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相談会

 外側から生徒会室のドアがノックされ、中畑が扉に向かって声を掛ける。

「はいこんにちは、相談の予約をしていた方ですか? 会長と副会長両方の意見を聞きたい、という」


「はい、そうです。もう入っても良いですか?」

 女子の声が返ってくる。


「はいどうぞ、時間通りですから。あらかじめ二人だけにして、仕切ってあるので大丈夫ですよ。僕ら含めて誰にも顔も名前も分かりません。鍵は空けてあるので入って来て下さい」


「失礼します」


 小声で、控えめそうな印象の声だと中畑は思った。

「他の人が入って来ないように、鍵は閉めておいて下さいね」


「はい。閉めました」


「そこに椅子があると思うので座って下さい。お茶と水は、のどが渇いたら飲んで下さい。僕らも飲ませてもらいます」


「ありがとうございます」


「僕と副会長が二人で同時に話すんじゃなく、先に主に僕が思ったことを言うって形で良いですか? 僕らが互いの話を聞きながら相談するよりも、その方が違う意見が出やすいと思ったんですけど」


「はい、よろしくお願いします」


「えーっと、生徒会に送ってもらったメールには委員会の話とかも書かれてありましたけど、重点は『好きな人がいるんだけれどチョコレートを渡す勇気が出ない』という部分で良いんですかね」


「はい。それで、男性の意見も聞きたいところがあってお二人にお願いしました」


「なるほど。それで……クラスで悪口を言われていると?」


「私はクラスで男子に不細工ってバカにされてるみたいで。なるべく二人きりの時に渡すつもりですけど、それでもチョコを渡すと相手に迷惑がかかることがありますか?」


「それなんですけど、僕らで今、ちょっとまだ客観的な情報が少なすぎると話してたんですよ。ええっと、言いたくないことは言わないで大丈夫なので、あなたに質問してみても良いですか?」


「はい」


「あなたが小学生中学生の時も、不細工とか言われていましたか?」


「いえ、少なくともはっきりとは言われていませんでした」


「逆にかわいいと言われたことはありますか?」


「男子はなかったです。女子なら髪切った時とかにお互い。あとは、田舎のおじさんとかがお世辞で言うくらいで」


「高校生になってからも、クラスの女子とは仲良く出来ていますか?」


「はい、すごく優しくしてもらっているというか」


「そうですか……えーっと、ちょっと待って下さいね」

 中畑は、メモしたことを見ながら考えて、

「相談者さんは僕の顔って分かりますか?」


「はい」


「あのですね、もちろん女性と男性では深刻さが全く違うとは思いますが、今聞いたことって僕にも少し当てはまるんですよ。

 僕も格好良いと言われたことなんてないし、中学の時に本屋で知らない大人の人に気持ち悪いって言われたし、クラスでもキモいだのリトルグレイだの、よく言われてました。

 それで相談者さんに質問なんですが、あなたの恋を叶えるためにとても重要な質問なので、絶対に遠慮しないで言って下さいね。僕の顔ってすごく気持ち悪いと思いますか?」


「普通くらいだと……少なくともそこまでひどくないと思います」


「男子が百人いたら格好良い順で上から七十番目くらいですか?」


「もっと高いです、悪くて五十五位とか六十位とか」


「もし僕の隣を歩くことになったら嫌ですか?」


「全然気にならないです」


「副会長はどうですか? 僕の顔って気持ち悪くないですか?」


「私はわりと好きです」


「副会長も、僕の隣を歩いても平気と」


「もちろん」


「はい、二人ともありがとうございます……」

 中畑は、紅茶を一口飲み、

「では相談者さんは、副会長の顔を知ってますか?」


「はい」


「自分と比べてかわいいと思いますか?」


「はい」


「百人いたらどれくらいですかね?」


「五位とかいくと思います」


「じゃあ僕と副会長が歩いてて、顔面のレベルが違い過ぎるから副会長かわいそうだなとか、思いますか?」


「そんなこと思わないです」


「そうですよね、はい。多分あなたの好きな人もそのタイプだと思うんですよ、委員会で向こうから話しかけてくることがあるってことは。まずこれが重要ですよね」

 中畑はそう言うと少し考え、

「すみません、あまり良い言い方が思い浮かばないんですが、この高校で、どう見ても自分が一番不細工だなって思いますか? それとも、私とあまり変わらないとか、私よりひどいかもって人も少しくらいはいますか?」


