11話
裏世界、夕刻。
今日も今日とて始まる厄介事の時間に備え、裏世界の住民達が室内に引き籠もる。
そんな危険な時間帯に響く大声に、何時ものが始まったと理解した頃。
「嵌められたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」
そんな危険な時間帯に大声を出していた馬鹿は、柚田澄春からの鉄拳制裁で倒れていた。
「五月蝿いっス!!」
「オブっ!?」
顎に諸に入った鈍痛からのた打ち回り、挙句の果てにビルに頭をぶつけ停止する。
「アハハ、ドッキリ大成功〜!!良い反応だよシーズン君、ここまで黙ってたかいが有ったね。」
「何を呑気な!?というか、ヤッタな?またしてもヤッタな!?」
「御免御免、シーズン君の反応が面白くってつい。」
ナハハ、と悪びれる様子も無い亜久路は、鼓動に軽い謝罪をしてから澄春にも感想を聞く。
「柚田ちゃんも面白かったよね?」
「大の大人がみっともないと思いましたっス。」
言葉の刃が胸に刺さり再び崩れ落ちる鼓動に、二人はヤッベやり過ぎた、と慌ててフォローを入れて歩き出させる。
然し少ししてから又もや愚図りだす。
「俺、帰ります。」
「ええ?もうここまで来たのに?半分以上行ってるし後戻りする方が時間かかるよ?」
「そうっスよシーズン先輩。進むも地獄、戻るも地獄なら当たって砕け散るっス。」
「死にたくは無いがっ!?」
更にごね始めた鼓動を置いて、亜久路と澄春が目を合わせる。
(どうするんスか?先輩ごね始めたっスよ?ぶっちゃけもう相手するのも面倒くさいっス。)
(まぁまぁ、彼は凄い軟弱者だからねぇ。どうしよっかぁ・・・・・あ。)
逃げ腰で今にも引き返しそうな鼓動を横目に考える。
何か鼓動の逃げられない様な理由が無いものか?と言ってもここにいるのは僕と柚田ちゃんだけだしなぁ。
と考えが及んだ所で澄春に目を向ける。
本人は何の事だか分からず首を傾げているが、彼女なら話を合わせてくれるだろう。
「そうか、シーズン君はこんな夜道に女の子を置いて逃げるつもりなのかぁ。」
「・・・へ?」
突然言われた言葉に呆けた様な顔をする鼓動に、内心ニヤリと笑いそうになるのを堪えて残念そうに続きを言う。
「シーズン君、そっか〜。君はそんな奴だったか〜。」
「え、いや、ちょっ・・・」
「・・・そうっスか。シーズン先輩はこんなか弱い乙女を置いて自分だけ安全な所に逃げるつもりなんスね?そんな、自分は先輩の事を信じていたのに・・・・・見捨てるん、スね?」
「う、ぐぐっ、」
亜久路の話に澄春が上手いくらいに話を合わせ、駄目押しとばかりに上目遣いで目を潤ませる。
話し始めた時は怪訝そうな顔をしていたが直ぐに亜久路の意図を察して後ろでニヤリと笑っていた。
誰に似たのか、それとも元々か・・・・・いやきっと志球磨だな。
(あ~シーズン君面白い位に引っ掛かってるな〜。違うよ〜その子は俯いた顔の下で満面の笑みを浮かべてるよ、きっと。)
「わ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば!!」
「グスッグスッ・・・・・本当っスか?・・・・・じゃ、行きましょうっス!!」
「あれ!?」
滅茶滅茶元気じゃん!?という鼓動の言葉を無視して前に進む。
何か言っている鼓動の事は努めて無視して、目的の場所へ。
だが先程も澄春が行った通りに今は裏世界において非常に危険な時間帯。
そう、既に【狂乱】の幕は上がっているのだ。
「おいおい、この時間にお散歩ですか?行けないなぁ、」
突然路地から飛び出した男が澄春に向けてナイフを振り被る。
「!?澄春さん!?」
その出来事に驚いたのも束の間、鼓動は澄春に手を伸ばす。
亜久路は静観、澄春は軽く目を見開き男の方に目を向けた処。
クソッ、このままじゃ間に合わない!何とかあの能力を−−−−−−−−−−
カチリという何度か聞いた音が脳内に響き、昼間の様にパラパラと風景がコマ送りの様に、な、る?
