7話
突然謎の声が聞こえて来たと思ったら、そこに現れたのは縛られた状態で台車に乗った少女でした。
改めて今の状況を確認するととんでもねぇな。
「全く、自分は常々言ってたッスよ。なのに先生ときたらやれその可能性が〜だの、きっと今度こそは〜、なんて言って全く学習する気が無いッス。本当に先生みたいな変人についてきてくれるのなんて私ぐらいッスよ?」
ペラペラと、饒舌に話し出す少女はとても親しげに、しょうが無いなぁ感を出しながらニコニコと笑顔だ。
勿論縛られたままで。
「志球磨さん。話しかけられてますよ?あの子の言う先生って多分貴方の事でしょう?さっさと答えてあげてください、僕は関わりませんので。」
「いや、ちょっと待てシーズン君。君今何を持ってあの子が僕の関係者だと判断した?明らかにヤバいだろう、知らない、知り合いじゃ無いと言いたい。」
ニコニコの少女に志球磨さんをけしかけようとするが、当の本人は必死に否定する。
再度例の少女を見て、志球磨さんに視線を戻し今日の奇行を振り返った。
「いやあの変人さ加減は貴方繋がりでしょう。見て下さい、めっちゃ笑顔ですよ?」
そう断言する俺に志球磨さんが慌てた様に言葉を重ねる。
「待て、仮に彼女が本当に僕の関係者。所謂弟子だとしたら、さっきの考察者なんて大体同類だって証明に近づくんじゃないか?良いのか?それで。」
「そんなんで説得力持たさないで下さいよ!?」
「ほら嫌だろう?僕も流石にあれと同類は嫌だ。見なかった事にしよう。」
ヒソヒソと少女の処遇をそう決めた俺達に、亜久路さんが漸く口を開いた。
「君達中々酷い事言うね。」
ちょっと引きながらそういう亜久路さんは、ゆっくりとその少女に向かって行った。
「・・・・・!」
が、半ばで止まりじっくりと少女の方向を観察するようにしている。
「あ、亜久路さん?非常に聞きづらいんですけど・・・・・」
「ん、何かな?」
俺が声を掛けても振り向かず、見続けているその様子に一人やはりそうなのか。
と唾を飲み込む。
「亜久路さん、そういうのが趣味だったんですか?」
亜久路さんが毒気を抜かれた様に肩を落とし、やっと俺の方を向く。
「いや違うからね!?俺が見てるのは彼女じゃなくてその奥だよ。ほら、いるでしょ?出て来なよ。」
慌てて否定する亜久路さんが少女のその先、暗闇の方へと問い掛けた。
すると暗い路地の先、見通せない様な影の中からコツコツと足重が聞こえてくる。
「やっぱりバレたか?しかし、まさかこんな有名人に出会えるとは、今日はついてるかもな。」
「いや、路地裏に縛られた少女なんて不自然すぎるでしょ。それが彼女の趣味で無ければ仕立て人がいるのは当然でしょうに。」
「あ、自分の名前は柚田澄春ッスよ。宜しくッス。こんな時に言うのもあれなんすけど、どちらかと言われるとMッス。」
「あ、そうですか。」
そう言って頬を染めて金髪のボブカット揺らす柚田さんは、見る限り黙っていれば美人なのだろう整った顔を振り乱す。
何故そのタイミングで言った?とか何で縛られてるのに動じていないのか、とか気になり過ぎる事があり過ぎる。
それとも何か?これがこの世界のジョークなのか?乗った方が良いのだろうか?
「シーズン君。このノリに乗らなくていいよ、本当に。」
突然の亜久路さんの的確な指摘に頬が引き攣った。
「亜久路さん。俺の考えている事良く分かりましたね?」
「シーズン君直ぐに顔に出るし。でもそれより。そこの君、何処の所属の能力者だい?見た所隊服を着ていないからアークでは無いんだろう?」
確かに今しがた姿を現した男はどう見ても私服で、隊服といった物を着ている様子はない、けど。
・・・・・亜久路さん、アークってなんですか?
「当たり前だ。規律やら正義やら口煩くほざいている組織なんかに入れるか、俺は無所属だよ。」
吐き捨てる様に言い捨てる男からは、そのアークという組織への嫌悪感がありありと表れている。
その様子を見て亜久路さんは、だろうね。と頷き。
つい、と男の隣にいる少女に目を向ける。
「それには同感だけど。じゃあ女の子を縛るのはどうなのよ?自分は規則やらなんやらに縛られるのは嫌なのに、女の子は物理的に縛るんだ?いやーそういうのは叔父さんも見逃せませんよ?」
「ガン見してましたもんね。」
「シーズン君、それはさっき勘違いだって言ったよね!?」
「俺が此奴を縛っただぁ?巫山戯ろ。コイツは会った時からこの姿だったぞ。」
亜久路さんの問いに心外だと眉を顰めた男の答えを聞いて、一瞬思考が止まる。
会った時からそのまま?
え?それって・・・・・・・・・
その場の全員の視線が柚田さんに集まる。
それぞれがまさか、という顔をしている中当の本人はあっけらかんと、答えた。
「あ、気にしないで下さい。ただの趣味ッス。」
あ、そっスか。
死んだ様に何とも言えない空気が漂っていく中、柚田さんの横に立つ男に目を向ける。
男は今も決して警戒を解かないように好戦的な笑みで亜久路さんを睨みつけていた、が俺の視線に気づいたのか俺を一瞥すると。
パラ、と何処からか紙をめくる様な音が−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「・・・・・・シーズン君。三歩後ろに下がってくれ。」
「へ!?え、あ、志球磨さん?・・三歩下がる、ですか?」
突然の志球磨さんの耳打ちに戸惑いながらも言われた通りに三歩下がると、突然先程までいた場所が地面ごと凹みヒビ割れた。
「うえぇぇぇ!?地面が凹んだ!?」
その普通では有り得ない減少に俺は目を大きく見開き、俺とは違いそれを見て亜久路さんと志球磨さんは警戒心を更に上げた。
「能力だね。重力操作?」
「いや、そんな単純な物では無いな。恐らくだがもっと複雑な物の筈だ、現時点ではまだ考察としては弱いが何かを集めた様に見えた。」
冷静に男から目を離さずに相手の能力を話し合う二人は、流石に慣れたもので動揺などといった物は無さそうに見える。
「チッ、外したか。オメェには用は無ぇんだ。大人しくやられてりゃ余計な恐怖も感じる事は無ぇのによ。」
「おや?優しさだったのかい?此れが不器用な優しさって奴かね。」
「違うだろ阿呆か。」
攻撃を外した事に不満そうな男に向かって軽口を叩く亜久路さんに、志球磨さんが即座にツッコミを入れる。
何時もなら気が抜ける様なやり取りも、今はその何処までも通常運転な様子が頼もしい。
それに今俺は一人じゃ無い。
志球磨さんに、亜久路さんだっているんだ此れで負ける筈が−−−−−−−−−−−−−
「そうだ、シーズン君。折角だから君だけで戦ってみなよ。」
「・・・・・・・・・へ?」