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悪意の視線

「魔物にかじられ、地面を這いつくばったオレ! もうここで終わりなのか! アリアハンから一歩出ただけで終了なのか?! これは陸な装備もお金も渡さない王様がいけないんだわと思いつつ、オレは目を閉じた」

「……」

「そこを、ある冒険者たちが救ってくれた! 奴らは名前も告げず、オレをフィンリスまでつれて行ってくれた……」

「なるほど」


 リオンの様子を見て、あまり関わり合いたくないと思った冒険者達。

 しかしそんな彼を見殺しにするのは夢見が悪いため、安置までつれて行ったと……。


「そういう経験があったから、モブ男さんは困っている人を助けることに憧れを持ったわけですね」

「ちち、違うぜ! 困っている人を助けるのが勇者だろ!? 勇者だから助けんだよ!」


 うん。それなら多くの人類は困っている人を助けなくなっちゃうよ?

 大体勇者なんてレアギフト、持ってる人は少ないしね。


 慌てるリオンの頭を、マギカが無言でなでつける。


「ちょ、なにすんだよ?」


 てっきり殴られるのかと思ったのだろう。

 いままでない反応に、リオンが硬直して首を凹ませた。


「人は人を助ける。でも、それは余裕があるときだけ。栗鼠族は現在、総数100名にも満たない。外敵に襲われたら、簡単に滅びる。だから、警戒心が強い」


 マギカが自分の身の上を語るなんて本当に珍しい出来事だ。

 おそらく、難民達の姿が自分の種族にダブったのだろう。

 そして、その者達に対して不満を口にするリオンに、どうしても弁明したかったのかもしれない。


 警戒したくてしているわけではない。

 自分たちを守るためには、どうしても必要なのだと……。


“あまり悪く思わないで”。

 マギカがリオンを撫でているのは、そんな意味合いがあったのかもしれない。


 ただ、警戒心が高いと言うけれど、マギカにそんな素振りがあったかどうかは不明である。

 ご飯の匂いに釣られて、アルトのすぐ隣にひょっこり現れたわけだし……。


 マギカに諭されたリオンが、渋々怒りの矛をしまい込む。

 そんな中、アルトの耳が遠くから声を拾いつつける。


「あいつは犯人だ――」

「やはり殺しに来たんじゃ――」

「シュルトじゃ――――だったからな」


 所々風の音に邪魔をされて聞き取れないが、彼らの意見は全体的に統一されている。


 アルトは何らかの犯人であり、区画に紛れ込んで人を殺そうとしている。


 何故このような噂がここまで広がっているのだろう?

 兵士を大量に捕虜にしたせいで、噂がねじ曲がって伝わってしまったのだろうか?


 そんなことを考えながら、アルトはまた別の区画へと歩き出した。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 宿営地の南側、一番端までたどり付いたが結局、アルト達が使えるスペースが見つからず、南端外側でキャンプをすることにした。 

 さすがに困窮している人達の前で天幕を立てる勇気がなく、アルトは敷布を敷いただけで済ませることにする。


 ルゥに食材を吐き出してもらい、中から米や肉、醤油などを取り出していく。


 やはりキャンプで米と言えば飯ごう!

 アルトは地面の砂をかき集めて【精錬】、砂鉄を【錬成】して鋳鉄を生み出し、熱して伸ばして飯ごうを作り出す。


 その間に、難民が暖を取るためアヌトリア軍がシュルトから運んできた廃材を、気の利くマギカが集めてきていた。

 廃材で火を熾して米をセット。


 次に残った鉄を延ばして鉄板を作り、形成。中華鍋を作成する。


「おお! もしかして、それは!!」


 リオンが、アルトが生み出した調理器具を見て目を輝かせた。


「今晩はチャーハンにしようかと思います」

「チャーハン!! さすが師匠! わかってるぅ!!」


 いや、キャンプでチャーハンはわかってないと思うが……。

 どちらかといえば、カレーではないだろうか?


 肉や野菜を刻み、米が炊き上がるのと同時に鍋に火を入れる。

 卵を溶かし入れて、肉や野菜を炒め、タネに味付けをしてからご飯を投入。

 全体が絡んだら日那で手に入れた醤油をまわし入れる。


「んんんん!! いい匂い!!」


 醤油の焦げる匂いを、鼻をヒクヒクさせながら胸いっぱいリオンが嗅ぎ取る。

 その横で、ねえねえ!この匂い、やばいよやばい!ほら!ほら!とはしゃぐように、マギカの耳も片方だけヒクヒク動いている。

 必死に我慢しているのだろう。ルゥは先ほどからアルトの腕に絡みついてプルプル震えている。


 火から上げて木皿に盛り付けて完成!


「……ん?」


 気付くと、難民が遠巻きにアルトを眺めている。

 彼らにはきちんと配給が当たっているのだろう。アルトの食事に唾を呑むような者はいない。

 とすると彼らは「一体お前はなにをやっているんだ?」という、興味か呆れの目でアルトを見ているのだろう。


 アルトはすっかり普通の感覚を忘れているが、調理器具作成から料理始めるなんて、ラーメンを作るために小麦を植えるようなもの。

 どうやら悪目立ちをしてしまったらしい。


 一般人の好奇の視線を尻目に、アルトらはチャーハンを口に入れる。


「うん、美味い」

「うめぇ、うめぇ……ッ!」

「ん……ん……」


 久しぶりの炒飯は最高である。

 みんなその味が気に入ったようでなによりだ。


 食事を進めていると、ただ食べるだけのシーンになったからか、難民の視線が少しずつアルトたちから離れていく。


 ただその中に、若干の雑味が混じっている。

 それがなんなのか、はっきりとしてないのでよく判らない。

 炒飯を食べられなかった人の悔しさなのか、あるいは妬みなのか……。


 それとなく周りを伺うと、既に散開した人達の中に、僅かに残る視線が2つ。


「おっ……」


 フランに発破をかけたのはあくまで邪神の御業だけれど、その心の倉庫に火薬が蓄えられた経緯はあるらしい。

 このあたり、少し詳しく調べてみるべきだろう。


「やっと尻尾を現したね」

「ん……」

「ん、どうした?」


 アルトの言葉にマギカが同調。彼女は視線の送り主にも気づいたらしい。

 この場で気づいてないのはリオンだけ。

 ――平常運転だ。


「なんかあったのか?」

「はい。戦争を長引かせる要因は、さっさと除去するに限るって話です」

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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