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ポスター作成

「柏木さんって、美術の授業とかどうだっけ?」

 柏木が生徒会室に入ってくるなり、中畑は聞いた。


「だから私、クラスで一番絵が下手なんですって。文化祭のポスターとパンフレットを美術部に任せる時に言ったじゃないですか」


「ああ、『俺も一番下手だ』ってなって、なんか一気にやりたくなくなったんだよな」


「体育祭の時なんて、中畑さんが体育祭が好きじゃないから『また美術部で良いよね』って流れでしたよ」


「いや、俺の本番はバレンタインだからさあ。心が入ってない手抜きのイラストなんてダメでしょ。この学校はそもそも基本的に美術部がそこら辺全部やるみたいだし」


「まあ、それはそうですけど」


 柏木はそう言いながら、猫舌の中畑のために少し温いホットココアを作って差し出した。中畑はそれを飲みながら、

「じゃあ柏木さん、絵は下手でもデザインセンスはあったりとかしますか?」


「それもないですね」


「俺は十年間で一番悪いらしいんだよね。中学の先生に言われた」


「本当ですか?」


「中学三年の美術の授業で、『多分これ、ずっと前に卒業した誰かの作品だと思うんですが、こういうのはダメですね』って、中学一年の時の俺の夏休みの宿題のポスター使われて。ダメさで十五分くらい授業されたんだよね。

 配置や配色やバランスがめちゃくちゃ悪い例だったらしくて、なんか色々と説明してたけど、どういうことなのか全然分からなかったなあ」


「それすごいショックじゃないですか?」


「ショックだったなあ。あと、中学二年の音楽の授業で、音程に気を付けましょうって言われたんだけど、その時も分からなくてショックだったなあ」


「そんなにハッキリ言うんですか?」


「まあ、俺が音程って言うものを全く理解してないからそう言うしかなかったんじゃないの?」


「そうかもしれないですけど……ちょっとひどくないですか?」


「柏木さんは音程って分かります?」


「絵よりは得意ですよ。ドーレーミーってやつです」


「ドーレーミー」


「出来るじゃないですか。ソーミーレードーレーミーレー」


「ソーミーレードーレーミーレー」


「大丈夫ですよ、今度カラオケいきましょうよ」


「えー?」


「いきましょうよー」

 柏木は、これは押せばいけるぞと攻め立てた。中畑は本当に嫌なことはもっと露骨に嫌がるタイプだと、もう分かっているのだ。


「うーん……その話はバレンタインが落ち着いてからかな」


「そういえば、何でこんな話になったんでしたっけ?」


 柏木にそう聞かれて、

「そうそう、バレンタインのポスターがあると良いかなと思ったんだけど」

 と、中畑はようやく本題に入った。


「ポスターですか?」


「遠くから見ると『生徒バレンタイン! 千個バレンタイン!!』って書いてあって、チョコの箱のイラストがあるだけなんだけど、よく見るとホワイトチョコレートの板の上に、チョコチップやチョコスプレーを散りばめて作られた文字と背景。……っていう実写ポスターを考えたんだけど」


「インパクトありそうじゃないですか!」


「けどなんか、素人がやると見た目が気持ち悪くなりそうだから『チョコチップ イラスト』とか『チョコチップ 絵』とかで検索してみたんだよ。そしたらチョコチップクッキーのイラストばかり出てきて。

 検索の仕方が悪いのかもしれないけどチョコチップで作った絵が見つからなかったんだよ」


「やった人が少ないってことなら、新鮮で良いんじゃないですか?」


「だから、柏木さんが美的センスがあればいけるかなあと思って、待ってたんだけど」


「私はないですね」


「カラフルな粒タイプのチョコレートを上手く使えばあんまり気持ち悪くならないと思うんだけど、どうかな?」


「大丈夫だと思いますけど、自信がないです」


 どうも本当に自信がなさそうだな、と思った中畑は、

「美術の先生と家庭科の先生に聞いた方が良いかなあ。あんまり人がやってないことって、問題があるからだったりするんだよな。専門家に聞いてからの方が無難かな」


「そうですね。聞いてみた方が」


「ただ、美術・音楽・家庭科・体育辺りはのきなみ中学で怒られてるから、なんだかあっち系の先生に苦手意識あるんだよなあ。聞きに行って、食べ物で遊ぶなとか怒られたら恐いな」


「なんか、聞いてる感じだと、中学の先生ずいぶん厳しいですよね」


「『お前は宇宙人か!』とか言われたからね。リトルグレイってクラスメイトに言われた話、話したっけ? あれ先生から始まりなんだよ」


「ひどいですね」


「その点、この学校の先生は変な生徒にもわりと優しいよね」


「サボったり悪いことをした人には厳しいですけど、頑張ってて出来ない人にはあんまり強く怒らないですよね」


「ああ、そんな感じだよね。高校の体育ではあんまり怒られてないよ。『もう少し体力付けないとダメだぞ』とかそういう言い方をしてくれる」


「そうですね、そういうところがあると思います」


「うーん、じゃあ頭ごなしには怒られないか。やっぱり聞きに行こうかなあ」


「なんなら、私一人で行きます?」


「いや、細かい説明とかがあるから俺も行くよ」


「中畑さん、最近すごく偉いですね」


「バレンタイン関係くらいはなあ、サボれないよ。ココア飲んだら行こうか」


「ポスター、成功すると良いですね」


「まあ失敗しても、生徒会の経費でチョコが食べられるわけだから、別に良いんだけど」


「もしかして、そのために作るんですか?」


「そうじゃないよ。使い終わったら食べないともったいないからさ。仕方なく食べるんだよ」


「じゃあ、私も仕方なく食べてあげます」


「その時の飲み物はミルクティーが良いかな」


「紅茶にチョコレートを溶かしても美味しいらしいですよ」


「うわあ、ポスター早く作りたいなあ」


 あまりに嬉しそうに中畑がそう言ったので、柏木は

「早く食べたい、の間違いじゃないですか?」

 と、からかった。

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