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二人のエピローグ・生徒会引継

「生徒会として二人で話すのも、今日で最後だね」

 バレンタインから数ヵ月が過ぎ、再び生徒会室。中畑は、柏木の仕事が終わるのを待っていた。今は、生徒会長の椅子に柏木が座っている。


「本当に色々、頑張りましたよね、中畑さん」

 と、優しく微笑んだ。


「まだ下の名前で呼んでくれないの?」

 と、少し甘えようとする中畑。


「学校じゃダメです。まだ私が生徒会なんだから」


「手を繋いで帰るのも?」


「カップルってバレたらやりにくいし」


「それで、当然キスも?」


「生徒会がキスなんてしたら停学ものだし」


「家とかだけにすればバレないと思うんだけどなあ」


「中畑さん、もし先生に付き合っていることを怪しまれて呼ばれて、キスしたか聞かれたら嘘をつき通せないでしょ? そういう時に苦しくなる人でしょ。私もそんなの嫌だし」

 作業を中断して、柏木が言った。


「そうだけど……。生徒会の人達って真面目だよなー、だから嫌がられるんだよ」

 と、中畑が茶化した。


「普通は真面目な人が生徒会に入るんです! 前回の生徒会長が変だったんだから」

 と負けずに反撃する柏木。


「卒業までこのままなの?」


「ごめんね。中畑さんも好きだけど、生徒会もどうしても後ろめたい気持ちなしでやりたいから」


「その気持ちはすごく分かるんだけどさ。俺、我慢出来るかなあ」


「嫌いになっても仕方ないことだと思うから、嫌いになったら遠慮しないで言って下さい」

 柏木はさびしそうに言った。


「いや、違うんだよ。『私は生徒会長になりたくて、生徒会長になったらすごく我慢させちゃうけど、それでも良ければお願いします』って、付き合う時に柏木さんに言われたことだし、嫌いになったりしないよ。

 ちょっと今日は、ちょうど生徒会の引き継ぎだから、まだその辺ダメなんだよねって確認するつもりで、それが愚痴になっちゃってただけだよ。今さら困らせるつもりはなかったんだ。ごめん」

 中畑は、しまったと思い、慌てて謝罪した。


「ありがと。今度ウチで遊ぼうね」

 柏木は笑ってみせたが、中畑にはその笑顔が、どこかぎこちなく見えた。


「ダメだなあ、俺。意思が弱いし、今日みたいに柏木さんを傷付けてばかりだし。なんで変なこと言っちゃうんだろう、考えが足りてないよね。どうしたら柏木さんみたいに優しくなれるのかなあ」


「中畑さんの方が意思が強いし、優しいですよ?」


「どうして?」


「だって普通、好きな人が泣いてたからって翌年はバレンタインをやろうだなんて、思い付かないですよ。思い付いても、選挙が始まるまでの間にやる気がなくなって止めちゃうだろうし。意思が強くて優しいからやれたんですよ」


「うーん……なんかなあ、あれはなあ。あれだけだからな。柏木さんはなんでもない時にもやれてるっていうか、嫌なこととかもきっちりやるじゃんか」

 中畑は、納得しきれなかった。


「中畑さんみたいな、俺はこれがやりたいからやるって人の方が、私は魅力的だと思います」


「そのやりたいことが、特にないんだよなあ」


「好きなこととか興味があることとか」


「今はとにかく、柏木さんのカラダだなあ」

 即答だった。


「そういうの以外で」


「ないなあ。太ももがたまらないんだよなあ」


「もう少し考えるふりくらいしましょうよ」


「うーん、そうですねえ……。――柏木さんって、大学行きます?」


「はい、行く予定ですけど」

 柏木は答えながら身構えた。中畑が、さっきまでとは違う真剣な目で自分を見たからだ。


「よく『未成年者の飲酒喫煙は法律で禁止されています』って書いてありますよね」


「はい」


「あまり知らないんですけど、お酒もタバコも、大学生でも成人はオーケーなんですか?」


「はい、多分。私も、興味がないから調べたことはないですけど、漫画とかで飲み会やってますよね」


「結婚や出産も可能?」


「はい」


「……柏木さん、大学どこでも良い?」


「まあ、まだ志望校とかはありませんけど」


「じゃあ柏木さん、俺と同じ大学に入ってくれる?」


「えっと、入れたら入りたいと思ってますけど」


「柏木さん、俺はさ、夢みたいな目標がないとどうしても頑張れないんだよ。情けない言い訳だけど、集中出来ないんだよね。

 最近、生徒会長になる前の、くだらない自分に戻ってる感じがして。別に柏木さんと付き合ってなかったら気にならないんだろうけど、柏木さんがあまりにも輝いて見えるから、なんだか焦る気持ちもあるんだ」

