新しい武器
絶望の淵からフランは顔を上げる。
そこには、黒いマントを身につけた、平凡顔の少年が佇んでいた。
彼は辺りを見回して、ボティウスを眺める。
「あれは悪魔かな? ……いや、でも元は人間? そんな宝具あったかなぁ? ま、いっか」
皇帝陛下が送り込んだ少年の緊張感を感じさせない声に、フランは内心焦燥と怒りがこみ上げる。
何故こんな所にのこのこやってきたんだ!
目の前に、強大な敵がいるというのが判らないのか!?
そんなフランの感情とは裏腹に、アルトは腰から奇妙な筒を取り出して口を開く。
「すみませんが、試験の相手になってもらいますね」
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影は……おそらくボティウスだろう。【気配察知】が彼だと告げている。
何故彼はこのような姿になってしまったのだろう?
影からは現在も、禍々しいオーラがあふれ出ている。
それは感情。負の力。
激怒や怨嗟をありありと感じる。
アルトは左の腰に据えている新武器をゆっくり抜き放つ。
それは白い筐体に金の彩飾が施された、アルトお手製の武器――魔銃ベレッタ。
アルトは鞄から小さな魔石を取り出し、それを銃身に空いた穴に填め込んだ。
これで、弾は装填完了。
善魔を構成していた強大なエネルギィが、魔石にはぎっしり詰まっている。
それをアルトのマナで揺さぶり抽出。
銃身に組み込まれた【刻印】に集積。
引き金を引いて、一気に射出される。
MP消費が大きく使いにくい武器だが、だからこそ浪漫がある。
魔銃を構えながら、アルトはボティウスに向かって【跳躍】
空中で、ボティウスが反応。
体をくの字におり、反り返る。
背中から射出された黒い塊が、一斉にアルトめがけて飛来した。
「――っふ」
【闇魔術】!
アルトは即座に【魔術看破】で黒い球の正体を見抜いた。
とはいえそれだけで対処できる代物ではない。
軽く息を吐き、アルトは自分に向けて【ハック】を展開。
右から左から。縦横無尽に宙を駆け回り迫る塊を、アルトは接触寸前で次々と回避していく。
さらに塊が遠くまで飛び、一般人が被害を受けないよう、【重魔術】で塊を地面に落下させていく。
自分を強制的に動かす【ハック】。
これによる人間離れした回避を続けたアルトだったが、回避を優先するあまり、空中で逆さまになってしまった。
このままでは頭から地面に落下するだろう。
既に彼の頭上――下方5m先には地面がある。猫ならざる人の身である彼に、態勢を整える術はない。
「危ない!!」
フランの声が辺りに響き渡る。
その声の通り、アルトは頭から落下し――はしなかった。
地上2mまで迫った彼の頭が、急停止。
そのすぐ後に、すぅっと音もなく上空に昇っていった。
アルトは逆さまになった態勢のまま、次の魔術を放とうとしているボティウスに照準を合わせる。
ボティウスが体をくの字に折り、反り返るその直前。
アルトは引き金を引いた。
瞬間。
一閃。
白い光。
目を焼かんばかりに輝いたそれが、一直線にボティウスに迫る。
いままさに反り返ったボティウスを光はまるごと飲み込み、遙か後方。
地の彼方へと上半身を持ち去った。
後に残されたのは、ボティウスの下半身のみ。
上半身を失った黒い下半身が、ゆったりと前に倒れ地面に激突した。
魔銃の反動を利用し、アルトは空中で姿勢を整え、【ハック】を用いてゆっくりと地面に降り立った。
「うわぁ……」
目の前でピクピクと痙攣する下半身と、己の魔銃を見比べてアルトは青ざめる。
ヤバイ。
これはヤバイ!!
実践だということで、どこまで銃身が耐えられるかのテストもかねて全力でぶっ放したが、その威力はアルトの予想を遙かに上回っていた。
用いたマナは1000。
もたらした結果は未知。
全力ではないとはいえ、マギカの拳で傷一つ負わなかった体を、たった1撃でなんの抵抗もなく消し去ってしまった。
その魔銃のあまりの威力に、アルトは腰が引けてしまう。
背中を冷たい汗が流れ落ちる。
ハンナを救出の決戦用に作った武器ではあるが、こんなものを使ったら、ハンナすら消し去ってしまうんじゃないか?
魔銃を眺めながら、アルトはこれを封印すべきかどうか思い悩むのだった。




