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虚実日記(ホロウグラム)  作者: 阿澄啓示
19/23

19話

【アーク本部】


その報告は正に青天の霹靂だった。


「門の様子がおかしい?」


「はい。ここ数日表世界と裏世界の幾つかある門を調査したところ、その全てが機能していないのを確認しました。」 


朝の定例報告であげられたそればかりが脳裏をよぎる。

 

【アーク】のリーダー、深海宵(ふかみしょう)はその報告を思い出し眉を顰めた。

彼の知る限りこの世界が始まってから【入口】に異変が生じた事は一度もないはずである。


「・・・・・何が起こっているのかな?」


問題は山積みだ。

あの鐘の音が響いた日から、どんどんとこの裏世界に変化が出ている。

果たしてそれが今まで溜まりに溜まっていた不満や只燻っていただけの事柄だけならば良い。

一つ一つに適切に対処していければ済む話だからだ。

だが万が一それが、綿密に立てられた計画の上にある事態ならば、話は変わってくる。

そういった事は総じて厄介だ。

こちらの予想を幾度も上回って来るし、対策も打ってくる。


 

眉間を解すように触り、強張っていたそこから力を抜く。

何とは無しに椅子から立ち上がり、ガラス張りの窓に近づくと外に広がる街の様子が伺える。



「・・・・・何時まで遊んでいるつもりだい、相棒。」


自分に似合わず感傷的にそう呟いた事に苦いものを感じながらも、思い浮かぶのは一人の男の顔だ。

ここ最近、顔も合わせていないあの男。

フラフラしているのは何時もの事だが、今は妙な胸騒ぎがある。


「叶うならばこの日々が続いていけば良いのにね。」
















鼓動(こどう)那月(なつき)が問題の渦中にいる中、亜久路隆二(あぐろりゅうじ)は一人、裏世界の大通りを歩いていた。

騒々しい昼の喧騒の中を、日課の散歩をしながらご近所の人々と交流。

全く何時も通り、平和な日常だ。

然しそんな平和が即座に崩れ去るなんて事は、この裏世界では何時もの事で、それは今日この瞬間も例外ではない。




それこそ激しい地鳴りのような音が響き、遠目に一つのビルが崩れ去るなんて何時もの事で、それを見た住人は我先にとその現場から遠ざかるように走り去った。

そんな大騒動の中でも亜久路は至って平常運転で、あくまでも呑気に構えている。


「ありゃりゃ、こんな真っ昼間から騒ぎ出すなんて何処の誰なのかね。・・・・・うちの子じゃ無いと良いけれど。」


だからこそ、こんな軽口が飛び出るし、こんな状況でそれに答えが帰ってこないことなど正に何時も通り--------------------



「それには同感だ。面倒事等起こさぬに越したことはない。」


訂正。

今日はどうやら何時もとは違うらしい。


心の中で新たな厄介事の予感を感じながら声に振り返ると、そこにいたのは上等そうなスーツに眼鏡をかけた、一見仕事の出来るサラリーマンといった風体の男。

初めて見る顔だ。

亜久路自身、裏世界に来て長いが、彼は見たことがない。

そんな彼に声をかけられたとあって興味本位から観察するように見てしまう。

男はその亜久路の態度が煩わしかったのか眉を顰めた。

 

「何か?」


「ああ、まさか独り言に返事が帰って来るなんて思わなくてね、直ぐに言葉が出なかった。全く、歳かねぇ。最近言葉が思い浮かばなくて苦労しているよ。」


「まだまだ若いのに、歳の話なんてするもんじゃない。・・・・私の持論だが、そういう歳の話をする奴は大抵胡散臭いやつか、年齢であやかれる恩恵を求める老人位だ。」


「偏見パネェな。」


余りにも偏ったその思考にツッコミを入れながら、亜久路は警戒を強める。

突然の爆発音にも落ち着いた様子を見せるだけでなく、ゆったりと近付いて来る足取りも淀みなく、隙がない。

裏世界の住民では無く、間違い無く自分と同じ表の世界(リアル)から来ている。

それもそうとう()()()()


着込む黒いスーツに黒い手袋を見る。


何処の勢力だ?