 中畑は、目線を落とした。

「だから、卑怯だけど、柏木さんの優しさにつけこませてもらう。軽蔑されるかもしれないけど、柏木さんのカラダを目標にしたい」


「はい」


「柏木さんには、やっぱり俺と同じ大学に入ってもらう」


「はい」


「絶対に入ってもらう」


「絶対ですか?」


「すごく勝手なんだけど、俺の大学に落ちたら、ペナルティとして四年間、四つの内三つの約束を守ってもらう。これは非常に束縛したい気持ちが強いもので、人として耐え難いことだから、柏木さんはそれがすごく嫌で、勉強をする」


「えっと、そんなに厳しいペナルティなんですか?」


「一つは、俺と別れるまでは、俺以外と酒を飲まない。

 一つは、俺と別れるまでは、タバコを吸わない。

 一つは、俺と別れるまでは、他の人と付き合わない。

 一つは、俺と別れるまでは、妊娠したら結婚してもらう」


「なんか、ややこしくてよく分からないですけど、そんなに厳しくないですよね?

 私、タバコは絶対に吸いたくないし、中畑さん以外とのお酒も興味ないですよ。浮気もしないですよ。あと一つはなんでしたっけ?」


「四つ目は、もちろん避妊はするけど、もし子供が出来たら俺と結婚しなくちゃならない」


「それも、もし()()()()()()()()()()()()って思ってますけど」


「そうだとしても、俺からすると柏木さんのカラダの大切さが変わってくる。

 俺は今後、柏木さんのカラダを目標に勉強したい。だから、俺のワガママに付き合ってほしい」


「分かりました。でも私、わりと負けず嫌いだから多分受かっちゃいますよ」


「受かっても良いよ」


「受かったら何かしてくれます?」


「なんでもするよ、受かってくれるのが一番良いんだ」


「じゃあ約束ですね。それと、中畑さんもこれから四つの内三つ守って下さい」


「俺は妊娠出来ないから楽だな」


「違います! 別の約束です」


「ああそっか」


「全くもう」

 と笑った柏木は、気を取り直して

「実は私もですね、中畑さんにしてほしくないこと色々考えちゃってて。私ってものすごく束縛強いのかなー、ってちょうど悩んでたんですよ。だからこの際、言っちゃいます。ちょっと嫌われるかもしれないけど」


「うん」


「一つ。お酒とタバコは、成人してから。健康を損ねない程度に。

 一つ。浮気をしたら必ず言う。他の大事なことも、隠さない。

 一つ。勉強も、それ以外も、頑張り過ぎない、だらけ過ぎない。

 一つ。もし私と別れたくなったら、最後に一日中デートをする」


「なんか、俺の四つに比べて簡単過ぎるような」


「そんなことないですよ」


「えー、どうも人としての器の違いを感じるんだけど。俺、酒もタバコも興味ないぞ。だらけ過ぎないってのは難しいけど」


「四つ目が特に難しいですよ」


「別れたくなったら一日デート?」


「デートでたくさん大好きってアピールして、エッチなこともたっぷりして、別れたくなくしちゃいますから。だから、きっと別れられないですよ? それでも別れたいって言ったら、許してあげます」

 柏木は、挑発的に笑ってみせた。


「今、すごく抱きしめたいんだけど」


「学校だし、ダメです。残念ながら」


「分かってる」


「私も、すごくつらいです。中畑さんに飛び付きたいって思いますけど。中畑さんと同じくらい、私も不器用な所があって。それをやっちゃうと良い生徒会長になれる気がしないんです」


「うん、その方が良いと思う。俺、今日から違う気持ちで我慢してみるよ。とりあえず、嫌だけど勉強してみる。その内、何か目標が思い浮かぶかもしれないし」


「そうですね」


「毎日、生徒会室の(すみ)っこで勉強しちゃおうかな」


「それ、みんな喜びますよ」


「そうかな。邪魔なような」


「新生徒会メンバー、みんなバレンタインの企画が大好きで入った人達と残った人達だから、励みになりますよ」


「部外者だし、先生に怒られないかな?」


「中畑さんが生徒会長の時にしてきたことに比べたら、小さなことですよ」


「それもそうか」

 二人は苦笑した。まだ当分、生徒会室にお世話になるかもしれないな、と中畑は思った。

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