「少しだけいると思います」


「百人いたらあなたが上から八十五位とか九十位とか?」


「分からないですけど多分」


「あなたの好きな人は何位くらいですか?」


「あんまり格好良くはないと思います。七十五位とか」


「あなたのクラスの男子って、わりと全体が悪質ですか? ムードというか、かわいくない女子に対する見下し方というか」


「はい、不細工ランキングみたいなのとか、紙を全員に回して投票してて。私が一位みたいなんです」


「あー、はい……ありがとうございます」


「――どうなんでしょうか、私」


「えっとですね。僕が高校に入ってすごく驚いたのが、女子の容姿を裏で大っぴらに評価していることでした。だから評価があることは間違いないと思います」


「はい」


「これは例えばの話なんですが、学年で一番太っていて顔も性格も頭も非常に悪い男子とかでも『よくあんな顔の女と付き合うよな』って裏では言っています。でも、逆に言うと裏でしか評価しないということです。そんな奴らが女子の前で堂々と言おうものならかわいい女子にまで激怒されるかもしれないわけで、女子の前では絶対に言いません。投票してもそれが気付かれるような形にはなりません。陰湿なやつほど裏でしかやりたがりません。

 なのに、相談者さんのクラスの場合は多分そうじゃないんですよね。むしろ『バレても良いや』って感じで、わざと匂わせているように感じました」


「そうかもしれません」


「相談者さんのクラスは『みんながブスとして扱ってるやつをバカにするのが格好良い』みたいな空気になっていて、最初に票が入った人にそのまま票が集まった可能性がありますね。一枚の用紙を回して正の字を書いて投票する系の評価はあまり当てにならないです。投票箱タイプの投票と違って後の人が他に投票しにくくなりますから。

 相談者さんの自己評価の、自分が百人中八十五位で好きな人が七十五位という評価の方が、話を聞いていて信憑性を感じました。相談者さんのクラスがたまたま悪質だったので、どうしても自信を失ってしまっていると思いますが、自分が他の人と比べてものすごく圧倒的にかわいくないんだとは思わないで下さい。それが大事だと思います。

 今は落ち込んでいるから気になると思いますが、あなたが好きな人と付き合い出したら、クラスの男子の悪口も大して気にならなくなるかもしれないし、良い恋をすることで今より美しくなれるかもしれません」


「はい、分かります」


「顔は関係ないとは思いませんが、好きな人に笑顔を見せられなくなることの方が問題だと思います。バレンタインまでもうあまり期間がないですからね。絶対に告白するんだというつもりで、好きな人の前では元気一杯に。すごく難しいことだと思いますけど」


「いえ、私、やってみます」


「顔の話は一旦納得してもらえましたか?」


「はいもう、すごく」


「では残りの問題なんですけど、えー……」

 中畑はまたメモを見直した。

「なんというか、基本的に男子高校生なんて僕含めて悪意の固まりみたいなものですけど、たまにいるんですよ。『お前どうしてあんなブスと付き合ってるんだよ』って言う奴に、『おいおいそういうことを言うのは良くないぞ』って堂々と言えるすごい人が。

 そういう人は大体、顔も格好良くて性格も良いんですよね。裏表もないんですよ。本当に良い男子は男子だけでいる時も良い男子で、屈折した男子以外にはほとんど好かれてるんです。しかも、文化祭の出し物がじゃがバタって決まった瞬間に『じゃあ俺のおじいちゃんが北海道で畑やってるから送ってもらうよ』って言って、実際に無料で段ボール箱ドバーってじゃがいも送られてきて。男女関係なく人としてめちゃくちゃ格好良いですよあんなの」


