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下校指導週間

「疲れたなあ。もう大体の人が帰宅したんじゃないかな。そろそろ学校に戻る?」

 信号機の横に立っている中畑が、隣の柏木に聞いた。


「そうですね。あそこの人達が見えなくなったら終わりにしましょうか」


「俺、不思議に思うことがあるんだけど。先生達ってよく疲れないよね。朝は校門で挨拶するために立ってて、授業中もずっと立ってて、放課後も下校指導があればこうやって下校指導で立ちっぱなし、それから夜は盛り場の巡回もするわけでしょ?」


「そうですね。大変なお仕事ですよね」


「今だって俺達は二人で喋りながらやれるけど、先生って一人でずっと立ってるじゃん。生徒がたくさん帰ってる時間はまだ良いだろうけど、誰もいなくなったら何を考えてるんだろうか、暇だよね」


「私の中学は生徒も一人で立ってたから体感時間長かったですね」


「何それ!? 女子生徒一人で何か注意するって逆に危なくないか?

 普通男子を混ぜるもんじゃないのか。男子だけ固めるとサボるし女子だけだと危険だしって理由で」


「そもそも女子中学だったので」


「ああ、そっか。そういえばこの前聞きそびれたけど、女子中学なんてあったんだね?」


「ありますよ」


「知らなかったよ」


「だから高校に入った時に男子がすごく恐かったです。三年生とかもう大人の人じゃないですか」

 そう言いながら、柏木は唇を噛み締めて目を細めた。


「高校って自分で選んだの?」

 柏木がなんで共学に入ったのか、中畑は気になった。


「中高一貫校なら良かったんですけどそうじゃなくて。普通に高校受験するのがなんだか恐くて、単願推薦で面接だけでほぼ受かるここに。それでも心配で、合格通知までに結局たくさん勉強しちゃいましたけど」


「あっ、俺と同じじゃん。俺も受験勉強が嫌で単願推薦で入ったんだよ」


「ええっ!?」

 柏木は中畑が今まで見たことないくらい驚いて、

「中畑さん勉強出来たんですか!?」

 と思わず聞いた。


「別に勉強出来るつもりはないけどね。中学が普通程度の学校だったんでまともに授業聞いてるだけで上の方になれたってだけだよ」


「ちょっとー、私の中の中畑さんのイメージと違うじゃないですかー、生徒会長っぽいこと言って」


「どんなイメージだったんだよ」


「なんか……生徒会長っぽくないなあって最初にまず思いました」


「どういう意味だよ!」


「違うんです! 生徒会長が背が高い人になったら嫌だなあって思ってたので、良かったって意味です。

 中畑さんの演説がウケた時に『この人が生徒会長になってくれー』って祈ってましたよ。ただでさえ年上は恐いのに、背が高くて顔や動作が恐いともっと恐いですよ」


「高校の一年間は差があるよね。俺も高校でめちゃくちゃ背が伸びたからな」


「でも中畑さん、今でも私より少し高いくらいですよね。元はかなり低かったんですか?」


「中学ではクラスで一番背が低かったから。これくらいかな?」

 中畑は少ししゃがんで中腰になってみせた。


「えー、なにこれかわいいー」

 と言いながら柏木は中畑の頭を撫でていたが、急に真面目な顔になり、

「もう明日からこのサイズに縮んでくれませんか」

 と言った。


「出来るわけないだろ」


「今度、中学のアルバム見せて下さいよ」


「あんな重たいの、学校に持って行きたくないぞ」

 中畑はげんなりした。


「じゃあ家まで行きますよ」


「おいおい女子中学育ちは警戒心がないな。危ないぞ」


「恐くない人の見分けが付くようになりましたから」


「どうやって見分けるの?」


「これですこれ。腕章付けてる人は安全な人です」

 柏木は中畑の腕の腕章を軽く引っ張った。


「なんか基本的に俺しか付けてないよなこれ」


「私や他の人は球技大会とか長い仕事の時くらいですかね。その腕章、義務じゃないのに会長はずっと付けてますよね」


「俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だからね。実際、中学の時は歴代生徒会長の顔と名前、一切覚えられなかったよ。

