バレンタイン企画
「この期間限定メニュー、かなり売れてるらしいですよ」
「俺もクラスの女子に言われたよ。美味しいし楽しいって」
「それに温かいですよこれ」
片方のカップにはコーンポタージュ、もう片方のカップにはホットチョコレート。そしてお皿にはパンの耳。少し値段がお得なセットメニューだ。中畑が学食を見回してみると、このメニューを頼んだ人達は、たしかに特に楽しそうに食事をしているように見えた。
「……けどこれ、頼んでるの女子同士ばっかりだな」
中畑が言う。
「私も、このメニュー頼んでる男子って中畑さんしか見たことないです」
「美味しいのになあ。ホットチョコレート飲んだことないのかな男子は。俺は子供の頃から大好きなんだけど」
「恥ずかしいんですよ、多分」
「生徒会新聞には男子同士でも気軽にって書いたけど、からかう人もいるからなあ。これは無理に期間限定にしない方が良かったな。バレンタイン付近の限定メニューだと、どうしてもバレンタインを意識して、男子同士や男女の友達が頼みにくいよな」
やり方を間違えたと中畑は感じた。
「人気はあるんで、普通のメニューにしたら残るんじゃないですかね」
「普通のメニューにするなら、ビーフシチューソースとかクリームシチューソースとか、色々選べるようになったら楽しくないか? バレンタイン感もなくなるし、男子込みでも頼みやすくなりそう」
「今日の生徒会はそれ考えてみましょうよ」
「七つの色から選べる楽しいセレクションってコンセプトで出来ないか、考えてみよう」
「ビーフシチューは絶対入れたいです、私」
柏木のその言葉に、中畑が、
「そうそう、入れたいで思い出した。さっき授業中に思ったんだけど、『千個バレンタイン』についてなんだけど、二月十四日だから、二百十四個目のチョコを持ち込んだ人も当たりにしようよ。いきなり千個目を目指すと遠すぎるし。このペースだと絶対に間に合わない、ってなった時のために他の目標が必要だと思う」
「それも良いですね。五百個目も当たりで良いかも」
「じゃあ七百七十七個目も当たりにすれば、バランス的にもちょうど良いか」
「そうですね」
「ただそうなると、当たったときのクラッカーとか、渡す景品とかどうしよう」
「また買い出しに行きますか?」
「えー!? 二月に入ってから急激にやることが増えてきたなあ」
「いざ間際になると、あれもやりたいしこれもやりたいって、増えちゃいましたね」
「ずっとバレンタインの企画を考えてきたつもりだったんだけど、見落としとかが多いしなあ。今日からしばらく、生徒会に来たい人は全員呼ぶか」
「私のクラスの人達も、募集プリント見て、手伝いたいって言ってくれました」
「なんかもう狭いよな生徒会室。あれって部屋が小さすぎるんじゃないの?」
「普通、あんなに中に人が集まらないですからね」
「すごく助かるけど、知らない人がたくさんいると緊張するんだよなあ」
「立候補の演説の時も、緊張しました?」
柏木はふと気になって、聞いてみた。
「あれは、なんだかあんまり緊張しなかったなあ。これを聞いても生徒の大半が何も思わないならもう知らん、俺は一人でもバレンタイン委員会をやるぞ、って思っていたし。
演説前一週間くらいは、バレンタインの怒りが再燃してたっていうのかな。学校・教師・生徒に対してふてくされてたから。半分やぶれかぶれな気分で、恥ずかしさとかがあまりなかった。笑いたければ笑えと思って」
中畑は、当時の気持ちを思い出して言った。
「でも、すごい行動力だと思います。本当に」
「俺は誰かにやってもらうのが好きなんだけどね。バレンタインについてはどうやら誰もテコ入れしようとしないみたいだったので、俺が仕方なくやることになってしまった。
だから、柏木さんに『いっしょに机をどかして下さい』とか指示されている時は、何も考えなくて良いから本当に楽だよ」
「じゃあ今日も遠慮なく指示しますね」
「ありがとうございます」
「――い、いや違いますよ! つい普通に言っちゃったけど、今日は庶務の人達まで全員来てくれるんだから、そんなの会長の仕事じゃないですよ。会長も、『ありがとうございます』って流さないで下さいよもう」
柏木は慌てて言った。
「そっか、雑用出来ないんだなあ、今日」
「そうですよ」
「じゃあ、今日の生徒会ではアイディア三つ考えることを目指すかなあ」
「すごいことを簡単に言いますね」
「みんなの前で頑張ってるふりをするためならアイディアを三つ考えるくらい楽だよ」
と、中畑は言い、一気にホットチョコレートを飲み干した。
「全然ふりになってないと思うんですけど」
柏木はそう言いながら、中畑の口元のチョコレートをティッシュで拭って、それからすぐに、自分達が食堂にいることを思い出した。柏木は顔が真っ赤になって、知り合いに目撃されていませんようにと祈った。




