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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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隊列

--隊列--


あらすじ:争いが起こりそうだ。

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地図を探すために呼ばれてから数日後、セナ達は長い隊列を組んで魔王の城を出て行った。


鎧を着込み白く尖った先がいくつもある槍を持ち、自分の魔獣に乗った魔族達が行列となり続いた。街からは歓声と激励の言葉が響き、城からは魔王と姫様がそれを見送っていた。


それからは城の食堂から魔族が減って、酒の夜の喧騒は火が消えたかのように静まった。夜中をずっと起きていなきゃならないジルが不満気だ。動けずにカプリオと話しているだけだと話題が尽きてくるのだとか。


白いカーテンの揺れる部屋に呼ばれると、姫様は白い魔獣と黒い魔獣をなでながら呟いた。


姫様もセナ達が戦に出るにあたって忙しかったのか、数日の間が空いた。あちらこちらで人手が減っているので姫様も忙しかったのだろう。


「ごめんね。しばらく人の街に送って行けそうにないわ。」


「仕方が無いよ。」


そう、仕方がない。城を守る人員を残して、多くの魔族が街を守るために出払ったんだ。セナの話だと争いは有利に進められそうだったけど、簡易的でも素早く砦を作るために兵士以外にも手伝える人手を連れて行っている。そして、それらの人のためにご飯を作る人たちも。


アンベワリィは、お城の人たちのご飯を作るために残ったけど、厨房からも人手が減っているので忙しくなったとボヤいていたし、ボクも皿洗いなんかの手伝いにかりだされた。浄化の魔法を封じられているから、水で洗わなきゃならないのが嫌になる。


手が荒れたのでに治癒の魔法をかける。


魔族の人たちも手が荒れるのだろうか。それとも、荒れないのだろうか。アンベワリィに聞くと、「慣れだよ。慣れ。そのうち手が丈夫になってくれるさ。」と言った。洗剤が荒れる元になるらしく、薬草を磨り潰したものを優しく塗ってくれた。


人手が少なくなっているから、別に急ぎではない『カプリオの居た、すでに誰も居ない廃村に人を派遣する。』なんて仕事をする人もいない。片手間に済む仕事じゃなく、往復とすれば数日と日数がかかる。無理に強行すれば姫様が怒られるだろう。


ボクを送ってくれるために魔王がワザワザ作ってくれた仕事だしね。


それに、ボクも急いでいない。どころか、帰りたいとも思っていない。戻ったら王宮で図書館の仕事に戻るか、王妃様の仕事が待っているのか。


それとも、ボクは死んだ事になっているかも知れない。


アンクス様達といっしょに王宮に帰る事ができなかったんだ。アンクス様達はボクを何と言って王宮に報告したのだろう。行方不明?死んだ?


その答えは解らないけど、どちらにしても、ボクだったら死んだと思ってしまうだろう。魔王の森に残されて行方不明になって生きているとは思えない。


そう考えれば、人間の街に戻っても王宮での仕事が無くなっていて、再び路地裏で売れない占い師をすることになるかもしれない。マッテーナさんの伝手で資料整理の仕事に再び就ければ良いのだけど。



結局、その日は姫様とセナ達の話をしていた。遠くまで遠征に行った彼らを心配しているのはボクだけじゃ無かった。


話しの途中で、遠くから警笛が鳴り緊張が走ったけど、塩の湖で騒ぎが有ったと知ってホッとする。少なくとも姫様の部屋まで誰かが来ることは無いみたいだ。何人か兵士を派遣すれば収まるらしい。黒い魔獣、カガラシィが窓の外を眺めていた。


物騒な事ばかりなので気晴らしに物語の続きを話そうかとしたけど断られた。


物語も母さんに寝る時に聞かせてもらった物と、王宮で読んだ物と、祭りで聞いた物だから残り少ない。物語が無くなったら姫様に呼んで貰える事も少なくなるのだろうか。


「あら、そんな事は無いわよ。」


姫様はボクの内心を見透かしたように笑った。


「何も考えないで相手ができるヒョーリは話しやすいですもの。」


姫様は白い。そして小さい。ボクよりも少し小さい。アンベワリィ以外の魔族の女の人と比べても特別に小さいんだ。それは、姫様が不完全な子という事を表しているのだそうだ。


姫様はアルビノという生まれた時から体の色を持てなかった魔族で、その中でも体も大きくなれず毛も少ない不完全な生き物。奇形だと言う。


「私の姿を何も思わずに接してくれる人って少ないのよね。」


不完全な子として(さげす)まれるか、特別な娘として(あわれ)と思われるか。どちらにしろ、他の人とは違った目で見られるのだそうだ。ところがボクは魔族自体を奇妙な生き物と思っているから、姫様を見ても少し違うとしか思っている気配しかないのだそうだ。


「姫様は特別に美しいと思います。」


精いっぱいの気持ちを込めて言うと顔がこわばった。最初は女神様とさえ思ったのだ。お風呂の熱で朦朧(もうろう)と黒くなる意識の中にぽっかりと浮かんだ白い女神。だから、ボクだって他の魔族の人たちと同じように姫様を特別視している。そう伝えようと思ったら姫様に大笑いされた。


「ふ、うふふっふふ。ははっ。そんな事、言われたの初めてだわ。奇妙なカタチは忌避されて、気持ちが悪いとさえ言われるわ。私の異様に赤い瞳が怖くないの?」


意識を無くして暴れてる魔族が赤い瞳になるのだそうだ。赤い瞳は狂気に触れた瞳なのだそうだ。グリコマ様の伝説に出てきた魔族だって赤い目を光らせていたって決まって語られる。


「魔族って赤い目をしている人が普通に居ると思っていた。だって、魔族が出てくる物語の中には赤い目をした魔族達がたくさん出て来たもの。」


魔族の顔をまじまじと見る事は少ないんだ。だって怖いから。だから話を聞いても魔族の中には赤い瞳の人も大勢いると思っていた。姫様の瞳は美しくて、そんな悩みを抱えているとは思ってもみなかった。


「お父様以外に、こんな話ができるとは思わなかったわ。」


笑いながら赤い瞳に浮いた涙を指でぬぐいながら姫様は言った。その仕草がかわいい。


「そう言えば、カガラシィをいつも連れているよね。」


黒い魔獣、カガラシィは魔王の魔獣だと言っていた。なら、魔王といっしょに居るのが正しいんじゃないのかな。


「ヒトガタのお父様には会ったのよね。あの大きな手で魔獣の世話ができると思う?」


魔王と会った時の事を思い出して納得した。魔王の顔はボクの背丈ほどもあった。手も同じサイズだとすると、確かに魔獣の世話をするのには向かない。手のひらに乗った人形の世話をするようなものだ。毛を()くクシも特別な物を作らなきゃならない。


「だから姫様がカガラシィの世話をしているんだ。」


「そう言う事よ。」


「でも、そうしたら、魔王様も奇形って事じゃないのかな?」


白くて小さい姫様が奇形なら、大きくて角も毛も多かった魔王も奇形だという事になる。


「お父様は望んであのカタチになられたの。大昔に起きた屍の民(しかばねのたみ)との戦争の時に、みんなを守るために。」


だから偉いのよ。と胸を張った姿がかわいらしかった。



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次回:新章:勇者様を殴りたかったんだ。/魔王城の『人間』


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