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キノトグリス

 ユーフォニア王国中央部に位置する迷宮都市キノトグリスは、巨大な外壁に包まれている。

 古い言葉で混沌(キノトグリス)を意味する通り、この街は多種多様な種族や職業の者達が雑多に入り乱れている。


 混沌としている原因は、ダンジョンだ。

 冒険者や商人や、その他金の匂いを嗅ぎつけた者達が、一発逆転を狙ってキノトグリスに集うのだ。


 生まれ故郷を立って1ヶ月。

 アルトは無事キノトグリスに到着した。

 この街には、世界屈指のダンジョンがある。

 ハンナが襲撃を受ける約七年後まで、ここでみっちりレベリングを行う予定だ。


 門に連なる列に並び、一時間ほどしてやっとアルトたちの審査の番になった。


「ブレスレットをかざしてください」


 受付係に促され、アルトは備え付けの魔道具にブレスレットをかざした。

 この魔道具は入門や出門時に、ブレスレットから情報を読み取るものだ。名前から出身地、犯罪歴や納税記録までチェックされる。


「アルトさんですね。キノトグリスへようこそ。毎年きちんと納税されておりますね。追加の入頭税はございません。どうぞお通りください」

「ありがとうございます」


 両親がしっかり納税してくれていて良かったと、アルトはほっと胸をなで下ろした。


(問題が起こらなくて良かっ――)


「次はマギカさん、ですね。過去に納税されている様子がありませんが、いままでどちらにいらっしゃいましたか?」


(――げっ!)


 後ろからついてきた少女――マギカが捕まった。

 マギカは栗毛の髪、それと同色の耳と尻尾。背丈はアルトより少し高い程度と、見た目は少女のようである。


 だが彼女――獣人族の見た目年齢を侮ることなかれ。

 一見すると13才くらいの少女だが、実は20才30才なんて当然のようにあり得るのだ。


 彼女は先日、野宿した際に出会った栗鼠族の少女で、アルトに同行する意思を見せた。


 その思惑は不明だ。

 ふらっと現れた彼女に、焼いたナイトウルフの肉をお裾分けした。


 ただそれだけの理由で(少なくともアルトにはそうとしか思えない)、彼女がアルトの旅に同行することになった。


(まさかあのお肉がよほど気に入ったのかな?)


 さすがにそれだけで付いて来たのであれば、人として問題だ。

 アルトはなにかしら裏があると踏んでいるが、その裏にさっぱり心当たりがない。


 さておき、マギカの税金である。


「ずっと、外で暮らしてた」

「そうですか。この国の民には等しく納税の義務があることはご存じでしょうか?」


 表情には現れていないが、茶色の耳がおろおろと動いている。しっぽもしゅんとして悲しげだ。


「それは獣人といえども例外ではありません。とはいえ、一定額以上の稼ぎがないのであれば納税は免除されますが……」

「お金は、稼いだことはない」


 マギカが薄い胸を張る。どうだ! と言わんばかりに耳は直立し、しっぽがゆさゆさと揺れる。


(それ、自慢するものじゃないよ……)


 アルトは額に手を当てた。


「そうですか。ではお調べいたしますね」


 お金を稼がずに暮らしていたのだとすれば、ほとんどの場合は課税されない。

 特にキノトグリスは、入頭税がほとんどないことで有名だ。


(たぶん、マギカなら大丈夫だ)


 アルトの予想通り、マギカは無事に(時間はかかったが)非課税での入門審査を果たした。

 審査の間ずっと緊張していたからか、マギカのしっぽが「もう……ダメ……」というようにクタッとしている。


「大丈夫?」

「……ん。街に入るの初めてだから、緊張した」

「ふぅん」


(僕と同じで、ずっと小さな村で暮らしてたのかな?)


 いまでは大都市にも慣れたものだが、初めてアルトがキノトグリスに来たときも、彼女のように緊張したものだ。


 門を抜けて、キノトグリスのメインエリアに足を踏み入れる。

 前世での暮らしを懐かしみながら、アルトは街を見回した。


「あれっ?」

「ん、どうしたの?」

「あ、いや、ごめん。なんでもない」


 首を傾げるマギカに、アルトは慌てて手を振った。

 先ほどは前世と異なる光景に、うっかり声を上げてしまった。


(前世で初めて来た時は、もっとうらぶれてる印象だったんだけどなあ)


 現在のキノトグリスは、綺麗なレンガ色の建物が建ち並んでいる。

 だが前世では、外壁が黒ずんでいたり、崩れ落ちたりしている家が多かった。


(前世は、たしか10歳の頃に来たんだっけ……?)


 現在アルトは8歳なので、今から2年後には記憶と同じ街並みになる。

 しかし街がたった2年で、そうみすぼらしくなる理由が思いつかない。


(税金の取り立てが厳しくなるとかかなあ? まあ、少し注意しておくか)


 何をするにも先立つものが必要だ。

 幸い手元には、沢山の魔石がある。


 魔石は魔物の心臓付近にある、マナを宿した石だ。

 様々な家庭用魔道具に用いられるので、需要は無くならない。


 この魔石をお金に換えるため、アルトは冒険者ギルドを目指して歩き出した。


 前世でアルトは、この街に5年近く暮らしていた。おかげで複雑な道も少しも迷うことなく歩くことができる。

 打って変わって後ろを歩くマギカは不安げだ。表情は涼しいものだが耳はせわしなく動き回り、股の下にしっぽが隠れてしまっている。


 冒険者ギルドに到着したアルトは、まっすぐ買取カウンターに向かう。

 カウンターの下から背伸びをして顔を出すと、受付業務を行う赤毛の青年が目を丸くした。


「い、いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」

「魔石の買取をお願いします」

「了解いたしまし――ヒッ!?」


 アルトがカウンターに乗せた鞄を開くと、受付係が突如大きく仰け反った。


「ま、魔物!?」

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