「あれ私、食べました。すごく美味しかったです。私も二回食べたし、友達なんか三回食べに行きました」

 相談者は、初めて明るい声を出した。


「あ、じゃがバタ美味しかったですか! 安くて美味しく作れたのはそのせいなんですよね。もうみんなその人に感謝感謝でしたよ。

 ああいう人が生徒会長になるべきなんですよね本当は。僕はモテないからこういう恋愛相談でもなかなか役に立てないし」


「会長さん、話しやすいです」


「あっ、ありがとうございます。僕が勇気もらってちゃダメですね。えっと……なんでしたっけ?」

 中畑は何を説明しようとしていたか忘れて、柏木に助けを求めた。


「こういう良い人もいるんですよねって話を……」


 柏木の言葉で中畑は思い出して、

「――ああ、そうですね。まずその、裏表ですよね。今僕が言った人みたいな、良くないことは良くないとはっきり言うし相手の人柄を見て友達になるタイプなのか、逆に嫌いな人ともわりとうわべだけ付き合って裏ではその人の悪口に乗るタイプなのか。

 あなたが好きになった人はどんな人なのか。あなたとどういう関係なのか。クラスで普段どんな風に過ごしているのか。これが大事だと思います。裏表がない人なら渡してみるべきだと思いますよ」


「えっと、同じ委員会で、その人が二年の長で、私が一年の長なんですけど。連絡がよく回ってくるんです」


「僕、委員会よく分からないんですけど、学年の委員長同士の連絡がある分だけ連絡がたくさん回ってくるみたいな感じですか?」


「そうです」


「そうなってくると、相手がクラスでどんな雰囲気なのかはほとんど分からないということになりますか」


「そうですね」


「もしその人が、クラスで女子とよく話してたら分かりやすいんですけど、覚えてませんかね。あまりかわいくない女子にも自分から積極的に話している場合は、女子を顔で決めるタイプじゃなくて、他の男子の目も気にならないタイプです。そういう人は、かわいくない女の子と付き合っている所を見られてもさほど気にしない可能性が高いです」


「ちょっとそこまでは分からないですけど、連絡ついでに休み時間が終わるまで私と廊下で世間話してくれる時とかありました」


「それだと、あなたの好きな人は少なくとも、顔の良し悪しで極度に嫌がるタイプではなさそうですね。相談者さんが義理チョコとして渡せば、ほぼ受け取ってくれると思うんですけど……告白するつもりなんですよね?」


「告白したいんですけど、恐くてまだ迷ってます」


「迷いますよね。んー……。その先輩って次も同じ委員会になるつもりか分かります?」


「分からないです」


「だったらあなたが『私はまたこの委員会やりたいんですけど、先輩はどうするんですか?』って言ってみるとか。

 それで『俺もやりたい。いっしょにやろうよ』って感じの反応なら、先輩もあなたのことをかなり気に入ってるってことになるんじゃないですかね?」


「それ、聞いてみます!」

 相談者は今までで一番大きな声で答えた。


「メモとかする時は待ちますからね」


「はい。……もう大丈夫です」


「廊下の時みたいに、何か相手と会話が弾んだこととか、嬉しかったこととかありますか? それによってかなり話が変わってくるので」


「えっと、この前委員会の帰りでいっしょになって、駅まで行って。そこでコンビニに唐揚げあるじゃないですか。『俺これ大好きなんだよね』ってそれ買って、『レジ混んでて待たせちゃったから食べて良いよ』って言って、最初断ったんですけど、『唐揚げ嫌いだった?』って言われて、私もこれすごく好きですって言って、結局二つ唐揚げもらっちゃって。それが一番嬉しかったことです」