【アーク】ってタイプではなさそうだが、かと言って【空欄(くうら)】所属というのも違和感がある。

あの狂ったアウトロー集団の中にいても可怪しくはないが、何と無くこの男には違うものを感じる。

それこそ何処か懐かしい様な感じすら覚えているこの感覚。


「こんな所で態々声を掛けてくるなんて、何が狙いだい?おじさんこう見えて忙しいんだけどッ!?」


話の途中で素早く身体をひねるのと、太陽光を浴びて銀色に輝く刃物が突き出されるのは殆ど同じタイミングで、だからこそまだ距離があった分、避けられた筈なのだが。

それは確かに亜久路の草臥れたコートを浅くだが斬り裂いていた。


(確りと避けきったはずだけど。)


能力(ギフト)こそ使っていないとはいえ、それを見間違う亜久路ではない。

然し実際にコートには当たっている。

先ず間違い無く相手の能力(ギフト)の効果だろう。

これが回避不能な類の物ならば少し厄介だ。


「・・・・・何のマネか、なんて一応聞いておいた方が良いのかな?」


「必要無いな。聞いていた話とは印象が違っていた、だから試しただけだ。」


ナイフでの攻撃が外れたというのに、男は至って冷静で何でも無く、ともすれば世間話をするようにそう言ってのけた。

成程、中々のぶっ飛び具合だ。


「聞いていた?誰からだい?親しい人で無ければ良いんだけれどね。仲の良い知り合いにこんな事をされる覚えは無いものでね。」


「話す訳が無いだろう。」


「だよね~。」


もう興味が無くなったとばかりにナイフを仕舞い込み、代わりに取り出した煙草に火をつけ始めた男には相変わらず隙は見当たらない。

狙いも分からないまま放置しておくのは危険。

それに誰の差し金かも判明していない。

ならば、


「少しやる気でも出してみるかな?」


力づくで吐かせる。


「やる気になるのは良い事だ。だが其れは、()()()()()()


「っ!?・・・・・・・・・。」


「故に断る。」


亜久路が改めて臨戦態勢を取ったその瞬間の事だ。

確かに男の姿を捉えていた。

瞬きはしていないし、他の事に意識を取られた訳でもない。

それなのに、男の姿は亜久路の視線の先には既に無く。

男のその拒絶の言葉は亜久路の遥か()()から聞こえて来た。


背後を取られた。


驚愕しながらも素早く振り返るが、其処には無人の大通りがあるだけで人影一つありはしない。


「此れは、少し不味いかもしれないな。」


冷や汗が頬を伝う感覚を感じながら否が応にも亜久路は思い返す。

この感覚を最後に覚えたのはもうだいぶ昔の事だ。

それこそ、あの裏世界が最も荒れていた時代。

思い出したくも無い記憶。

嗚呼、成程。

懐かしくも成る訳だ、背筋が凍るようなこの感覚。

あの独特の雰囲気は正しく()()()()


【血戦】の時代の強者達が身に纏っていた物だ。


何故そんな遺物が今更出てくる? 

狙いは?規模は?私に接触してきたのは故意か?


様々な憶測が脳裏に浮かんでは消えていく、が。


今はそれよりも--------------


背筋に嫌な物を感じながら、亜久路は先程の音の方へ走り出す。

願わくば、最近目を掛けている少年が巻き込まれていない事を願って。















正しく津波のように無数の影が小柄な少女を捉えんと縦横無尽に攻立てるが、それは夕暮那月(ゆぐれなつき)には一つとして届かない。

 

