校門と教室・バレンタインの朝
「おはようございます」
「おはようございます」
校門に生徒会と有志の生徒、多くの先生が並んでいる。普段の朝は眠そうにしている中畑も、今日は元気に挨拶をしていた。
なにしろ、ついにバレンタイン当日だ。普段はのんきな中畑も、さすがに気楽にあくびをしているわけにはいかなかった。
「おはようございまーす! これ、朝すぐ渡すのでチェックだけ願いします」
「はい、ありがとうございます。写真を撮らせてもらいますね。その間に、ここにクラスと名前とチョコの数をお願いします。頑張って下さい」
「頑張ります。まあ好きな人がいる人に渡すんで、絶対振られちゃうんですけどね。せっかくなので伝えてみます」
女子は、生徒会が思っていたよりはるかに協力的で明るかった。多くの女子が楽しそうに、また恥ずかしそうに話し、企画に肯定的な態度だった。
逆に、男子には今日の校門は居心地が悪い。目立つ場所に『千個バレンタイン』のパネルが設置されていて次々に個数が更新されていくので、周辺に女子が立ち止まりたむろしがちだ。ほとんどの男子が早足で立ち去っていく。
「あの、これ」
中畑に、見知らぬ女子生徒がチョコレートを差し出した。
「あ、はい。相手にすぐ渡す予定ですか? それともお預かりですか?」
そう言って中畑がデジタルカメラを構えると、女子生徒は慌てて、
「あっ、違くてっ! これ会長に。義理チョコですけど」
「僕にですか?」
「私は結局、好きな人って出来なかったんですけど、クラスのみんなとても喜んでました。だから友達に付き合って、私もチョコを作ってみました。良かったらですけど」
女子生徒は、照れながら言った。
「ありがとうございます。手作りなんてすごく嬉しいです」
「これくらいしか出来ないけど、頑張って下さい」
「はい」
その人が去った後、生徒会の人達に中畑がからかわれたのは言うまでもない。
それからも、中畑へのチョコレートは続いた。
「えっと、こっちが預かってほしいやつで、こっちは会長さんに」
「これ、ウチのクラスの女子から生徒会の皆さんへ」
バレンタイン開催への感謝と『千個バレンタイン』達成への後押しとして、生徒会へ義理チョコを渡すことを一部の女子が考えた。結果、中畑が校門でもらったチョコレートは数十個になった。
失敗した時には、『千個バレンタイン』の数をチョコチップでかさ増しするジョークで誤魔化す予定になっていたが、幸い無事に千個を達成出来たのであった。
千個達成時にみんなからコメントをせがまれた中畑の言葉は、
「いや、さすが毎年義理チョコを渡しているだけはありますね。女子がこんなに義理堅いとは思ってませんでしたよ」
登校時間が終わって中畑がクラスに行くと、先生からもらった紙袋に満タンに詰められたチョコレートを見た級友が、
「お前上手いこと考えたな。これが狙いだったのか」
と中畑をからかって、周りが笑った。
「ちょっと気持ち悪いだろうけど、俺のもやるよ。俺のだけ捨てたりとか、するなよな」
その級友がそう言いながら、はにかんでチョコレートを中畑に渡したので、また笑いが起きた。
「何笑ってんだ、これは義理だぞ! 好きな人に告白する前に振られちゃって、もったいないから中畑に渡しただけで……ちくしょうこいつらー!
おい中畑! 俺の今のこれ、ビターバレンタインに応募するぞ!」
トドメの一発が数人の笑いのツボに入ってしまい、教室にはしばらく笑い声が響いた。中畑は「ありがとう」を言いそびれてしまったが、こいつはそんなこと許してくれるだろうと思って、失恋したばかりの友人の肩を優しく叩いた。