 俺みたいになかなか覚えられない人の中には、これがないと、『この人が生徒会で合ってるのかな』って思う人がいると思うんだ。だからなるべくいつも付けてるんだよね。その方が覚えてもらえるし気軽に質問出来るでしょ。

 最初からバレンタインの苦情を言われるのも覚悟してて、こうしようって決めてたしね」


「そんな良い話を、なんで今まで言わなかったんですか!」

 柏木がまた興奮したので、中畑は、今日の柏木さんは元気だなと思った。

「生徒会四コマで使えますよ」

 嬉しそうに柏木は提案した。


「あっ、そうか」


「それで、腕章を見たら気軽に相談して下さいって四コマの横に書きましょうよ。この前の朝礼の時とかにも腕章のこと言えば良かったじゃないですか」


「そうだね、そうしよう。自然に始めたことだったから気付かなかったよ。いやー、早く柏木さんに話してれば良かったなあ」

 言われてみれば確かにそうだと、中畑は悔しがった。


「もっとなんでも言って下さいよ」


「柏木さんの中学のことといい、腕章のことといい、まだまだ話していないことがお互いにたくさんあるんだね」


「私は小さい会長が気に入っちゃいました」


「そんなもの気に入らないで良いから」

 頭を撫でられたことを思い出してしまい、中畑は気恥ずかしくなって、柏木の横顔をそっと見つめた。


「けど、勉強出来るって新情報はちょっとマイナスですかね」


「なんで生徒会長が勉強出来てマイナスになるんだよ」

 と、中畑は一応文句を言ったが顔は笑っている。


「なんというか、予想外過ぎてまだ納得がいかないというか……。あっ、じゃあ今度ウチ来て勉強を教えて下さいよ!

 お母さんに『生徒会長さんと仲良くやれてるの?』って聞かれてたんですけど、勉強出来るって知らなかったから呼んじゃまずいと思って、呼んでなかったんですよ。説明するの大変だったんですから」


「なんて説明してたの?」


「バレンタインがやりたくて生徒会長になった人って言って、演説の動画を見せました」


「それ、会う時に気まずいじゃん」


「『楽しそうで素敵な人じゃない。一度遊びに来てもらったら』って言ってましたよ」


「『遊び』のイメージが絶対違うよー」


「ちゃんと、普段はちょっとやる気がない人って言ってるから大丈夫ですよ」


「本当? だらけてても怒られない?」


「『そのくらいの方が人間らしくて良いじゃない』って言ってます。お母さん結構ゲームやるんで、ゲームに理解ありますよ。いっしょにゲームやりましょうよ」


「うーん……」


「来てくれたら、前に食べたがっていたチョコペンのホットケーキも作りますよ」


「じゃあ行く」


「たくさん約束出来ちゃいましたね。私の家で勉強とホットケーキ、中畑さんの家で卒業アルバム。卒業文集もありますか?」

 柏木はもうわくわくしてたまらないといった感じで、さっきからずっとニンマリしていた。


「俺の卒業文集、友達の親に誉められたよ。学年で一番良いって」


「ええー、読みたいです。どんなこと書いたんですか?」


「なんか適当に書いたから全然覚えてないなあ。たしか、ゲームから引っ張ってきて『人生は迷路だ』って書いて、五分くらいで書ききったんだけど、そしたら規定文字数の半分しか書くことがなくて。残り半分迷路書いて無理矢理埋めて、クラスで一番最初に提出したんだったような」


「絶対面白いやつですよそんなの。もう今日さっそく、中畑さんの家に行っても良いですか?」


「えー。なんて書いたか覚えてないからちょっと恐いんだけど」


()()()()()()()面白いんじゃないですか! 行きましょう行きましょう!」


 中畑は、どうか卒業文集に変なことが書いてありませんように、と祈った。

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