文化祭
「ただいまより、講堂で生徒会会長と副会長によるディベート『学校はバレンタインのチョコレート持ち込みを認めるべきか否か』を開催いたします。ご期待下さい。
なお、濡れても良い服装でいらして、水を口に含みながらご覧いただくと、より楽しんでいただけるかもしれないとのことです。最後まで我慢出来た方には生徒会から、文化祭で使える五百円分の金券が進呈されます」
「僕はバレンタインは学校でやるべきじゃないと思います。どう考えてもかかる金と手間がとんでもないですよ。学校はもっと有意義な事に金を使うべきです。生徒会の自己満足なんじゃないですか?」
と訴える中畑は、反対派と書かれたたすきを掛けている。
「いえ、決して自己満足ではありません。アンケートでも校内でのバレンタイン開催については生徒から強く支持されていて、『強く応援している』と『比較的応援している』が八割以上です。
校内で堂々と渡せるなら学校に対して後ろめたい気持ちもなくなるし、きっと素晴らしいイベントになります」
冷静に反論する柏木の肩には、賛成派のたすきがぶら下がっている。
「学校の中に禁止されているチョコレートを持ち込んで、それをコソコソ渡そうとするから後ろめたい気持ちになるのであって、放課後に一度チョコレートを取りに家に帰って、待ち合わせをしてからチョコレートを渡せば良いだけです」
「義理チョコまでそんな風に渡そうとしたら、ものすごく手間がかかります。義理チョコなら待ち合わせしてまでわざわざくれなくても、という人も多いでしょう。
それに、本命チョコだって非常に渡しにくくなります。学校だったらほとんど無言で渡して逃げてしまえるけど、学校が終わった後に待ち合わせをして渡す、となると恥ずかしくてなかなか勇気が出ないと思います。
普段デートに誘えないから年に一度のバレンタインに気持ちを託すのであって、バレンタインの日に学校の中で先生に隠れずにサッと渡せるという、この条件が揃っていることが大事なんです」
女子生徒から拍手が上がった。
「学校でのバレンタイン開催は、ハードルが高くて危険です。問題が多いからこそ、未だに多くの学校がチョコレートの持ち込みを禁止しているんですよ。大っぴらにやって問題がないようなら、最初からほとんどの学校が持ち込み自由にしています」
「それは他の学校の生徒会が、バレンタインにここまで力を入れていないからだと思います。再びアンケートのデータになりますが、生徒会のバレンタイン計画について、『かなり現実的な計画だと思う』『それなりに現実的な計画だと思う』と答えた方が合わせて七割以上です。生徒会の努力次第で実現は十分に可能だと、私は考えます」
「生徒会任せだと、何かアクシデントが起きた時に制御しきれませんよ。例えば、会長がプレッシャーに負けてバレンタイン間際に不登校になったらどうしますか? もう進行がめちゃくちゃになりますよ」
会長自身がそんなことを言い出したので、何人かの生徒が口に含んでいた水を吐いた。
「会長は絶対にそんな風に投げ出したりはしません。必ずやりきってくれると私は信じています」
「果たしてそうですかね? 会長はわりと無責任で無計画ですよ」
「確かに会長は、無責任で、無計画で、不真面目で、能天気で、面倒な事は全部副会長に頼るひっどい会長です。だけど、『他はどうでも良いけどバレンタインだけは成功させたい、信じてくれた投票者のためにも頑張るんだ』と、力強く言っていました。だから、他の企画は手を抜いても、バレンタインだけは必ず真面目にやります」
ここで、かなりの生徒が口から水を吹き出した。
「なんでそんなに一部分だけ信頼してるんですか。騙されてますよ。普段不真面目な人がたまに真面目なことを言うと本気っぽくなるやつで、当てになりませんよ」
「大丈夫です、会長はやる気がみなぎってますよ。なにしろ会長は自宅の近所の喫茶店の人にチョコアイスの作り方を熱心に聞いたりして、今からしっかり準備してますからね」
「それは言わないで下さいよ。バレンタイン前日に職員室の冷凍庫にチョコアイスを入れておいて、先生達を驚かせるんですから」
「それとですね、ありがたいことに生徒会の人数が増えたので、今の人数なら会長が不登校になってもバレンタインイベントは回せます。多いくらいなので会長が不登校になっても大丈夫です。
むしろいない方が成功しそうな気もします。生徒会室でも何もしないでボケっと人のこと見ててなんか掃除の邪魔なだけですし、たまに何か喋ったかと思うとスカートの裏地を見せてとか言ってきます」
この時点で既に全員が水を吹き出してしまい、ゴホゴホと複数の生徒がむせていた。口が自由になった男子生徒が会長をからかって、いよいよ騒がしくなってきた。
「それは衣替えの期間について考えてて、女子の夏服と冬服がどうなってるのか知りたかったんですよ! もう勘弁して下さいよ」
「それってギブアップですか? 私の勝ちで良いですか?」
「いやまだですよ。まだなんですけど、ちょっとアドリブとか苦手なんで、どうやってバレンタインの話に戻せば良いのか分からないんですよ」
「会長が無計画にこんな企画出すからですよ」
「何か作ったりするのが面倒だったんですよ」
「会長はいつも、楽をしようとして後で自分の首を絞めるんですよね」
「ちょ、ちょっと考えてるので待って待って」
と慌てながら中畑は耳を塞いだ。
「往生際が悪いんですよね会長は」
「えーっと、えー……。
――そうだ、バレンタインを大っぴらにやるとなると『〇〇さん俺にチョコくれない?』って聞いてくる男子に断りにくいですよ。断りやすいように持ち込み禁止にするべきです。バレンタインを開催するとセクハラ問題にも繋がります。実際、学校でのセクハラは大きな課題の一つですよ」
「私もセクハラは大嫌いです。それなのにスカートの裏地を見せてとか言われて、会長からのセクハラに困っています。そろそろ会長の悪行を先生にバラして会長を首にしてもらうつもりです」
「やっと話をバレンタインに戻したのにそっちに戻し直さないで下さいよ! そもそもバレンタインが嫌いと答えた人が一割もいるのに学校でバレンタインを派手にやること自体非常にナンセンスで――」
ここで、ベルがけたたましく鳴って中畑の言葉を遮った。
「さあここで第一回の投票に入ります。現時点で皆さんは会長副会長どちらの意見を支持しますか?
バレンタイン開催を支持するという人は赤側、しないという人は青側へ移動をして下さい。
――おおっと、殆どの人がバレンタインを支持するという姿勢! これは早くも決まったかー!?」




