6話
「考察班?」
「うん、志球磨君の通り名だ。有名人だよ、彼は。この世界に幾つかあるグループ全部から狙われているくらいには名が通っていて、懸賞金もかけられているしね。」
「け、懸賞金・・・・・?」
その言葉に思わず志球磨さんをまじまじと見つめてしまう。
非現実的な事はこの世界に来た時から何度も見聞きして来たが、懸賞金なんて物まであるとは流石に思い当たらなかった。
又狙われているというのに、その事実を何でも無い様に受け止めている姿に気負い等は一切見られない。
「そう。指名手配犯みたいな物だよ。」
「全く違う。」
亜久路さんの例え話を呆れた様子で即座に斬り捨てて、珈琲を飲み終えた志球磨さんが俺に話を振ってくる。
「そんな事よりもだ。シーズン君、僕の知る限りでは君も無事に能力を使う事が出来たんだろ?その時の様子や感じた事等を是非僕に聞かせてくれないか?・・・・・勿論タダと言う訳じゃ無い。君にも実りのある様にその能力を考察して見せる。・・・・・どうかな?」
「考察、ですか?えっと、さっきも言ってたんですけど考察ってなんですか?志球磨さんの通り名でもあるんですよね?」
先程まで何度か出て来たその言葉が分からず聞いた俺に、ああ。と何かを思い出した様に天井に目を向けて一つ瞬きをする。
「ああ、そうだったそうだった。君はまだ来たばかりだから知らないのも当然だった。・・・・・いや何、僕の事を完全に知らないまま辿り着いた人は随分と久しぶりだったからな、ウッカリしてた。」
「や~いおっちょこちょい。」
「喧しい、張っ倒すぞ。」
志球磨さんがその冗句を同じ様に斬り捨てる。
その後ジト目で亜久路さんを睨みつけるが、飄々としている姿を見て諦めた様に溜息をついた。
「亜久路が説明していないだろう事も予想通りだし別に良いけど、シーズン君。一応言っておくがその男に着いていくのは止めておいた方が良い、碌な事にならないぞ。・・・・まぁ、余計なお世話だろうけど。」
「アハハ・・・・・・・・・」
「失礼な、叔父さんが志球磨君に迷惑をかけた事があったかい?」
あっただろと答える志球磨さんに笑いながら誤魔化す亜久路さんは、先程注文していたミルクコーヒーに口をつける。
その姿に再度ため息をついてから改めて此方に向き直る。
「さて、本題に入ろうか。主に僕は今能力の効果の推測やこの世界の現象等の推測を生業としている。・・・・・と言ってもこうして実際に合って話をする事は先ず無い、さっき行った通り僕には懸賞金が掛かっているから無闇矢鱈に人に会う訳には行かない。」
志球磨さんはゆっくりと説明をし始めた。
未だに現実感の無い事だが懸賞金なんて物がかけられているとは思えない程堂々としている姿は、思わずさっき言われた事が聞き間違いなのでは無いかと思ってしまう。
「この世界には不可解な事が多く存在している。実際の愛知と違い幾つかしかない街、ループする訳でも無いのに進まない日数。それ等未だ分かっていない謎を解明しようとしているのが僕という訳だ。」
それは亜久路さんから聞いていたので知っていたが、改めて聞くと本当に不可解な事ばかりで別世界というのは何とも不思議な物だ。
「能力に関しても謎ばかり。どの様な原理で発動しているのか、何故その能力なのか、この世界に来れる者と来られない者の違いは何か、どの様な法則性があるのか。正直、分からない事ばかりだ。」
そう言って肩を竦めて首を振る志球磨さんはお手上げという風に言ってはいるが、その顔に暗い影は無く、寧ろそれでこそ面白いと言う様に笑みを浮かべている。
「その事に関しては不甲斐ないと思うが、そんな事で何時までもクヨクヨしていてもしょうがないので始めたのが能力考察。簡単に言えば能力鑑定のアルバイト、の様な物だ。」
志球磨さんがゴソゴソと鞄の中をあさりだし、ゴトリと机の上に大きな水晶が置かれる。
「え?」
「あ、僕は形から入るタイプなんだよね。」
突然の事に驚いた俺に真顔で志球磨さんはそう言うと、水晶に手を当てて目を瞑った。
それから何やら集中してブツブツと呟いているのを見て、俺は亜久路さんに耳打ちをする。
「どうしましょう亜久路さん。何か一気に胡散臭く見えて来たんですけど、いや、水晶占いを馬鹿にしている訳じゃ無いんですけど。」
「だよね。あんなんで本当に能力鑑定なんて出来るのかね?いや、今までやって来たんだからあっているんだろうけどもね。」
あまりの胡散臭さに知っているだろう亜久路さんに確認するが、その話方が何処か懐疑的な物であるのに首を傾げる。
「え?亜久路さん、志球磨さんと付き合い長いんですよね?」
「うん?二年前だよ、志球磨君と会ったのは。でも彼は中々人前に出ないからね、ましてや能力鑑定をしている所なんて初めてなんだよね。」
「む?・・・・・これは。」
水晶に集中していた志球磨さんが驚いた様に呟く。
目を大きく見開き、まるで予想打にしなかった物を見たかのように狼狽える。
「まさか、こんな事が!?いや、だけど・・・・・やっぱり。」
「え、何ですか?何が分かったんですか?・・・・・まさか、そんなに驚く様な不思議な能力なんですか!?」
志球磨さんの尋常で無い様子に俺は期待感で立ち上がり、亜久路さんは何やら隣で考え込んでいる。
(志球磨君のあの様子。あの時感じた何かを切り替える様な感覚、さらに能力の発動を一時的に封じた事、やはり鼓動君の能力は特別な物か?)
