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--扉--


あらすじ:姫様に追い出された。

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ボクの目の前でバタン勢いよく閉まった扉にガチャンと鍵が掛けられた音がして、満面の笑みの姫様の顔が消えた。伸ばした手がむなしく宙を掻いた。分厚い扉を薪の破片で叩いても返事は無くて、ただアンクス様達を探す魔族の声だけが廊下にまで聞こえて来ていた。


(なんだってんだ?)


一連の強引な「帰る支度をしてくるように」という命令に、ジルが『小さな内緒話』で呟いた。ボクが姫様と一緒に居たいと言いきれずにモタモタしている間に、カプリオも部屋の中に残したまま強引に魔王城の廊下へと追い出されてしまった。嫌われたのだろうか。


ずっしりと重たいものが胸にのしかかった。


(ごめんね。ジル。)


(うつむ)いて右手に持ったジルを見る。王宮でチョッカに巻き付けられた綺麗な布と占い師の旗のおかげで見栄えも良くなって、いつも杖のようにして持ち歩いている。


(なんがだ?)


(だって、帰れるかも知れないのに、帰りたくないって言っちゃったから。)


何事も無かったかのように疑問符を持って返すジルだけど、彼も魔王の城に好きで来たんじゃないんだ。ボクと一緒に来たのに自由に歩けないから、ずっと一緒に居るしか無いけれど、本当は帰りたかったかもしれない。自分のワガママで相談も無しに帰りたくないと答えてしまったんだ。


(ああ、その事だったら気にすんなよ。相棒。オレは魔族の変わった話も聞けて結構楽しんでるぜ。)


(そうなの?)


(あの姫様が人間の話に興味を持ったように、酒場の話に聞き耳を立てていたら色々な話が聞けてよ。)


後から聞いた話だと、酒場に残ったカプリオが話を(うなが)してくれているらしくて、魔族の暮らしぶりや、色々な伝承やおとぎ話を聞くことができたらしい。そしてみんなが眠った後に聞いた話

についてカプリオと盛り上がっていたのだそうだ。


(それに、少し気になることがあってな。)


ジルはそこで言葉を切ると、言い難そうにつづけた。


(魔族って魔道具作れるだろ?)


(そうだね。)


左腕の姫様にもらった白い腕輪を横目に見る。魔獣除けの魔道具の腕輪だと言っていた。使い続けるにはボクには魔力が足りなくて使いこなせそうにないけどね。他にも火を使わなくても煮炊きができる白い鍋も作ってもらった。どちらも人間の街では手に入れられない珍しい品物だ。


人間の街にも魔道具はあって、ボクのような一般市民が手に入れられるのは小さな火を起こす魔道具や飲み水が出る魔道具など単純な物しかない。火も水も魔法を使えば簡単に作れるから、街で暮らす分には必要が無い。値段も高いしね。


(魔族が魔道具を作るとは思っていなかったんだ。アイツ等の魔道具ならオレを人間に戻せる物も有るかもしれないと考えていたんだ。魔獣を寄せ付けない魔道具なんて聞いた事も無いぜ。)


ウルセブ様が作ったような魔獣の馬車や雷鳴の剣のようにすごい魔道具もある。でも、物語の中に出てくる夢みたいな魔道具の中にも魔獣を寄せ付けないなんて聞いた事が無い。骨の道具を作る事ができる魔族とは技術の進み方が違うんだろう。


(酒場でカプリオにもそれとなく探りを入れて貰っていたんだが見つからなくてな。そのうち魔族の魔道具を作るヤツに直接、話を聞いてみたいと思っていたんだ。)


(言ってくれれば良かったのに。)


ジルは今でこそ棒の姿になってしまったけど、元々は人間の商人だった。棒の姿に見慣れてしまっていたし、ジルも半ば人間の姿に戻ることを諦めていたけど、ボクの所に来たのは人間に戻れる可能性があるからだった。


でも、ボクは忘れていた。


ジルを元に戻すなんて事は忘れて、魔王城に来てからは自分の事しか考えていなかった。ジルが棒であることが当たり前すぎて頭から抜け落ちていたんだ。もっと時間のある時に言ってくれれば、慌てなくても良かったのに。


(悪い。どうやってオレの存在を隠したままで話を聞き出そうかと考えていたら、なかなか切り出すタイミングが無くってな。もうしばらく城に居る事になりそうだったし。アンクス達が突然来るなんて思っていなかったさ)


ボクの非難の声にジルは言い訳がましい事をか細い声で返される。けど、ボクがしっかりと考えていれば良かったんだ。まぁ、ジルが悪い訳じゃないし魔王城に残る理由が増えてボクは嬉しくなった。


(それじゃぁ、もう少し残っていた方が良いよね。)


追い出された寂しさはあったけど、残る方向で考えてもよさそうだ。姫様もアンベワリィも魔道具の鍋を作ってもらっていたから、彼女たちに聞けば魔道具を作った人の事がすぐに分かるだろう。後は、どうやって説明するかは、あとでゆっくりとジルと一緒に考えれば良いよね。


(ああ、それに、帰れって言われてもなぁ。)


(まだ何か有るの?)


帰れと簡単に言われても準備には時間がかかる。鎧とマントに白い鍋。ボクの持っている物は少ないけれど、いく日もかかる森を抜ける間の食べ物だって用意しないとね。けど、ジルはもっと別な事が気にかかっているようだった。


(いや、アンクス達って帰れるのかな。)


(魔王に追い出されたら帰るしかないんじゃないの?)


姫様はアンクス様達を追い払うだけにして、人間の街に返れるようにしてもらうと言っていた。魔王の片割れであるカガラシィもそれを黙って聞いていたんだからできるのかもしれない。どうやって追い出すか全く想像がつかないけど。


(アイツ等だってこんな遠い所までわざわざやって来たんだろ。いくら魔王に追い返されたと言っても、素直に帰れると思うか?きっとまた王宮からパレードをして村ごとに宴会をやって来たんだぜ。「魔王を倒しに行きます!」って喧伝(けんでん)しながらな。だったら、アイツ等も魔王を倒すまで帰れないんじゃないのか?)


魔王の森を抜けて無事に街に戻れても王宮にも街でもアンクス様の事を知らない人は居ない。魔王を倒せないで帰ってきた事は誰もがすぐに知ることになるだろう。そして、魔王を倒せなかった勇者としてずっと後ろ指を差されることになってしまう。


ボクが、父さんの跡を継げなかった時のように。


(まぁ、考えても仕方ねぇさ。姫様の部屋も追い出されてしまったし食堂に戻ろうぜ。)


帰る支度をするにしろ城に残るにしても、開かない扉の前に立っていても変わらない。ボクはようやく姫様の部屋の扉から離れて長い廊下を歩き始めた。アンクス様達が上手くどこかに隠れられたのか城の騒ぎは落ち着いてきたようだった。



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次回:長い『廊下』




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