に階段を駆け上る。


 ……これじゃ、もしかして一緒に付いて来ちゃうんじゃ?

 階段を上りながら嫌な予感が頭を掠める。


「ヒーン! ロプスちゃぁぁん! ワンの言うことを聞いてにゃぁぁん!」


 一度奪ったタゲはなかなか外れない。

 それがリオンクオリティ。


 中央で合流して上階に昇る階段を駆け上がる。

 その階段を2人が上りきったところで、アルトは魔銃で階段を撃ち抜いた。


 1発。2発。3発と発射すると、支えを失った階段が根元からボキリと折れた。


「う、ウソーン……」

「ウゴァァァァ!!」


 涙目になったワンと、リオンを殴りたくて目を血走らせたロプスが、一緒に下へと落下していった。


「ふ、っふん! 正義は勝つ!!」


 涙と鼻水とよだれを垂らしながら、足をガクンガクン震わせるリオンが勝ち誇るように胸を張る。

 しかし、一体リオンがなにをした?


 落下した階段が下で轟音をまき散らしたのを確認し、アルトは即座に通路の先へと向かった。


 いまの階段落下でロプスが死んだとは思えない。

 ただ、少しでもダメージを負っていれば良いのだが……。



 階段が崩落するとき、下で2人の様子を確認していたマギカは部屋の隅に慌てて退避した。

 なんとかして意識をこちらに向けさせようと慌てたが、いつもいつも、そこをどうにかするのがアルトである。


 いつもいつも、マギカが諦めるような事態を、アルトは平然と乗り越えていく。

 その後ろ姿を見ているだけで、マギカの自尊心は痛く傷つけられる。

 だが同時に、不思議とやる気がわいてくる。


 彼が居なければ、マギカは決してここまで強くはならなかった。

 レベルだって70くらいで止まっていただろうし、シズカに触れることだって出来なかったはずだ。


 彼がいなければ間違いなく、この場所には到達出来なかった。


 マギカは、心の底からアルトに感謝している。

 だからこそ、彼に尻尾を触らせた。

 それは信頼の証し。

 栗鼠族において、家族や恋人に対してのみ赦される行為である。


 だからこそ……惜しかった。

 ハンナを助け出した後の道の上に、どうやったって彼は存在しないのだ。


 リオンは気付いているだろうか?

 彼の魂が、もう半分以上も欠落していることに……。


 落下したロプスとワンがゆっくりと立ち上がる。

 やはり崩落に巻き込まれても、彼女たちには一切傷が付いていない。


 おそらくアルトの読み通り、ワンは職業【魔物使い】によりサイクロプスを使役。そこから魔物を狩ってかなりレベルを上げたに違いない。


「ヒーン……。もう最低の気分だにゃぁ」

「グゴゴゴ」


 リオンは持ち前の馬鹿の力でうまく攻撃を受け流していたが、それでもロプスの攻撃は頭を割るほどの威力があった。

 きっとマギカが1発でも食らえば戦況が覆せなくなるに違いない。


 だが、当然ながら未来は諦めない。


 マギカの夢は英雄に付き従い、英雄を支えていくことである。

 それこそがアマノメヒト様の啓示。

 栗鼠族の、王として交わした世界との契約。


 その証である宝具に力を入れ、マギカは全身に力を入れる。


「ワンの相手はお前かにゃあ。うーん。弱そうだにゃあ」

「ん。私はきっと、一番弱い」


 3人の中で比べれば、マギカは一番弱い。

 アルトのような突破力はないし、リオンのような打たれ強さもない。

 ただ素早く動けるだけの獣人だ。


「ヒーン。もう負け犬気分かにゃ? ワンは神様から位堂に侵入したものは残らず殺せって言われてるにゃん。悪いけど、見逃す気はにゃいよ?」

「当然。こっちも逃さないから」

「雑魚がにゃんか言ってる……」

「その雑魚に負ける狐が、哀れ」

「……ロプスちゃん。あの栗鼠ッコロを殺すにゃ!」

「ガァァァァ!!」


 刹那で間合いを詰めたロプスの攻撃を避け、マギカは後方に離脱しながら宝具に力を込めた。


「メヒト様。頭の哀れな狐にどうかご慈悲を。≪瞬け星よ夢幻の(ステラ・マグナム)≫!!」


 マギカが放った9つの拳が、ワンに獰猛な牙を剥いて襲いかかった。

オレに構うな、先に行けッ! みたいな展開が好物です

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