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アーティファクト

 現れた異種を目の当たりにし、マギカの脳内で警鐘ががんがん鳴らされる。

 相手は自分よりも遙か格上の相手だ。

 こんな相手に出会った場合、普段のマギカならばしっぽを巻いて逃げている。


 だが、今回は立ち向かおうとしていた。


 何故かなど、考えるまでもない。

 変態的な集中力を持ち、変態的な執着心を持ち、変態的な向上心を持ち、変態的な想像力を発揮する――途方もない馬鹿の熱に当てられたからだ。


(普通、一人でここまで魔物を倒そうとしない)

(なんで、こんな無茶をするの!?)


 50層に下ったマギカは、彼の綱渡りの戦闘に戦慄した。

 魔物と連戦を行えば、普通の人間ならば肉体だけでなく、精神的にも疲労する。

 その疲労が、失敗に繋がる。


 通常は2~3匹倒すと休憩を入れる。

 たとえ格下の相手であっても、次々魔物に出会わなければ休憩するものだ。

 少しの失敗が命取りになるのだから、疲れを回復させるのは当然だ。


 けれど彼は、常に連続で戦い続けた。


 アルトにとって、ダンジョンの魔物は遥か格下なのかといえば、決してそうではない。

 初めはアサシンストーカー相手に互角に戦っていた。


 マギカから見ればぎりぎりの綱の上を、彼は100回以上も渡って見せたのだ!


 驚異としか言いようがない。

 無謀としか評価できない。


 迷宮には、彼の実力を見るためにやってきた。

 彼の戦いを後ろから分析するつもりだった。

 なのに、彼が戦えば戦う程、どんどん実力が見えなくなっていく。


 一体彼は、どこへ向かおうとしているのか?

 どこまで手を伸ばそうというのか?

 そうまでしなければ、手が届かない場所なのか?

 考えただけで、空恐ろしくなる。


 マギカは戦士の端くれだ。

 幼い頃から、英雄の右腕になるために研鑽を積んできた。

 物心つく前から、同胞イチの戦士に厳しい稽古を付けられてきた。


 誰よりも、努力してきた――つもりだった。


 けれどアルトに出会って、上には上が居ることを知った。

 天賦の才ではなく、努力で負けたと思ったのは、これが初めてのことだった。


(負けたくない)


 常時、命をかけ続ける努力など、人として最も重要なものが抜け落ちている。

 アルトは、決して真似してはいけない類いの人間だ。


 だからといって、このままオメオメと引き下がれるマギカではなかった。


(絶対に、負けたくない!)


 マギカはとても、負けず嫌いだった。


(これまでの努力は、負けた)

(それは認める)

(でも、背負ってるものは、私の方が重い!)


 マギカが鉄拳を、ぐっと握りしめた。


 そのときだった。

 一体の魔物が通路から姿を現した。

 植物に浸食されたオーガだ。


 力では勝負にならない。それを、マギカは一目見て理解した。


 しかし――、


「……ッ!」


 マギカは全力でオーガに突っ込んだ。

 オーガにしてみれば、瞬き一つで目の前にマギカが現れたように感じられたことだろう。

 栗鼠族特有の高い敏捷力にものを言わせ、一撃。


 瞬間、強い反動。

 大岩を殴ったような感触にマギカは内心慌てた。


(くっ。体力が高い)


 鬼が右手を振りかぶるのを察知し、即座に移動。

 ステップ。

 回り込んで、強打。

 跳ね返る拳を左手で跳ね返し、瞬迅撃。


 大抵の魔物はこの二発で終わる。

 しかしプラントオーガはびくともしない。

 ダメージを与えた感触がほとんどない。


 マギカは幼い頃から体を鍛えてきた。

 敏捷ほどではないが、腕力にもそこそこの自信がある。

 だがそれを持ってしても、まるでダメージが通らない。


 これほど彼我に差があるのだ。

 通常であれば戦意を喪失する。


 しかし、マギカは笑った。


 一流の戦士は激情に吞まれてはいけない。

 だがこの時、マギカは体中を駆け巡る感情の渦に身を任せていた。


 もっと行ける気がした。

 まだ登れる気がした。


 遙か彼方空高く、戦士の頂に続く道を、

 マギカはこの日、初めて捉えたのだった。


 回避を行いながら連続攻撃。


 ――まだ!


 回避、フック、ステップ、スウェー。

 危機を察知し、受け流し。


 一秒ごとに、マギカの精神力がごっそりと削られる。


 ――まだまだ!


 瞬速撃、強打。

 ステップ、回避、カウンター。


(まだまだ)

(まだまだまだ!!)


 攻撃の音は激しさを増し、速度が上がっていく。

 3連の打撃の音が、徐々に重なり、1つになる。

 しかし、それでも鬼の防御が敗れない。


 ムキになって攻撃を繰り返す。そのマギカの意識の合間を縫うように、プラントオーガが蔦を振り下ろす。

 直撃するかと思われた蔦が、途中で空気の塊にはじき飛ばされた。


 風魔術だ。


 後ろを振り返ることなく、マギカはアルトの存在を意識する。

 彼が魔術で攻撃を撥ね除けてくれたのは明白だ。

 ありがたい、と思うと同時に、怒りが五臓六腑を突き抜ける。


(情けない……)

(子どもに助けられた)


 オーガからの攻撃を、避けられなかった自分に腹を立てた。

 怒りから意識が真っ赤に染まった。


(一気に決める!)


 鉄拳に魔力を送り込む。徐々に鉄拳が大きくなっていく。

 それは一族の宝。勇敢な戦士に与えられる武器である。


 其の前には影がなく、

 其の後には幻もない。


 この世に遍く多くの者は、こう呼ぶだろう。

 不変の武器を、その力を――。


宝具(アーティファクト)――《瞬け星よ夢幻の拳(ステラ・マグナム)》」


 解き放った拳が、あまりの速さに霞んだ。


 衝突の音はただ一つ。

 音さえ置き去りにする程の拳撃が9つ、同時に鬼へと叩き込まれた。


 宝具を用いた最大火力の攻撃に、鬼は為す術なく吹き飛んだ。

 残心した状態で、マギカは壁に激突する鬼の姿を追った。


 まるで貧血を起こしたように急に視界から色が消える。

 マナを半分ほど消費したためだろう、激しい倦怠感が体を襲う。

 スキルの硬直が終わる、その前に、ガンガンとマギカの脳内で警鐘が鳴った。

 瞬きをした直後、


「――な!?」


 鬼が目の前で拳を振りかぶっていた。


(一体、いつの間に)

(何故?)

(どうして?)

(宝具が完全に入ったのに!)


 多くの疑問が頭を通過し、最後に激しい敗北の念がマギカを支配した。

 宝具発動による硬直が、解けない。

 終わらない。

 避けられない。


「――あぁ」


 もう、ダメだ。

 マギカの口から、絶望の息が漏れた。

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