23話
「っ!?【空欄】の幹部!?」
そんな大物が何故こんな所に!?っていうか、こんな取引の護衛?どう見たって役不足でしょ、どういう事!?
突然の敵対組織のそれも幹部が出張ってくるという異常事態に芝崎愛花に緊張が走る。
話を聞く限り護衛対象の男は逃走を選ぶようで2対一の構図にはならないだろうが、如何せん相手が問題だ。
裏世界二大組織の片割れ【空欄】幹部、緋美具飛鳥。
自分はもう片割れの【アークス】幹部芝崎愛花だ。
確かに【空欄】と【アークス】は今まで幾度となく争ってきた敵対組織だ。
夜には【狂乱】でお互いに遠慮無しに戦闘を繰り広げてさえいる。
だがそれはあくまで簡易的なものとはいえ、決まった条件が揃った際の話であり、任務中に遭遇したとはいえ、それを抜きにした戦闘行為は好ましい物では無い。
最悪の場合は裏世界の均衡に繋がるデリケートな問題だ。
(相手もそれは分かっている筈、なら何でそんなリスクを犯してまで手を貸すの?)
チラリと既に男が逃走を図った扉に目を向けると、緋美具はすかさずその車線上に身を置いた。
「・・・・此処は通さない。」
「断固たる姿勢ってやつですか。嫌いじゃないですよ、そういうの。」
冷たい汗が頬を伝うのを感じながら、それを面に出さないように嗤う。
ピンチの時こそ大いに嗤う、それが芝崎愛花がこの裏世界で学んだ処世術だ。
ズバッと服の袖を切り裂いてナイフが通り過ぎる。
「チッ、そんな有り様で良く避けるな。」
「・・・・それしか脳がないもんでね。」
所々の切り傷から出血をしながら鼓動は右腕を庇うように抑えて、鋭く男を睨みつける。
未だ戦闘に不慣れとはいえ能力を使い序盤こそ優位に戦闘を進めていた鼓動だが、いつしかその優位性は逆転し、今では一方的に鼓動が傷を負っている。
その理由には戦闘経験の違いや、路地裏の狭い空間などの要因もあるが何より一番は、
この男の能力、俺の能力と相性が悪い。
ということに尽きる。
男がナイフを3本投擲する、それを見て鼓動は、即座に能力を発動。
徐々にゆっくりとなり停止する世界、その世界で思考を出来るのは鼓動だけ、詰まりこの世界での異常事態を鼓動だけが認識できる。
大凡時間の停止したこの世界には似つかわしく無い風切り音、鼓動の視界には変わらず此方へと飛んできているナイフが写っていた。
急いで鼓動は更に能力を進め、時間を巻き戻す。
止まった時間の中で自由に動ける訳では無い鼓動が、変わらず迫り来るナイフを避けるために、立ち位置を変更するために急激に時間を巻き戻す。
結果ナイフは鼓動を傷付けず、ナイフを投げられた時とは違う、十分程前に立っていた場所で時間は動き出した。
(やっぱり、あのナイフには俺の能力が効いていない。)
この数十分、時間を巻き戻しているため実際には二十分程しかたっていないのだが、鼓動は男の能力を前に苦戦を強いられていた。
「然しお前の能力、そこそこ厄介だな。俺の能力の感覚からいって予知や未来視じゃねぇ。俺の能力【柵からの逃避】はあらゆる障害を無視して切り裂き突き進む。能力を解除するまで俺のナイフは止まらねぇ。」
「ここまで無言だったのに、急にご丁寧に説明してくれるなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「そんぐらい余裕だって事だ。」
能力の干渉を受けない?だから俺の能力で巻き戻された時間の中でも変わらず動いていたのか。
「お前に近づいた瞬間、常にナイフに付与している能力が発動した。詰まり何らかの干渉を受けたって事だ。俺の能力の性質上、予知や未来視みたいな直接関わって来ない能力なら俺の能力に引っ掛かるわけがない。」
バレてる。
たった数回ナイフを投げただけで、ここまで分かるのかこの人。
言動とは違って頭脳は過ぎるだろ。
「対象をずらす?いいや、軌道は変わらなかった。空気抵抗やそれに準ずる能力ならまだ他の使い方があるだろうに、それをして来ないって事はそれも違うな。」
まるでマジックの種を見破るように、少しずつ暴かれる、真実に近づいてくる。
核心的な部分はまだだが、それも時間の問題だと思うと強烈な緊張感と共に冷や汗が出てくる。
「何かの条件がある・・・?俺に直接掛けてきていないって事は無機物にのみ有効か?」
それは違う、あんたにもしっかりと掛かっている。
ただその自覚がないだけだ。
どうやら目の前の男の能力の対象になるのはナイフのみのようで、本人は今の所俺の能力発動中に動く様子も無い。
だけどこのままじゃどうやっても勝てない。
「もしくは空間か・・・・」
この状況、どうしたら良いんだ・・・・?
一体何なんだ、こいつの能力は。
こいつと対峙して二十分程経つが、こいつがやった事といえば只逃げ回るだけ。
それだけなら能力を温存しているのか、戦闘に使えない能力なのかって所、揺さぶりを掛ける為に現時点で判明した事を態々説明したが、相手は未だボロを出す様子は無い。
その事に内心で舌打ちをしながら、先程見た不可解な現象について考える。
チラリと右手に持つナイフに視線を向ける。
戦闘を開始して直ぐの事だ。
俺が敵に相対して直ぐ、気づいた時には何故か投げられていたナイフが確実に何らかの干渉を断ち切った。
何だあれは?何時投げた?何時能力を付与した?
