校内放送
「こんにちは、生徒会長の中畑です。今回、皆さんにお願いがあってお昼の校内放送をしています。
先生と生徒会で話し合ったのですが、このままだと生徒会の人数が全然足りないらしいのです。特にバレンタイン前後は十人くらい必要みたいで、バレンタイン前後の手伝いだけでもとても助かります。
具体的には、書記・会計・庶務希望者と、ほとんどイベントの時だけの手伝いが三名以上。なので、字を書くのが好きな人とか、物を片付けるのが好きな人とか、ボランティア活動が好きな人とか。もちろんバレンタインが好きな人も大歓迎ですね。
バレンタイン当日に一時間早く行っても良いよとか、一時間遅く帰っても良いよとか、年に一度一時間だけ手伝える人でも構いません。かなり先のことなんでキャンセルしても大丈夫です。
興味が少しでもあれば一度生徒会室に来てみて下さい。無理矢理押し付けようなんて人は一人もいないので遊びに来るつもりでどうぞ。意見箱に書いて質問しても――」
「やること終えたし、もう今日は良いですかね?」
校内放送をしてから数日後の生徒会室、あくびをしながら中畑が柏木に聞いた。
「そうですね。今日はもう希望者は来ないと思いますし」
「しかしあれから増えたね、臨時のお手伝い含めて男子四人女子十四人って多すぎない? よくこんなに増えてくれたよね」
「校内放送で気楽に来るように言ったから、みんな安心したんですよ」
「ありがたいけど女子の役員ばかり増えたから、覚えるのが大変だよ」
プリントされた名簿を見ながら中畑は頭を痛める。
「バレンタインのことがあるから男子は言い出しにくいのかもしれないですね。大っぴらにバレンタインの手伝いなんて恥ずかしいというか」
「今度アンケートしてみようか。例えば――
バレンタイン好きですか? 恥ずかしいですか? 学校でやりたいですか?」
「良いですね」
「けどさあ、俺がバレンタインをやりたいことを知っていながら後から参加してくれた人達はともかく、柏木さん達には悪いことをしたよね。タイミング的に誰が生徒会長になるか分からなかったわけで、バレンタインが嫌な人もいるんじゃないのかな。内心どうなんだろ」
「状況が状況だからか、先生が念のため聞いてましたけど、いませんでしたよ」
「まあ聞いてるか。良かった」
「男子は『ちょっと恥ずかしい』とは言ってました」
「確かに俺もちょっと恥ずかしい」
「中畑さんのバレンタイン発言は、客観的にはかなり恥ずかしかったと思いますよ」
「主観だと?」
「私は立派だと思いましたけど」
「俺もそう思うから別に恥ずかしくても良いや」
ちょうどペットボトルのお茶を飲もうとしていた柏木は、吹き出してしまった。