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決別のための決闘

「すみません、もう一度お願いします」

「聞こえませんでしたの? わたくしと決闘を――」

「嫌です」

「け、決闘は申し込まれたら受けねば恥ですわよ!?」

「ごめんなさい」


 恥なんて今更である。というか、何故シトリーと戦わねばならないのか。

 かなりの因縁はあったが、現在アルトは彼女を普通に仲間のように思っている。そんな相手と決闘など出来るはずがない。


「貴方には誇りというものがありませんの!?」

「んー、あると思いますけど」

「どうしても嫌だというのなら、無理矢理にでも――」

  「くっくっく……。オレは勇者。師匠がピンチになったら颯爽と登場するんだ!!」

「……」

「……と、兎に角決闘は受けて頂かねば困りますわ!」

「しかし――」

   「なにやってんだよシトリー! そこで師匠に剣を突きつけろ!!」

「…………」

「……なにやってんですか?」

「あ、ししょ――いっっんぎゃぁぁぁ!?」


 窓からこちらを覗き込みぼそぼそ呟くリオンを無視出来ず、アルトはリオンに話しかけた。

 窓を開け放つと、丁度窓枠を掴んでいたリオンの指が、窓に挟まった。

 その痛みに驚き手を離してしまったリオンが、真っ逆さまに三階から落下していった。


 さようなら、リオン。君のことは忘れない。


「罪人アルト。いつも鬱陶しいからといってリオンさんを窓から突き落とすとは。殺人の現行犯で逮捕いたしますわ!!」

「いやいやいや、窓を開けたら偶々落ちただけです。それに、リオンさんは死んでませんよ」

「ふぅ、死ぬかと思った」

「ほら」

「……何故生きているんですの?」


 リオンの生命力の高さにシトリーが首を振る。その気持ちが、アルトにも痛いほどよく判る。


「うっしょ」と三階までよじ登ったリオンがアルトを睨む。

「ちょっと師匠、危ねぇだろ! オレは勇者だから大丈夫だったけど、普通の人なら死んでたぜ!?」


 あんな落ち方をしたら勇者でも死ぬ。

 例外はリオンだけである。


「で、モブ男さんはなんの用ですか?」

「やっぱり勇者といえば、仲間がピンチの時に颯爽と現われるもんだろ?」

「はぁ?」

「その夢を叶えるために、勇者的舞台を待ってたんだ!」

「で、窓から落ちたと」


 実に勇者らしい。


「なあ師匠、あの決闘してやれよ」

「嫌ですよ、面倒だし……」


 なにより意味がわからない。


「せめて、理由を話してくれませんか?」

「……それは、決闘後に説明しますわ」


 シトリーの瞳が、アルトにまっすぐ向けられた。

 そこには、かつてあったような、そしてこれまで彼女が失っていた、揺るぎない信念があった。


(やっぱり、意味はわからないけど……仕方ない)


 アルトは、シトリーの願いを聞き入れることにした。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 イノハ郊外に向かったシトリーは、アルトと一定の距離を開けて向かい合った。

 それぞれの手には、短剣と細剣を模した木刀が携えられている。


 木刀を作ったのはアルトだ。

 ただ削っただけの見栄えの悪い短剣と細剣で、攻撃力はほとんどない。


 しかし彼はその無骨な木剣を、【術式刻印】でドラゴン武器とまったく同じ感触にしあげた。


 重量・重心・束の感触。すべてがうり二つ。

 目を瞑って木剣と真剣を握っても、どちらがどちらかわからない程だ。


 おまけに現在シトリーが手にしている細剣は、特有のしなりが再現されている。

 一体どのような仕組みなのか、〈術式刻印〉を知らないシトリーにはさっぱりだ。


 熟練者であれば多少武器が変わったところで実際の動きには差し支えない。だがそれは多少であり、全力を用いて戦う場合はそれが致命的になってしまう。

 だからそれは、アルトの配慮なのだろう。

 どちらも言い訳ができぬほど全力で戦うために。


「わたくしは全力で戦わせていただきますわ」

「もちろん。ただ僕は、スキルや魔術は使いませんので」

「……手を抜くつもりですの?」

「いえ。全力でやりますよ」


 そう言うと、アルトの存在感が静かに空気に解けていく。

 慌ててシトリーは〈気配察知〉を意識する。


 相手は既に、準備が出来ている。

 いつでもかかってこいと言わんばかりに、雰囲気が研ぎ澄まされている。


 シトリーは、深く呼吸をした。

 一度息を止め、細剣を構えて、腰を落とす。


 瞬き一つで間合いを詰めたシトリーが細剣を突出した。

 アルトは僅かに目を見開き、体を捻る。

 細剣が胸に接触。

 否。寸前ですり抜ける。


 散々練習してきた剣術《突進》と《刺突》が、こうも簡単に躱されると自信を失いそうだ。


 これまでシトリーは、この技を放って負けたことなど一度もない。

 躱せる相手だって、ユーフォニア12将に一握りしかいなかった。


 おまけにいまはその頃よりも、遙かにレベルが上がっている。

 きっと現在のシトリーの技を躱せるのはユーフォニア12将に1人だけだろう。


 それはシトリーでさえ先端が見えなくなるほどの技だ。

 躱されると予測はしていたが、実際確かめてみると驚異としか表現しようがない。


 僅かコンマ1秒で気持ちを持ち直し、シトリーは間を空ける。

 だが、体勢を立て直す遑は与えられなかった。


 こちらの間合いに一歩踏み込んだアルトが、シトリーに短剣を突き出した。

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