「当たらねぇっ!・・・ッ!?、おまっ、避けんなよ!!」


「嫌だ。貴方の攻撃をわざと受ける理由がない。」


涼しい顔で相手の黒い影の様な物に向かって拳を構え、突きだす。

何てことはない筈の動作なのに、次の瞬間には迫って来ていた影が全て撃ち返されている。


「クソっ、どんな原理だ?何故ただのパンチ一発で俺の無数の手が弾き返される?しかもお前・・・・・」


苛立つ様子を見せながらも男は攻撃の手を緩め無いが、那月はその悉くを迎撃していく。


このままじゃジリ貧だ。

あの餓鬼を逃しでもしたらどんな目に合わせられるか分からない、それにこの(那月)の能力も未知数だ。

全く突破口が思いつかない。

強いて言うなら、このまま相手の体力切れを狙っての持久戦だが、餓鬼を連れた男に逃げられたら元も子もない。

かと言って相手の女に能力を明かさせる事も難しい

どうする?どうするっ?時間がない、差風音(さかざね)さんに気づかれる前にどうにかしないと・・・・・


「クソっ!!!」


女に大多数の黒い影を差し向け意識を逸して、数本を餓鬼を連れた男に向かわせる。

苦し紛れだが女に勝つ必要はない。

餓鬼さえ取り戻せればまだ何とでもなる!


なのに、


「それはさせない。」


「オゴッ!?」


腹部の突然の痛みに集中が解け、黒い影が掻き消える。

見れば、簡単に折れてしまいそうな女の細腕が俺の腹のど真ん中に打ち込まれている。

途轍も無い衝撃が腹部を襲い、身体が背後にあるビルに突っ込んだ。


「痛っつ・・・・・」


口元を吐き出された唾液で汚しながら、痛みに呻く。

此奴、何時の間に懐に入りやがった。

っていうか、何つぅパワーしてんだよ。 

その細腕の何処にそんな力があんだよっ!! 

などの悪態が次々と脳内に浮かび上がるが、打撃がクリーンヒットした男は激しく咳き込む事しか出来無い。

その有様は最早戦える状態に無い様に見えるが、それでも那月は警戒態勢を崩さない。


それどころか、


ドコォォン!!!


追撃を狙って更に姿が掻き消える。  


那月お得意の瞬間移動のような動きで、一瞬の間に倒れ伏す男の前に立つ。


が、その攻撃は男を捉えることはなかった。

那月の攻撃がビルに打ち当たる。

ビルはとても拳が当たったとは思えないような音を立てて、大きく陥没した。


男は能力の黒い影に己を持ち上げさせることで、那月の攻撃から逃れていた。 


「むぅ。逃げ足だけは一級品。・・・・・でも、次は当てる。」


「今まで何度も当ててきた癖に良く言うぜ。手加減無しにやりやがって、」


どうする!?時間がない、時間がない、時間がないっ!? 最悪遅刻は仕方ねえにしても、餓鬼を見失ったなんて口が裂けても言えないっ!!

どうするっ、どうするっ!?




 







何か狙ってる。

那月は対面に立つ男を冷静に観察しながら、そう結論付けた。


(結構良いの入ったんだけど。)


思い出すのは避けられる前に懐に入れた拳の事。

先程のパンチは正確に体の芯を打ち付けていたし、そこらへんのチンピラならば戦意を喪失でもしていた位の物だったのだが、男は変わらず戦う意志に陰りは見られない。

ダメージは受けているものの、回避行動は取れている。

中々に打たれ強い、でも・・・・・

もう十分に格付けは済んだと思ったのだが、それでも男は此方の隙を伺う様している。

単純な考え無しとは違う。

確実に逆転の目を持つ()()()()()

然し、



チラと背後を確認する、其処には付かず離れずの適切な距離を取ってこちらを見守る鼓動の姿。

そこには当然今回の原因となった少女もいる。

あの少女にそこまでの価値があるのか?

もう既に訳ありなのは十分に理解したが、果たしてどんな背景があるのか?

