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切り身(活きてます

2月10日に『最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強』のコミックス1巻が発売となります。

何卒、ご購入の程宜しくお願いいたします!!

「シトリーさん。これを見てください」

「これは……え? あなた、一体いつキリミをつり上げたんですの?」

「まだ切り身は魚の種類だと言い張りますか……」


 先ほど捌こうとしていた魚の姿が消えたからか、シトリーがどこかほっとしている。


 それでよく料理しようと思えたものだ。

 だからこそ、あの魚は生煮えだったのか。


 煮えた鍋に切り身を入れてすぐに火から上げる。

 その間にアルトはもう1匹の魚を捌く。


「リオンさん、活け作りにするならきちんと捌いてくださいね」

「俺、魚を捌いたことがないんだよな」

「捌かないと料理じゃないですよ」

「いやいや、あれはステーキみたいに自分で切り分ける方式なんだよ」

「ステーキはすでに捌かれた後です……」

「そういやそうだったな」


 キャピッてへぺろ! みたいな顔はやめてもらいたい。

 気持ちの高ぶりを抑えるのに、尋常でない理性が削られる。


 シトリーがもの悲しげに鍋を眺めている隙に、アルトは手早く、こっそり魚を捌く。

 先ほどと同じように鱗をはぎ取り、三枚に下ろす。

 その切り身を柵にし、皮を焚き火で炙る。

 皮が焦げて脂が浮き上がってきた頃合いを見計らい、火から上げる。

 それを薄切りにし、皿に盛りつける。


 先ほど切り身を入れた鍋の方も、もう仕上がっているので皿に盛りつける。


「はい。では頂きましょうか」


 アルトは手を合わせるが、リオンとシトリーは苦渋を飲み干したような顔をしたまま動かない。


「……なんでだよ。なんで師匠は、料理もできるんだよ」

「おかしいですわ。殿方が、料理など……」


 いまにもちゃぶ台を返しそうなほど二人がわなわな振えている。


「もう、黙って食べようよ二人とも……」


 2人を無視して、アルトは宮廷料理風の切り身を口に運ぶ。

 泥抜きをしたおかげもあり、魚の泥臭さが和らいでいる。


 海の魚はそのままでも食べられるが、湖の魚はよほど綺麗な水に生息してない限り泥臭くて、そのまま食べられるものではないのだ。


 出汁が足りないので少し物足りないが、ここではこれで十分である。


「宮廷料理とは少し違いますが、おいしい、ですわ……」

「だな。師匠、どうして料理が上手いんだ?」


 前世で嫌というほど鍛えたからだが、それは答えられない。


 体は鍛練と、食事が作り上げる。

 だからアルトは、食にも一切手を抜かなかった。

 その結果が、この料理の味につながっている。


 不意に、手の甲にぺしぺしという衝撃を感じた。

 アルトが下を見ると、鞄からルゥが恨みがましそうに顔を出している。


(ぼくのぶんは?)


 もちろん、ルゥの分を忘れているわけではない。

 アルトは残った料理を、ルゥのために大量に皿に盛りつける。


「はい」


 皿を前に差し出すと、ルゥはぷるんぷるん喜んで、一気にすべてを体の中に放り込む。

 少しして、ルゥがみょんみょんとその場で飛び跳ねた。


 じつに良い食べっぷりだ。

 ルゥに味が気に入ってもらえたようで何よりである。


 だが、リオンとシトリーの二人はお気に召さなかったのか、箸とフォークを進めるも顔は陰ったままであった。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 翌日も、リオンとシトリーの雰囲気はどこか重たかった。


 なにか良くないことがあったのか。それともアルトが良くないことをしてしまったのか。

 理由を口にしてくれないので、アルトにはさっぱりわからないままだった。


 かなり素早く移動したため、頬を撫でる風に塩気を感じる。

 もう少し行けば海が見えるだろう。

 海が見えれば、ケツァム中立国の国境はもうすぐだ。


 キャンプの設営に入ると、武具を装備したリオンとシトリーが、なにやら深刻な表情のまま互いをにらみ合っている。


「今日も勝つ!」

「いいえ、勝つのも勝ったのもわたくしですわ!」

「勝敗は大きさな」

「当然。大きいは正義ですわ」

「ぎゃふんと言わせてやる」

「それはこちらの台詞ですのよ」

「勇者の底力。見せてやる!」

「ジャスティスの名にかけてこの勝負。絶対に負けません!」


(……二人はなんで命を賭けた大一番に挑むような顔をしてるの?)


 どちらが大物を手に入れるかを競い合ってるにしては、少々雰囲気が物騒だ。

 アルトの困惑を余所に、2人は海がある方向へと掛けだした。まるで初めに着いた方が勝者であるかのように、お互いに全力で走って行く。


 一体、なにが二人をそうさせるのだろう……。




 2人が海へ向かってから1時間ほど。

 火を熾して暇になったアルトがルゥと戯れていると、森の向こうから甲高い悲鳴が聞こえた。


「「ギャァァァァァァ!!」」


「なんだ!?」


 思わずアルトは腰を上げた。


《気配察知》がリオンとシトリーの気配を捕らえた。そしてその後ろに付き従うもう一つの大きな気配も……。

 同時に《危機感知》が反応し全身が粟立った。


「これ、やばいやつじゃ……?」

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