「貰い!!」
「ん、・・・ヨイショっス。」
「ごプッ!?」
男のナイフを軽々と避け、綺麗な裏拳が顔面に炸裂する。
その際に男が叩き付けられた壁に小さなクレーターが出来た。
「乙女の柔肌に傷をつけようなんて、ふてぇ輩っスね。自分はそんなに安い美少女じゃ無いっスよ。」
一撃で伸された男には既に意識は無いようで、うめき声を上げながら地面に転がっている。
軽々と大の大人一人を伸したにも関わらず、澄春に動揺は見られない。
亜久路はその手際の良さに口笛を吹き、鼓動は啞然と固まる。
「お、乙女・・・?」
「その上美少女っス。」
「アッ、ハイ。」
「・・・今日も五月蝿い。」
目深に被ったフードを更に下に引っ張り、抱えていた膝に顔を埋める。
外から聞こえる雑音から察するに、もう【狂乱】は始まったらしい。
「毎日毎日、良く懲りずに続ける。【アーク】も【空欄】も【番犬】も、この進まない世界の事は分かりきっているのに、くだらない。」
停滞したこの世界は心地良い、そう感じている者は一定数存在する。
今この瞬間も止まった世界の時計を動かそうと前に進む者もいるが、何もこの世界に招かれた人が全員前を向ける訳ではないのだ。
現実と切り離されたこの空間を求めている者も多い、そういった人達には只々煩わしいだけのこの時間。
私もその一人、只々自由に面白可笑しく生きてられれば良いと考えている。
今迄はそれで良かった、でも−−−−−−−−−−
「目を、つけられた。」
先日の正午、【アーク】の隊員、それもかなりの実力者と思われる能力者と戦闘になった。
別段勝敗がついた訳ではないが、私も意地になって最後に置き土産を置いてきた。
十中八九何かしらちょっかいを掛けるはず。
そこまで考えて溜息を吐く。
全く、全て面倒くさい。
私は唯自由でいられれば良いのに・・・・・・
「でも、そうも行ってはいられないか。」
最近其々の能力者勧誘が激化してきている。
どちらにしろ、時間の問題であった側面はある。
体育座りの体制から立ち上がり、身を潜めている無人のビルから外を見下ろした。
暗闇にポツポツと光が瞬き、出来損ないの様な夜景を創り上げている。
「私も覚悟を決めなければならない。」
そう決意をして少女は窓から飛び出す。
あらゆる柵から飛び立つ鴉の様に、何者にも縛られず、あくまで自分の意志を通せる様に、
何時だって、何事にだって、言い訳をしない様に。
「意思なき行動は意義ある行動には繋がらない。」
自分を変えぬ為に。
己の価値は自分で決める。
「うおおおおおおおお!?掠った、ナイフが掠ったぁぁ!!??」
ゾロゾロと周りを人垣が覆い、何人もの能力者が遅いかかる。
それを亜久路は冷静に受け流し、澄春は殴り倒し、鼓動は逃げ惑う。
約1名みっともない姿を見せているが、其々の攻撃を捌きながら人垣を突破する。
「シーズン君、能力、能力!使えるようになったんだから使わないと!」
「能力を使える様になっても、戦いなんて無理ですよっ!?俺一般人なんですよ!?」
「能力使える時点で一般人ではないでしょうが。」
「そうっス、シーズン先輩ももうこっちの住民っス。」
「「ようこそ同士よ!!!」」
声を合わせてそう言ってからハイタッチしだした二人に、嬉しく無い!!と言い返しながら何処とも知れない道を走る。
後ろから大勢の怒号と足音が近づいてくるのを聞きながら走っていると前方に路地の角が見えてくる。
こんな時にもふざけ合う二人に後でお灸を据える事を固く近い、角を曲がる。
「・・・・・え!?な、何だここ!?」
「此れは・・・・・?」
「何スか、これ?」
気づけば周りに二人の姿は無く、仲間達と分断されたのだと理解する。
あたりには鼓動一人の姿しかなく、先程まで追われていた団体もいない。
カポーンという澄んだ音と木々のせせらぎ、古き良き日本家屋が建ち並ぶ。
「日本庭園?」
「図書館?」
「桜道っスか?」