「嗚呼、ああああァァァァァァァ!!!」
突然狂った様に叫びだした志球磨さんが水晶を掲げる様に持ち上げる。
一体何が起こるのか?
警戒し身構える俺達の前で遂に志球磨さんが-----------------
「っのババアァ!!!!!!やっぱりこの水晶偽物じゃねぇか!!!!」
水晶を床に叩き付けた。
「へっ?」
突然の事に理解の及ばない俺と、
「あ、」
と何かに気がついた様な顔をする亜久路さん。
取り敢えず何かにブチ切れる志球磨さん、店内は騒然とし、
俺達は店を追い出された。
「って、何だったんですか!さっきのは!?」
店を叩き出されて少し、取り敢えずその場を離れた俺達は人通りの少ない裏路地を進んでいた。
「いや、それに関しては本当にすまなかった。思わず取り乱してしまった、本当に反省している。マジで。」
「言い方が反省していない奴の台詞なんだよなぁ!?」
真顔の志球磨さんの謝罪にツッコミを入れながら薄暗い路地裏を進む。
さっきの突然の奇行の衝撃で忘れそうになるが、この人は指名手配されたお尋ね者で目立つ行動は避けねばならない。
なのに、
「どうしてあんな事したんですか!?」
「あ、それに関しては大体分かるよ。・・・・・大方何時も通りに怪しい商品に手を出してそれが偽物だったってオチだよ。きっと。」
「何ですかそれ。」
その癖を聞き、思わず真顔になってしまった俺に亜久路さんは志球磨さんの事を話し始める。
「志球磨くんはそういう妙な収集癖があって、怪しい商品に手を出しては騙されまくってるんだよね。本当に懲りないなぁ、君は。」
何だその鴨は、何度も引っ掛かるのなら学習しろよ。そう言ってやりたい思いが喉まで出かかったが抑え込んだ。
「しょうがないだろ?その可能性が1%でもあるのなら試してみたくなるのが心情なんだ。世にいる色々な考察している人間なんて大体僕の同類だって、僕には分かる。」
「止めろ怒られるだろ!色んな所から!?」
俺の言葉にえー?と不服そうな顔をする志球磨さんは、然し何も言い返さず不貞腐れたように足元の石を蹴った。
「仮にも貴方指名手配されてるんでしょう!?もっと危機感持たないと!!」
「勿論持っているよ。・・・・・普段は。」
「今は!?」
どれだけ言っても暖簾に腕押しの様に効果の無い志球磨さんは、何事も無かったかの様に自然体で焦っている此方が馬鹿みたいに思えてくる。
その様子に更に詰めようとした所に、
「へー。危機感ッスか。そりゃ大事ッスね〜。全く、自分は常々言っていたッス。先生には危機感が足りないとッ!!!」
突然謎の声が聞こえて来た。
狭い路地裏内で少し反響しているが、その声は薄暗い路地裏の向こう側から聞こえたのが分かった。
「・・・この声は?」
「丁度良い所に来たな。」
亜久路さんがまたもや何かに気がついたような反応をし、志球磨さんが何かを知っている様にそちらを見る。
果たして声の主は誰なのか?またしても俺だけ全く分からない状況に歯噛みしながら、俺も声の主の登場を待つ。
カチャカチャと車輪の回るような音が聞えてその人物、いや少女は姿を現した。
何故か縄で縛られ台車に乗せられた姿で
「何だあの子ーーーーーーーーーーーッ!!??」