 相談者は、本当に嬉しそうに話した。


「僕なら嫌いな後輩にはおごったりしませんね。唐揚げ二つもくれるってすごいと思いますよ。唐揚げが好きって言ったって、わざわざ後輩といる時に買いませんよ。

 僕は嫌いな奴にはすごくケチだから、そんなに腹が減ってたら人と別れてから買ってバクバク食べますね。先輩は、あなたともっと話がしたくて別れを引き延ばすために唐揚げを買ったんじゃないですかね。委員会の付き合いでいっしょに帰っただけならわざわざそんなことする必要ないですよ」


「私もちょっと気になって。もしかしたら嫌われてはいないのかなって」


 言葉は控えめだが、相談者の声は自信を取り戻してきているように中畑には感じた。本当は相談者はそれなりに好きな人からの好意を感じてるのかもしれないと、中畑は思った。

「それはやっぱり告白してみるのがいいんじゃないですかね? もし告白して気まずくなっても、無視したり大きく態度を変えたりはしない人のように感じました。僕はそう思ったってだけなので、あなたがよく考えてから決めるべきですけど。

 ただ、委員会だけの関係で学年も違ったらそこまで仲良くなれないですよ普通」


「そうなんですかね。会長さんと副会長さんは、生徒会以外だとどんな感じなんですか。いっしょに帰って何か食べたりとかしますか?」


「僕と副会長の場合、会う回数が普通の委員会と全然違うと思うので、学年が違うのにすごく仲良くしてもらって、わりといっしょに帰ってますね。学校だと、学食いっしょに食べてもらったり。学食がない時にはお弁当作ってくれたりしました」


「ええー、すごく仲良いですね……私、嫌われてたらどうしようとか思っちゃって全然そんな風になれないです」


「いや、さっきも言いましたが会う回数が多いので仲良くなれたわけで、最初から今みたいにはなれてませんよ。よく怒らせてしまっていました。やっぱり、相談者さんと同じように、回数を重ねるにしたがって、ゆっくり仲良くなっていっただけです。だから僕も、副会長に嫌われてるかもってのはよく思ったし、今でも思い続けていますよ。もし嫌われてたらどうしようって気持ちは、やっぱりなくならないですよ」


「そんなに仲良くなってもですか?」


「どんなに仲良くなれてもそれはあると思います。この前なんて、『副会長に手錠をかけようとしてぶたれて逃げられる夢』を見ちゃいましたもん。なんか心が不安定なのかもしれませんね。それからなんだか毎日ビクビクしてますよ。だけどやっぱり、今の関係を信じるしかないですからね。

 相談者さんの場合も、昔の僕と多分同じような感じで、あとは勇気と笑顔だと思いますね。相談者さんの明るい声、すごく良いと思いましたよ。多分男子は好きだと思います。廊下や学食ですれ違った時になるべく自然に挨拶してみると良いかもしれませんね。それで立ち止まって世間話をしてくれるようなら挨拶してくれたのが嬉しいってことなので、もっと積極的にいくとか」


「はい、頑張ってみます」


「あとは、ちょっとリスキーですけど、二人で帰る機会がまたあったら、『私クラスの不細工ランキングで一位になっちゃって、先輩は私がどんな髪型に変えたら少しはましになると思いますか?』みたいな感じで好みのタイプを探るとか。うーん、相手も答えに困りそうだし言い方が難しいですね。ちょっとすぐに思い浮かばないんですが、不自然じゃない言い方が見付かれば」


「それも聞き方を考えてみます」


「なんだかイマイチ、上手い案がなあ……。僕がすぐに考え付いたことはこれくらいなんですけど、副会長どう思います?」


「いや、もう私が話すことないじゃないですか。私も告白して良いと思います。優しそうだし、ひどい断り方する人じゃないですよ、相手の人。頑張って下さい」


「ありがとうございました。相談して本当に良かったです」


「はい、また何か動きがあったらどうぞ。僕にとっても、すごくためになりました」




「ふう、かなり深刻な質問だったから疲れたね」

 中畑は、冷めた紅茶を一気飲みした。


「中畑さん、目の所にゴミ付いてますよ」


「どこ?」

中畑は自分のまぶたをこすった。


「危ないですよ。私が取るから目を閉じて下さい」

そう言われ、中畑は素直に目を閉じたのだが……。


()()()()

