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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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両親を守れ!

 同時刻。

 青果店“ジャックとフィアン”のお店に黒ずくめの男3名が現われた。

 彼らは一言も声を上げず、じわじわとジャックとフィアンに近づいていく。


 殺意を滾らせた三人の男を見て、ジャックとフィアンの二人は確信した。

 きっと自分たちは殺されるのだ、と。


 理由はわからない。

 だが、目の前の3名は決して見逃してはくれないだろう。それだけは嫌という程理解できる。


 ジャックとフィアンは二人抱き合いながら、最後の時を待つ。

 だが、


「させるか!」

「――っ!?」


 店にやってきた犬人女性が、目にもとまらぬ動きで剣を振るい不審者1名を昏倒させた。


「「ひっ!!」」


 敵か味方か。区別がつかないジャックとフィアンは、お互いに強く抱き合って短い悲鳴を上げる。


「安心してください」


 たったいま人を攻撃したばかりだというのに、犬人は顔色ひとつ変えずに黒縁めがねを押し上げる。


「我々は味方です」


 黒ずくめ達は犬人を敵だと見なしたのだろう。即座に反転して犬人に殺気を向ける。

 だが抵抗する間もなく、不審者2人が地面に転がった。


 犬人の女性が一体なにをしたのか、ジャックとフィアンの目ではさっぱり捕らえられなかった。

 不審者を昏倒させた武力の名残が風となり、2人の頬にぶつかった。


「処理しろ」

「はっ!」


 一体いつの間に現われたのか、巡礼服を身に纏った男2人が素早く黒ずくめの男達を店の隅に移動させる。


「お騒がせしましたジャックさんとフィアンさん。私はフラン・ゴーシュ。アヌトリア帝国シュルト方面隊分隊長です」

「そそ、そのような方が、俺達に一体……」

「おお、お金ですか!?」

「いえ」


 二人の怯えように、フランは思わず苦笑いする。

 彼のご両親というからどのような方たちかと思ったが、まるで荒事を知らぬ平民ではないか。


 一体何故このような方たちから、あのような変態が生まれたのか……。

 人というものは、わからないものだ。


「先の大戦で、我々の国はアルト様の尽力により救われました。今日、そのアルト様が決死の覚悟で親友を救われるという話を聞き、居ても立っても居られずに駆けつけた次第です」

「親友……」

「はい。彼の行動で、もしかするとご両親が捕縛され、人質として利用されるのではないかと危惧した我が皇帝陛下が、こうしてお2人の身の安全を確保するために、私を使わしました」


 確定情報ではないが、セレネに存在した暗部は壊滅したらしいとの報告は受けていた。

 だが壊滅は、全滅ではない。

 水面下で行動し、遊撃されては後手にまわってしまう。

 戦時中のシュルトのように……。


 そうならないために、フランはここに訪れた。

 親友を救うアルトの動きを、下らない策略で止めてしまわないように。


「アルトは、いまどこに?」

「神殿で、戦っていらっしゃるかと思われます」

「た、戦う? それは……危険なことなんでしょうか?」

「はい」

「「……」」


 ジャックとフィアンが互いの目を見つめ合い、動く。

 だがその動きをフランが即座に止めに入る。


「どこへ行くおつもりですか?」

「アルトの……アルトのところへ!」

「いけません。死にに行くようなものですよ」

「死にに!? じゃあなおさらです。止めないでください!!」

「そうです。折角、アルトに会えたのに。私たちはなにもせず、またアルトを失うのを見ていろとおっしゃるのですか!」


 子どもが死にそうだっていうのに、それを黙って見過ごす親がどこにいるだろうか?

 その気持ちが、フランには痛いほど理解出来た。


 だがフランは、まっすぐ2人を見つめる。


「いいえ。なにもするなとは言いません。ここは神の地セレネ皇国です。お2人が出来るのは、神に祈ること。大きく育ったアルト様を、信じることです」

「しかしっ!」

「敵と戦うことと同様に、見守り祈ることにも、強靱な精神力が必要です。己の衝動を止めきれず、ここを飛び出してアルト様に迷惑をかける心弱き者か。あるいはここに残り、アルト様を信じて健勝を祈る心強き者か……。ご両親は、どちらですか?」

「「…………」」


 ジャックとフィアンはまだ渋面を保っているが、おそらくもう大丈夫だろう。

 体が弛緩し、ここから駆け出す雰囲気が失せてしまっている。


「……おい、まだ捕縛できないのか?」

「すみません。縄を忘れてしまって……」

「はぁ」


 要人保護の任務に就いているのに、捕縛用の縄を持参していなかったとは……。

 連れてきた2名の兵士の言葉に、フランは思わずため息を吐き出した。


「……な、縄ならありますが」


 頭を抱えそうになったフランの耳に、ジャックの声が届く。


「え、ええ……」

「縄をお貸しいたしましょうか?」

「え、あ、はい。貸していただけますか? 奴らが目を覚ましたら、また荒事になってしまいますので」

「そうですね。あっ、縛るのは任せてください。得意なので」

「得意?」


 ジャックの言葉の意味がわからずフランは首を傾げる。

 その目の前で、ジャックとフィアンが奥から縄を手に戻ってきた。

 彼らはフランの目でも捕らえられぬほどの恐るべき速度で、黒ずくめの男3人を拘束した。


(この二人、出来るッ!!)


 縄を巻き、縛るまでの手つきに一切の隙がみられない。

 まるで何千、何万回と〝なにかを束ねてきた〟かのような手つきである。


 おまけに――。


「何故吊すんですか!?」

「え? あ、すみません、ついクセで……」


 男三人を天井の梁から吊るしてしまったではないか。

 その流れるような美しい手つきには、フランは思わず見入ってしまったほどだった。


「クセ?」

「ええ。ウチでは大根は縛って吊るすが基本ですので……」

「最近、大根を縛って吊るす作業ばかりやっていたんですよ。ハハハ」

「大根は寒風に当てると繊維が柔らかくなって、甘みも増すんですよ」

「どうです? ウチの特〝聖〟大根、食べてみませんか?」

「はあ……いえ、いまはそれどころでは――」

「まあまあ」

「美味しいですから、さあさあ」


 アルトの両親の安全を確保出来たことにほっと胸をなで下ろす。

 それと同時に、二人から加わる強力な『食べろ圧』からどう逃れるか。

 フランは頭を悩ませるのだった。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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