俺の能力は常時能力を付与し続ける様なもんじゃない。
先程行った常に能力を付与しているというのはブラフだ、真実じゃ無い。
能力を発動する為には投げる前に必ず付与する必要がある、なのにそのナイフは確実に俺の能力が付与されていた。
記憶にない、恐らく俺がしたであろう攻撃。
それに加えて何時の間にか増えていく奴の傷、まるでナイフで傷を負ったような不自然な負傷。
能力の代償?目の前にいたのに傷が出来る瞬間も見えないのはそれこそ不自然だ。
どうする?
今のままじゃ情報が足りない。
不確定要素の多いこの局面じゃ攻めきれないだろうが、時間さえあれば強引に押し切れる可能性が高い。
が、かと言って時間が有るわけじゃない。
互いが次にどう動くか決めかねていた時、
パァンという異音が響き、直後鼓動と相対していた男が振り返りざまにナイフを背後にふるったのが見えた。
振るわれたナイフは空を切ったにも関わらず、そこから激しい風が起こり路地裏全体をその風邪が通り抜ける。
「そこまでよ。コソコソと集まり何をしているのかと思えば、民間人を相手に能力を振るうなんて到底許せる行為じゃない。」
凛とした声が男を糾弾し、路地裏の入口から徐々に人影が近づいて来る。
路地裏から差し込む光を背に赤色の髪をかき上げその少女は高らかに宣言をする。
「貴方の行いは【アークス】幹部。金村詩音が罰するわ。」
ガードした腕の上から強い衝撃を受ける。
攻撃してきた敵、緋美狗飛鳥は攻撃が防がれたと見ると直ぐに腹部を狙い拳を振りかぶる。
「ッ!!」
「・・・・外したか。」
追撃が来ると見た瞬間、能力【歪な完璧主義】を発動し、飛鳥の背後数メートルで私が最も攻撃し易い位置に移動し、攻撃をせずに距離を取る。
ビリビリと痺れる腕を無意識に擦りながら、ゆったりと中腰から様子見をするように姿勢を変える飛鳥を観察する。
飛鳥が乱入してきてから芝崎が飛鳥に当てられた攻撃はゼロ。
それに対して飛鳥の攻撃はガード出来ているとはいえ全て被弾していた。
このままではいずれ押し切られると距離を取ったものの、そんな事で敵は待ってはくれない。
攻めあぐねる芝崎を見て攻めてこないと見るや、飛鳥は様子見の体制を即座に止め芝崎に攻めに出る。
その速度は中々に早く、裏世界で多くの対能力者戦闘をしてきた芝崎も舌を巻く程だ。
が、これだけならば対処は容易い。
芝崎は冷静に思考し、己の間合いに入った瞬間を狙い能力を発動する。
飛鳥の頭上、最も警戒の低い場所に移動した芝崎は突然の事態に明らかに対処の間に合っていない飛鳥に向けて拳を振り被る--------
次の瞬間には芝崎は下から上を見上げる様な体制で地面に足をつけていた。
視界の先には拳を振り被り攻撃直後の緋美狗飛鳥がいる。
それを認識して直ぐ、このままでは防御が間に合わない事を理解し、能力を発動。
芝崎が最もその攻撃を防御し易い位置に己の腕を移動させた。
能力を使った荒療治、無理矢理にした防御は能力を使ったとしても完璧では無い。
またしても能力で距離を取り仕切り直す。
先程からこの状況が続いている。
何とか防御は間に合ったが、不完全な防御は確実なダメージを肉体に訴えて来る。
明らかに無視できない事だ、このままでは勝ちの目はない。
これまでの戦闘で分かった事は相手の能力も自分と同じ移動系、それも自分だけでは無く他者も能力の範囲内という厄介な物。
(それにどうやらただそれだけの能力でもないみたいだし、)
「自分が何時も使っているとはいえ、移動系って本当に厄介ね。」
「それはお互い様でしょ?。意図していない所を正確に襲撃されるのは、それだけで多大なるストレスを与える。常に有利に立ち回れるのはこれ以上無い利点よ。」
ジリジリとお互いに相手の出方を伺う。
これまでの攻防で分かったのは、飽くまでもお互いの戦闘スタイルが意表を突く類のものである事だ。
私の強みはどのタイミングでも確実に有利に立ち回れることだ。
それは相手も同じだけど、自分と相手の違いは、能力の発動のタイミングが全て後出しだという事だ。
これではどれだけ自分が有利な位置から攻撃したとしても、後出しでその利点を奪われる。
それを打破するには--------、
飛鳥の意表を突くように芝崎は予備動作無しに駆け出すが、それは先程までの焼き回しのような無謀な突貫にしか見えない。
事実、その行動を見て飛鳥は怪訝な顔をしながらも迎え撃つ体制を取る。
その飛鳥の動作も全く先程と同じ物で、それは当然ながら既に先程競り勝っているのならば、余程の原因が無い限り同じ行動をするほうが勝率が高いからという合理的な思考だった。
芝崎はそのまま幾つかのフェイントを混ぜながら飛鳥の射程圏内に侵入し、飛鳥が迎撃しようとしたタイミングで能力を発動する。
瞬時に飛鳥の背後に移動した芝崎は完全に無防備な状態となった背中に拳を振りかぶると同時に----------------
飛鳥が能力を発動する。
そして、飛鳥の背中に芝崎の拳が突き刺さった。