今探ることではないが、どうにもキナ臭い。

それこそもっと厄介な物を呼び込む気がしてならない。

那月は後で少女に探りを入れることを心に決めて男に向き直る。

まあでも、其れ等は全部。

此奴を倒してからだけど。



男が再度動き出す。

先程の焼き回しの様に単身で突っ込んで来る。


さっきと同じ?思考を放棄した?普通に考えたらただの無謀だけど、

男の瞳は、まだ諦めていない。

何をして来る?

そうして男は先程と全く同じように、那月と鼓動に其々黒い影を伸ばした。

その行動に那月は期待外れだと見切りを付け、防ぐために能力(ギフト)を発動させる。

男の行動が同じならば、私も同じ事をすればいい。

結果は変わらない。

鼓動の前に移動して全て弾く。

それで終わりだ。

そう結論づけて一歩を踏み出そうとして、


心の縛り手(ルートオブロック)】 


「っ!?」


右足が動かない事に漸く気がついた。














掛かった!!


視界の端で驚愕に目を剥く女を尻目に、餓鬼を抱えている男に走る。

女は分かりやすく動揺を浮かべながら己の右足を見ている、が、もう何をやっても無駄だ。


「俺の能力(ギフト)心の縛り手(ルートオブロック)】は黒い影で攻撃する能力じゃない。その真骨頂は()()()物の動きの全てを停止させるという凶悪な能力にある。生物は全身停止させる事は不可能だが、一部分であるならばご覧の通りに停止出来る!」


女は既に遥か後方だ。

ここ迄の戦闘でお前は(那月)接近しなければ攻撃が出来無い事は分かっている。

後は此奴(鼓動)から餓鬼を取り返すだけ-------------



「凄い。」


なのに、その声は直ぐ近くから聞こえて来た。

背筋に氷柱を突っ込まれた様な悪寒が走る。

視界の端にその姿が映る、先程迄何度も見た忌々しいあの女。


・・・嘘だろ!?お前は動けないはずだ。

なのに、なのに何故そこ(背後)にいる!?


「完全に貴方の術中に嵌まった。・・・・・でも、それじゃあ私には勝てない。」


緻密の故意(ラックパッセンジャー)


顎に途轍も無い衝撃が走る。

脳が揺さぶられ現状を理解出来ないまま、わずかばかりの浮遊感の後、激しく身体が地面に当たり、最後に壁にぶつかり漸く止まった事で殴られたのだと理解した。








危なかった。

男が壁にぶつかって完全に沈黙したのを確認し、一つ溜息をつく。

絡めた対象の全ての動きを停止させる。

成る程、初見殺しのとても強力な能力だ。

私でなかったら大抵の人は完封出来てしまうような、ある種反則と言っていい能力かも知れない。

だけど此処は【裏世界】異常で、非情な現実と能力が蔓延る魔の世界だ。

そんな能力に対応出来るような強者も多数存在する。


「それに私の能力(ギフト)との相性も悪かった。私の能力(ギフト)、【緻密の故意(ラックパッセンジャー)】は汎ゆる行動を()()()()にする能力。()()()を停止させようと、もう起こってしまった事は変えられない。」


ゆっくりと、相手に敬意を払うように能力を明かして行く。

それは相手に対する手放しの称賛であり、又それだけ相手を警戒しているという事。

【暗示強化】をするという事は能力を明かすリスク以上のメリットを己に与える。


「狙いも良い。能力も強かった。貴方の敗因は敵が私、夕暮那月(ゆぐれなつき)だった事。唯それだけ。」



もう聞こえていないだろうけど。


男が立ち上がってこない事を確認して、背後に振り返る。

そうして目に映るのは、少し唖然とした鼓動(こどう)の姿。


「・・・・・那月、さん?」


又色々と教えなければいけない。

彼はまだこの世界の事を全然知らない。

それではこの世界で長く生きてはいけない。

それに少女という厄介事も抱え込み、表の世界には帰れないと来た物だ。

取り敢えず今は帰るのを優先して場を離れよう。


慌てた様に遠くから走って来る、亜久路隆二(あぐろりゅうじ)を視界に那月はそう決めた。



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