 柏木は、中畑の両腕に素早く手錠をかけた。


「え!? 何これ、外してよ。というか、生徒会室に手錠なんてあったのか?」


 中畑がうろたえるのを見た柏木は満足そうに笑い、

「この前、中畑さんが片付けサボってる時に見付けて、そのまま隠しておいたんですよ。早速、役に立ちました」

 と、してやったりといった顔で言った。

「中畑さん、夢で私に手錠をかけようとしたんですか?」


「え? いや、夢で手錠かけようとするくらい良いでしょ。未遂の未遂だよ、何もしてないもん。むしろ殴られてるんだから過剰防衛だったよ」

 少し後ろめたい気持ちがあった中畑は、あえて強気に反論した。


「そういうこと言う人は、手錠外してあげませんよ」


「ごめんなさい、外して下さい」


「外してほしいですか?」


「はい、もう現実でしか手錠かけませんから」

 と、ついついふざけたことを言う中畑。


「先に帰りますね私」


「冗談ですよ。今日も仲良く帰りましょうよ。お願いします」


「じゃあ、次また私の夢を見たら内容を教えて下さいね」


「分かりました。必ず言います」

 と一度は言ったが、中畑は気になって、

「ちなみに、もし夢で手錠をかけるのに成功してその後に変なことをしたとしても、言って良いんですか?」


「変な夢は見ないで下さい!」


「そんな無茶な」


「勝手に変な夢を見たら、美味しいものおごりです」


「ええー! なんでだよ、そんなのずるいよ、勝手に夢に出ておいてさ……」


「良いですね!」


「はい、分かりました」

 中畑には、もうそういうしかなかった。


「それじゃあ外してあげますかね」


 中畑は両腕を出しながら、

「へっ、チョロい女だぜ。これからたっぷり仕返しをしてやるとするか」

 と、その日に読んでた小説の中の台詞をふざけて引用した。


「会長が本当に反省するまで、ゆっくりと会長のカバンの変な小説でも読んでようっと」

 柏木は鍵をポケットにしまって、中畑のカバンをあさるふりをした。


「すみません読まないで下さい。反省しました。今度の日曜日に焼肉の学生食べ放題ランチに行きませんか? おごりますよ」


「なんか、嫌々言ってませんか?」


「柏木さんと休日もお会いしたくて。もっと柏木さんと遊びたいんですよ僕」


「やっと素直になれましたか?」


「はい」


「じゃあ、ワリカンで学生ランチに行きましょう」

 と言い、中畑の手錠の鍵を外そうとした柏木だったが、手を止めて、

「そうだ。中畑さんは私の顔、何位だと思いますか?」

 と、いたずらっぽく笑って聞いた。


「顔や見た目だけでの話だよね?」


「そうです」


「学校で一位だと思うけど」

 中畑は即座に言い放った。


「なんでですか!?」


「俺って背が低かったから、自分より背が低い人がすごく好きなんだよね。だからなのかな?」


「だってそんな、背が低い人なんてたくさんいるし。かわいいとか言ったことないじゃないですか」


「聞かれたことなかったから。すごくかわいいよ。おでことか、足とか。一番魅力的に見えるよ。ヘアピンをプレゼントしたいくらいだよ」


「からかってるでしょう!?」


「俺は柏木さんにそういう嘘は言ったことないよ。俺の中では絶対に一位だよ。そんなことをいきなり俺が言ったら気持ち悪いから、普段は言わないだけだよ」


「ううー、今日の中畑さん変ですよ」


「ほら、気持ち悪いでしょ?」


「気持ち悪くなんか、ないですけど」


「そうかなあ」


「心臓がもたないですよ。もし本心で言ってるなら、素直にさせすぎました……」

 もはやこれ以上耐えられなくなった柏木は、ついに降参して中畑の手錠の鍵を外した。




 翌日から、ヘアピンを勉強中に撫でる癖が付いてしまう柏木だった。

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