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祖国からの刺客

 ゼニスキー店店長となったシトリーは、早速その経営を根本から見直した。


 人が足りていない場所には人員を補充し、社員の教育を徹底する。

 迷宮開発の仕事は、魔石買い取りと人員確保の権利をギルドに委託。シトリーは迷宮の管理のみに従事する。


 迷宮はギルドで登録した者ならば、すべて探索出来るよう開放した。

 それと同時に、シトリーを援助してくれた商人や教会だけに、迷宮前の敷地を開放する。これでシトリーに恩を売れば大きな見返りがあることが示せたはずだ。


 現在はアルトが迷宮で変態的狩りを行っているため、かなりの収益が確保出来ている。

 アルトがいなくなる前に、すべての業務を軌道に乗せなければいけないが、シトリーに不安はなにひとつない。


 善も悪も、積み重ねれば必ず結果が生まれる。

 ゼニスキー・ド・ケチャが破滅したように、シトリーにもいずれ何らかの沙汰が下るだろう。


 その結果は、ゼニスとは真逆になると、シトリーは信じている。

 そうなるように、歩んでいくのだ。




 シトリーの頑張りは、アルトの耳にも届いている。


 目の前でシンデレラストーリーを繰り広げられたため、若干の嫉妬は禁じ得ない。

 人物初期設定が破格ではあるが、一応彼女は別の国の人間。この国で受け入れられる土壌は無かったのだから、成り上がりと言って良い。


 シトリーは結果を出しても、さらなる高みを目指している。

 ならばこちらも、負けてはいられない。


 シトリーが迷宮管理業務を行うようになってから、迷宮前ががらりと変化した。

 出張教会・出張ギルド査定室。それに露店がずらっと迷宮入り口近くまで伸びている。

 まるでお祭りの縁日のようだ。


 街の中はまだあまり変化が見られないが、それでも僅かに冒険者の姿を見るようになった。

 もう少しすると多くの冒険者がイノハに訪れ、宿や商店が力を取り戻し、イノハそのものが活気づいていくだろう。


 肉の臭いを嗅ぎつけた、アルトの青い猛獣(ルゥ)がモゾモゾと動き出す。

 く……予の鞄よ、静まれ!

 アルトは鞄を抑えながら、露店の合間をすり抜けるのだった。



 迷宮に籠もるための買い出しをしていると、ふとアルトは若干のノイズを感じ取った。


 今までは感じなかった、明らさまな敵意。

 瞬時に反応し〈気配察知〉を拡大。

 しかし、既にその敵意は完璧に失われていた。


 敵意と存在の消失速度を考えると、それが並大抵の相手ではないと容易に想像できる。

 だが、何故それほどの実力者がアルトに存在がバレるようなヘマをしたのか?


「いや、あえて存在を僕に告げたのか?」


 右へ左へ。アルトはイノハの街をジグザグに歩く。

 シトリーをフォローするためにいろいろ駆け回ったおかげで、アルトはイノハの道に大分詳しくなっている。

 どこへ行けばどの道に繋がるのか。人目の多い通りや少ない通り。また、行き止まりなども手に取るように思い出せる。


 アルトは人目の少ない通りを歩き、〈気配察知〉に意識を注ぐ。

 やはり、相手がどこにいるかは掴めないが、付けられている感覚がある。

 僅かにピリピリとした空気さえ漂っているように思える。


 荒事の気配を感じ、アルトは〈隠密〉を用いて気配を遮断。素早く動きその身を隠す。

 鞄を開いて、中からルゥを取りだした。


「ルゥ、お願いがあるんだ」


 ふにゃ? とルゥが体を動かす。


「ちょっと、嫌な予感がするんだ。宿に戻ってリオンさんを呼んで貰えるかな?」


 お安い御用だよ、とぬんぬん縦に揺れる。


「相手に見つかったら危ないから、なるべく隙間を通って行くように」


 アルトの意思を十全に汲み取ったのだろう。ルゥはプルプル動き出し、建物の隙間の中に滑り込んでいった。


 相手が誰かは判らないけれど、建物の隙間を通って行けばそこまで危険はないはずだ。


 アルトがそうしたのは、リオンの力がどうしても必要だったからではない。

 もちろん彼がいれば心強くはある。


 だがそれよりも、シトリーとの一戦と同じ過ちを繰り返さないため。

 つまりアルトはルゥを逃がすために、体の良い言い訳を口にしたのだ。


 きっとリオンの近くにいればルゥは安全だ。

 あの勇者の挑発を躱せるものはそうそういないのだから。


 アルトが物陰から出て行くと、もう隠れる気が無くなったのか、道の向こうに見覚えのない少女の姿があった。

 それともう1人……。


「オリアスさん?」


 彼の目はどこか虚ろで、アルトを見ているのに、まるで見えていない。

 アルトが話しかけたのに、ピクリとも反応しない。

 以前ならば「セイセイ」言って筋肉を見せびらかしていただろう。そんな様子がまったくない。


 一体どうしてしまったんだ?


「きみが罪人アルトー?」


 少女に話しかけられた途端、アルトの背筋が痛みを伴って粟立った。

 言葉の上っ面は猫を撫でるように優しいのに、奥に足を踏み入れた途端にどこまでも落ちていくような感覚。

 中には何もなく、何もないが故に平気で命を刈り取れる。

 そういうタイプの闇を感じる。


 少女はアルトの喉元ほどの背丈。髪の毛は短く、タイトな半袖にホットパンツという出で立ちである。そこに淫靡さはなく、健康な少女然としている。


 だがアルトはそれがただのボーイッシュな少女ではなく、彼女の〝戦闘スタイル〟に最も適した姿であることをすぐに見抜く。


 間違いない。アルトの後をつけていたのは、彼女だ。


「そんなにけいかいしないでよー」

「あなたは……何者ですか?」

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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